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インフラ美学のすすめ

2023.02.21

Updated by WirelessWire News編集部 on February 21, 2023, 06:47 am JST

インフラは老朽化や故障によって初めて可視化する

科学技術社会学(STS)の分野において、目に見えて派手に展開する新興テクノロジーだけでなく、その背後に隠れて地道に社会を支えているさまざまなテクノロジー、すなわちインフラ技術の働きにも目を向けようと提唱したのは、スター(S.L. Star)である。彼女の念頭にあったのは、バイオ系ラボでその重要性が急速に増してきたデータベースのような知識インフラであるが、その視点はその後のインフラ研究にも受け継がれている。

スターはインフラの特徴としていくつかの点を挙げたが、特に重要なのは、インフラはそれが機能する限り「不可視」(invisible)であり、老朽化や故障によって初めて「可視」化(visible)するという指摘である。実際水道管や電線は、それが詰まったり切れたりして不具合が生じない限り、住民が心配して夜も眠れないということは考えにくい。安全や平和同様、インフラもそれが順調に機能している限り、維持、補修の関係者以外にはその存在があまり目に見えない。その意味で、「不可視」と呼んだのである。

インフラはそもそも「見えない」?

確かにインフラをその機能面から考えると、可視/不可視とはそれがうまく働いているか、否かという点と同義になる。しかしこの言葉をその視覚的な意味から見なおしてみると、また違った問題が生じるのも事実である。例えば水道管はたいてい地下に埋まっていて、日常的にその姿を見ることはできないが、ガスタンクや給水塔はその雄姿を公衆の面前に晒している。ではこうした意味での「可視/不可視」については、どのように考えたらいいのであろうか。

ここで試しにインフラという言葉の語源を見てみると、これには諸説ある。一つの説は、フランス語由来の言葉で、もともとは道路を支える「表面下」(infra)の「構造」(structure)を意味するという。これが正しいとすると、原義でも物理的には見えないという点がポイントのようだ。それが他分野に拡張されてきたのだが、これを「下部/構造」と訳すと、マルクス主義の用語に変貌する。

いうまでもなくマルクス主義では、経済、特にその生産様式が、他の社会要素を決定するとされるが、この前半が下部構造、すなわちインフラ・ストラクチャーである。実際、ドイツ語のUnterbauを英語でinfrastructureと訳している場合もあり、これもどちらかと言えば、表面、つまり法や芸術といった上部構造から隠れた、しかし決定的な力をもつ、というニュアンスがある。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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