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リモートワーク増加で経済的格差が拡大する

Remote work increases economic disparity

2023.06.28

Updated by Mayumi Tanimoto on June 28, 2023, 12:00 pm JST

コロナ禍でリモートワークが一気に広がりましたが、イギリスではコロナ禍前からリモートワークが進んでいたものの、さらなる増加によって国全体は豊かになったのか、ということが議論になっています。

これは、コロナ禍前にはリモートワークが可能な知識産業が増えることで、経済全体が底上げされて、国全体が豊かになる、という主張が強かったためです。これは日本でも目にする論調ですが、実態は理論通りにはなっていません。

2019年1月から12月にかけて、イギリスの労働力の約10人に1人、約12%が自宅で週に1日以上働き、5%が主に自宅で働いていたと報告しています。

パンデミック中には、この数値は大幅に増加します。2020年6月には、労働者の約半数が週に少なくとも1日は自宅で働いており、38%が自宅だけで働いていました。

行動制限などの緩和後には若干減りますが、コロナ禍前よりも高いままです。2022年9月には22%が自宅で1日以上働き、13%が自宅のみで働いていました。

またコロナ禍以前は、日本よりもリモートワークが進んでいたとはいうものの一般的ではなく、イギリス全体でリモートワークが可能な求人は全体の5%未満でした。

しかし、パンデミック以降は、リモートワークの可能性を持つ求人の割合が全ての都市で増加し、特に知識産業が集中する南部の都市や他の大都市では、リモートワーク求人が大幅に増加しています。

求人が最も多かったのは、北部の古都ヨークの隣りにあるリーズです。次いでブリストルとスコットランドのエジンバラです。ロンドンは9番目に高い割合でした。一方、最も少なかったのはバーケンヘッドで、その後にバーンズリー、マンスフィールド、バーンリーが続きます。

知識産業の割合の高さとリモートワークの多さには明確な相関性があり、求人の殆どが南部に集中しています。さらにこれは、リモートワークが可能な仕事は経済全体から見ると多くはない、ということと関係があります。知識産業が欧州の南部よりも割合の高いイギリスですら、リモートワークが可能な仕事は全体の約28%で、金融や知識集約型業種なため南部の大都市に偏っています。

ところが、リモートワークが可能な業種でも、コロナ禍後は出社が必須になっており、ハイブリッドワーキングが主流になっています。リモートワークのみが可能なのは20%に過ぎません。64%の人は少なくとも週に一回は出社が必須です。頻度は少なくても出社が必須なので、金融や知識集約型業種の人も結局通勤圏に住むことになるので、特定の都市に集まることになります。

実際、これらの産業が集まっている都市は不動産価格が上がっていますし、進学率が高い学校の入学競争も厳しくなっています。リモートワークの普及でむしろ人の集約が進んでいるという予想とは逆の現象が起きているわけです。

エンリコ・モレッティの「年収は『住むところ』で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学」では、イノベーション産業は特定都市に集中ししていると指摘しています。また「イノベーション産業の乗数効果」という観点からは、イノベーション系の仕事1件に対し、地元のサービス業の雇用が5件増え、イノベーティブな都市ではすべての業種の賃金が上がる、と指摘しています。これがコロナ禍後はさらに加速しているわけです。

イギリス政府は、国の経済全体を底上げするためにはリモートワークを推進し、従来は知識集約型産業があまり育たなかった都市でも仕事が可能になるので全体が豊かになると推測していましたが、実態は予想と反対の方向に進んでいるようです。製造業が衰退した北部はさらに貧しくなり、南部はさらに豊かになっているわけです。

これを日本に置き換えた場合、東京と通勤圏にはさらに富が集中し、地方は過疎化が進み衰退がスピードアップするでしょう。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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