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人間の自然知能から着想した新たな推論と計算

New hypothesis and calculation inspired by the natural intelligence of humans

2023.05.31

Updated by WirelessWire News編集部 on May 31, 2023, 15:54 pm JST

生物学や医学という学問分野は、定式化が難しく、個々の事例を重ね、知識を積み上げる分野。予想外の新事実が見い出されれば、辞典に一項目が増える。私個人の見解ながら、生物学・医学には再現性よりは多様性を貴ぶ専門家が多いと感じてきた。

慶応大学医学部拡張知能医学講座・教授である桜田一洋(さくらだかずひろ)先生は、生物学・医学の第一人者でありながら、生命医科学の課題の一つが「論文の結論が再現しない事」だと看破する。その理由は、生命医科学研究で高く評価される論文成果は、シンプルな因果律で説明される結果であり、その因果律はある特定の条件下でしか顔を出さないからだという。

桜田先生は、生物学には新しい理論が必要だと仰る。新しい理論とは何か? それは「生物・生命の複雑さを受け入れる」「簡便化しない」視点に立ったものだそうだ。今話題のAIについてもこの立場を貫き、「自然知能」とは何か、それに対して我々人類がこれから手にするであろう「拡張知能」とは何かについて語る。

そして、複雑極まりない脳の働きを簡素にモデル化してコンピュータに載せる技術「AI」に欠落するポイントに正面から向き合い、「知能」と「知性」のバランスを重視する。知能とは、予測可能な範囲に適用される頭脳の働きで、限定された明確に定められた目標の枠内で働くものであり、物事を把握し、処理し、再秩序化し、適応するものなので計算可能だ。ただし、知能には、見たいものを見る(望ましい正解を求める)特性があり、見たいものを見るために事実をねつ造し、今我々がChatGPTなどの生成型AIで体験している様々な問題に行きつく。

今後、人の活動を助けるために必要なのは、知能と知性を備えた「拡張知能」だと言う。今のAIに欠けているのは「知性」。それは計算できるのか? その先にある「心」は創り出せるのだろうか?

桜田先生は、「知能」と「知性」を備えた「拡張知能」実現の鍵は「熱力学」にあると断言し、「熱力学コンピュータ」を提唱する。自然知能に近づこうとするAI技術は今後どのように発展していくのか、熱力学を使うためのハードウエアはどうあるべきなのか。人間の自然知能から学んだ技術の将来を展望し議論する。(中山)

6月7日(水曜日)19:30開始
人間の自然知能から着想した新たな推論と計算


桜田 一洋(さくらだ・かずひろ)
慶應義塾大学・医学部 石井・石橋記念講座(拡張知能医学)教授

大阪大学大学院理学研究科修士課程修了(生理学専攻)。1988年協和発酵工業株式会社東京研究所に研究員として入所。2000年同研究所主任研究員。2004年日本シエーリング株式会社リサーチセンターセンター長。2007年バイエル薬品株式会社執行役員、神戸リサーチセンター長。2008年iZumi Bio, Inc.執行役員、最高科学担当責任者。同年株式会社ソニーコンピューターサイエンス研究所シニアリサーチャー。2016年 理化学研究所 医科学イノベーションハブ推進プログラム 副プログラムディレクターとなる。2021年より慶応大学医学部拡張知能医学講座教授として学生の指導にも携わり現在に至る。最新著書『亜種の起源 苦しみは波のように』(幻冬舎、2020)で、「心」をサイエンスで捉える生命論を展開する注目の研究者。

・日程:2023年6月7日(水曜)19:30から45分間が講義、その後、参加自由の雑談になります。Zoomミーティング形式で実施します。
・「シュレディンガーの水曜日」は2023年5月から招待制に移行しました。参加希望の方は下記の4名、もしくは過去に「シュレディンガーの水曜日」で話題提供いただいた方々にお問い合わせください。研究者、研究者OB、理工系の学部生・大学院生の方々の参加をお待ちしております。


「シュレディンガーの水曜日」は、水曜日19時半に開講するサイエンスカフェです。毎週、国内最高レベルの研究者に最先端の知見をご披露いただきます。下記の4人のレギュラーコメンテータが運営しています。

原正彦(メインコメンテータ、MC):ドイツ・アーヘン工科大学 シニア・フェロー原正彦(メインコメンテータ、MC):ドイツ・アーヘン工科大学 シニア・フェロー
1980年東京工業大学・有機材料工学科卒業、83年修士修了、88年工学博士。81年から82年まで英国・マンチェスター大学・物理学科に留学。85年4月から理化学研究所の高分子化学研究室研究員。分子素子、エキゾチックナノ材料、局所時空間機能、創発機能、揺律機能などの研究チームを主管、さらに理研-HYU連携研究センター長(韓国ソウル)、連携研究部門長を歴任。2003年4月から東京工業大学教授。現在はアーヘン工科大学シニア・フェロー、東京工業大学特別研究員、熊本大学大学院先導機構客員教授、ロンドン芸術大学客員研究員を務める。

中山知信(レギュラーコメンテータ):物質・材料研究機構(NIMS)グローバル中核部門長兼広報室長中山知信(レギュラーコメンテータ):物質・材料研究機構(NIMS)グローバル中核部門長兼広報室長
1988年東京工業大学大学院・材料科学専攻修士修了。91年、理化学研究所・表面界面工学研究室に移籍し、原子操作技術、ナノ物性研究に従事。2002年、物質・材料研究機構(NIMS)に異動。08年からは、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)PI、同拠点副拠点長および事務部門長、若手国際研究センター副センター長を務める。現在は、NIMSグローバル中核部門長と広報室長を兼務して研究の活性化に力を入れている。

澤田莉沙(司会進行およびMC):物質・材料研究機構(NIMS)広報部門澤田莉沙(司会進行およびMC):物質・材料研究機構(NIMS)広報部門
大阪大学大学院生命機能研究科にて博士(理学)を取得。生命機能のアウトリーチ活動のため水族館で勤務した後、分野の垣根を超えた科学全般の普及活動に従事。2020年より物質・材料研究機構にて材料分野の広報活動を担当。個人活動として国内外の科学コミュニケーション活動を網羅的に調査し、コミュニティ同士のゆるい繋がりや情報共有ネットワークの構築を模索中。科学コミュニケーション研究会 運営メンバー。

竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人
日経BP社でのインターネット事業開発の経験を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。10年にWirelessWireNewsを創刊。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997-2003年)、独立行政法人情報処理推進機構・AI社会実装推進委員(2017年)、編著に『ネットコミュニティビジネス入門』(日経BP社)、『モビリティと人の未来 自動運転は人を幸せにするか』(平凡社)、近著に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス/ミシマ社)、など。

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