ピタゴラスやプラトンの昔から、哲学者たちは身体を、どちらかといえば自分たちを制限するものだと考えてきた。両者の正統な継承者であるデカルトも、思考実験によって身体を存在しないと見なした後、心（自分）だけがそれだけで存在しているという結論に達した。

一方で、現象学や実存思想など、自分の身体を存在基盤ととらえる現代哲学もある。心の科学に目を向ければ、人間の心を身体抜きで実現しようとして「古き良きAI」から身体性を重視する最近のものまで多様である。

現在では、メタバースなどに象徴されるように、バーチャル身体を操ってみたり、自分の身体をディジタル的に拡張したり（ディジタル身体と物理身体の往き来）と、身体の物理的制約を超えていこうとする技術が開花しつつある。ディジタル・テクノロジーによってわれわれが脱身体化した彼方には、ユートピアが広がっているのだろうか。

ガチャあるいは運と偶然

「親ガチャ」。これは、人の人生が自分にはコントロールできない偶然に大きく左右されていることを残酷に表現した言葉である。親だけではない。どんな国や地域に生まれたか、どの時代を生きることになったか、どのような文化的背景を持っているか、能力、身体的特徴、性別、など。人間が最初に得るものは、ほとんどすべて偶然に依っているといっても過言ではない。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です（この記事の全文を読む）。
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