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イスラエルへの攻撃から学ぶ教訓

Importance of the analogue

2023.10.28

Updated by Mayumi Tanimoto on October 28, 2023, 14:18 pm JST

10月7日にハマスの武装勢力は、ガザ地区の国境のフェンスを突破し、攻撃を開始しましたが、世界最強と言われるイスラエルの諜報機関がなぜ今回の攻撃を予期できなかったかが注目を集めています。

前英国情報局秘密情報部(Secret Intelligence Service:SIS 通称MI6)長官であるアレックス・ヤンガー卿がBBC Radio 4のThe Today Podcastで語った指摘が興味深いのです。イスラエルの情報機関が危険を察知できなかった主要な理由は2つで、まず第一に、最も大きな失敗は想像力の不足です。突発的な攻撃を予期できなかった状況は、アメリカが攻撃された9/11に似たものであったといいます。

9/11では、アメリカ国籍を持ち、アメリカに居住する一般市民に偽装したテロリストが数年間に渡って綿密な準備を行いましたが、これはアメリカ政府が全く予期していない攻撃であり、現実的ではないと思われていた手法でした。

今回のガザ地区の攻撃も、イスラエルはイスラエル国防軍(IDF)のそれまでの展開によって、ガザ地区からのハマスからの脅威は沈静化しているという仮定があったと指摘されています。油断していたところで突然奇襲です。イスラエルでさえ抜けがあったわけです。攻撃を示唆するデータはおそらく存在し、後から振り返ればそうだろうと思われるものであっても、イスラエル側は正常バイアスにとらわれて危機を察知できなかったのだと仮定していると述べています。

次に、イスラエル側が安全保障に関して情報システムに過度に依存していた可能性も指摘されています。ハマス側は攻撃計画の作成や実行に関して、デジタル機器や情報通信システムを極力使用せず、口頭、紙、ジェスチャーなどといった大変原始的な手法でコミュニケーションを取ってたために、イスラエル側の諜報が兆候をつかめなかったのだといいます。

これはデジタル社会の現在の落とし穴で、イスラエルがミサイル追撃システムであるアイアン・ドームや国境のセンサー等、デジタル機器に過度に依存していたようです。技術は人間の洞察と並行して使用されなければ力を発揮できず、敵の「意図」を探るのには向いておらず、心理的に安心しすぎてしまうという点です。

つまり、アナログに勝るものはなく、道具に頼るのではなく、常に敵の心理を想像し、来るべき攻撃に備えよ、ということです。

安全保障だけではなく、社内のセキュリティ対策やイベントでの観客の安全確保、学校や保育所での自動の安全保護などに、最近はセンサーやカメラ、AIが多用され「道具を導入すること」が対策だと思ってしまうことが多いのですが、それが大きな失敗に繋がっている点も認識するべきでしょう。

例えば社内セキュリティでいくらツールを入れても、内部の人間が反抗に及んだ場合は防ぎようがありません。特権アカウントを持っている担当者が首謀者である場合は意外とあります。

イベントの将棋倒し事件を防ぐのは、監視カメラやセンサーでは不十分で、お客さんを警備員や警官が目視して、実際に動かすことです。

またこれは欧州で顕著なのですが、町中に膨大な数の監視カメラがあっても、犯罪者はカメラを破壊したり、顔を隠すために全く抑止力になっていないことがよくあります。

何でもスマホやPCで処理する仕組みにしていた場合、通信事故、停電、故障、盗難の場合に命に関わる情報が取り出せなかったりします。例えば「お薬手帳」の電子化は典型的です。電子化していたら便利な半面、スマホの故障や災害時には確認ができなくなります。

今一度、私生活もビジネスも、道具に頼りすぎていないかどうか、よく考えてみる必要があるでしょう。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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