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September 8, 2026
中村 航 wataru_nakamura
1985年生まれ。福岡県福岡市出身。翻訳者。テクノロジーやファッション、伝統工芸、通信、ゲームなどの分野の翻訳・校正に携わる。WirelessWire Newsでは、主に5G、セキュリティ、DXなどの話題に関連する海外ニュースの収集や記事執筆を担当。趣味は海外旅行とボードゲーム。最近はMリーグとAmong Usに熱中。
フィジカルAIを、現実世界を認識し、判断し、その結果を実際の行動として実行するAIだと捉えるなら、その身体は必ずしも人型ロボットである必要はない。建設現場で土を掘り、ならし、トラックに積み込むショベルカーであっても、フィジカルAIの有力な舞台になり得る。
スイスのGravis Robotics(以下、Gravis)は2026年8月17日、ソフトバンクから2億ドル(約300億円)のシリーズA投資を受けたと発表した。同社はスイス連邦工科大学チューリヒ校(ETH Zurich)から生まれたスタートアップで、既存の建設機械にセンサーやAIソフトウェアを後付けし、自律的に動けるロボットへ変える技術を開発している。Inc.によれば、今回の投資後の評価額は10億ドルに達し、Gravisはユニコーン企業になったという。
Gravisの特徴は、建設会社にまったく新しいロボットを買わせるのではなく、すでに使っている重機を賢くする点にある。同社の「Gravis Rack」は、カメラ、LiDAR、GNSS、エッジコンピューティングなどを組み合わせた後付け型の制御キットだ。Caterpillar、John Deere、Volvo、日立建機、JCB、ヤンマーなど、複数メーカーの機械に対応し、同じ基本ソフトウェアで異なるサイズの重機を動かせるという。
建設現場は、工場以上にその状況を予測しにくい。土は硬かったり柔らかかったりし、地面には傾斜があり、人やほかの機械も近くを動く。地下には配管やケーブルが埋まっていることもある。Gravisは、カメラやセンサーで周囲を把握するだけでなく、エンジン負荷や油圧の抵抗など、機械そのものから得られる情報も読み取る。熟練オペレーターが音や振動、手応えから土の状態を感じ取るように、AIにも重機と地面の関係を理解させようとしているわけだ。
Gravisのシステムは、いきなり重機を完全自律で動かすことだけを目指しているわけではない。Gravis Copilotでは、操縦者が運転席に残ったまま、精密な作業や危険検知の支援を受ける。作業によっては遠隔操作や自律運転も想定されており、将来的には一人の操作者が複数の自律重機を監督することも視野に入れている。同社によれば、すでに商用建設現場での導入が進んでおり、欧州、米国、中南米、アジアに展開している。
以前の記事で紹介したMowitoも、既存の産業用ロボットアームを改造せず、人間の実演から新しい作業を学ばせるソフトウェアを開発していた。Gravisも発想としては近い。違うのは、対象が工場のロボットアームではなく、建設現場で使われるショベルカーなどの重機である点だ。フィジカルAIは、新しいロボットを一から作るだけでなく、すでに現場にある機械へ知能を載せる形でも広がり始めている。
建設現場で動くAIには、高い安全性と信頼性が求められる。地面を掘る重機は、失敗すれば人や設備に大きな被害を与えかねない。Gravisのアプローチに現実味があるのは、完全自律を急ぐのではなく、操縦支援や遠隔操作を含めて段階的に現場へ入ろうとしているからだ。
(中村 航/翻訳家)
参照
リックテレコム『フィジカルAIの教科書』
Gravis Robotics: Reshaping the Physical World
ETH Zurich: 200 million for autonomous excavators
Inc.: SoftBank Is Investing $200 Million in Gravis Robotics
Construction Dive: Gravis Robotics raises $200M