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「ミリ波×絶滅動物」が魅せる恐竜時代の再現体験

2023.10.30

Updated by Naohisa Iwamoto on October 30, 2023, 06:25 am JST

東京スカイツリーに恐竜が現れる--。本当にそんなことが起きたら大変な事態になってしまうが、2023年10月14日、15日の東京ソラマチのスカイアリーナでは絶滅動物との仮想的な出会いを体験できた。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などを融合したXR(クロスリアリティ)テクノロジーを、5Gの高速大容量通信と組み合わせて実現した「再現体験」だ(10月13日のプレビューで取材)。

ティラノサウルスやトリケラトプス、マンモスといった絶滅動物と出会えたのは、NTTドコモが実施した「XR絶滅動物園」でのこと。もちろん現実の世界で見えるのではなく、スマートフォンやARヘッドセットの上での再現である。高精細な動画や触覚を5Gの基盤を使って通信することで、絶滅動物と出会う体験を創出した。

▼ミリ波対応のスマートフォンを端末としてXR絶滅動物園を体験

体験は3つ用意されていた。「目撃せよ!ティラノサウルスvsトリケラトプス AR観戦」「体感せよ!恐竜を触ろう タッチトリケラトプス」「救出せよ!タイムスリップレスキュー マンモス救出大作成」である。東京スカイツリーがある東京ソラマチの4階にあるスカイアリーナの特設会場が舞台で、スカイアリーナを見下ろす東京ソラマチのビル屋上に5G基地局が設置されていた。通信には主に28GHz帯の「ミリ波」を利用し、すべてのネットワークに5Gの技術を用いるSA(スタンドアロン)方式を採用している。ミリ波により5Gの高速大容量の特徴を余すところなく発揮できる構成で臨んだイベントというわけだ。

「目撃せよ!ティラノサウルスvsトリケラトプス AR観戦」では、端末として用いるスマートフォンの画面上に、カメラで撮影したスカイアリーナの現在の映像とティラノサウルスとトリケラトプスの2大恐竜が重ねて表示される。東京スカイツリーを背景にティラノサウルスとトリケラトプスがところ狭しと走り回り、壮絶な戦いを繰り広げる。この体験では、ミリ波の高速通信の性能が生かされている。CG(コンピューターグラフィックス)によるティラノサウルスとトリケラトプスの精細で迫力のある画像は、体験ごとにスマートフォンのARアプリにダウンロードして使う。NTTドコモ CSO(チーフスタンダーダイゼーションオフィサー) コーポレートエバンジェリストの中村武宏氏は、「CGの容量は約200Mバイトと大容量で、LTEやLTEで利用していた周波数の5G転用ではダウンロードに時間がかかってしまう。高速性に優れるsub6やミリ波の効果が体感できる」と説明する。

「体感せよ!恐竜を触ろう タッチトリケラトプス」では、寝ているトリケラトプスの皮膚や角などを撫でる感触を、最新テクノロジーを使って体験できる。参加者は半球形の装置を手に握り、高精細映像で表示されたトリケラトプスの皮膚や肌を、画面の指示に従って撫でるように動かす。すると、皮膚ではゴツゴツした、角は少しツルツルしたような感触が手に伝わる。高精細な映像をミリ波により伝送しながら、XRによる触覚体験を同時に行うことで、視覚と聴覚、触覚を使った全身体験ができる。この体験ではNTTドコモの触覚技術である「FEEL TECH」を利用した人間拡張基盤を使い、トリケラトプスの皮膚や肌の感触を再現した。

▼トリケラトプスの肌に触れる体験を「FEEL TECH」技術で提供

「救出せよ!タイムスリップレスキュー マンモス救出大作成」では、氷に閉ざされてしまったマンモスを、古代人を想定した複数の体験者が救出する。石や槍を投げて氷を砕き、マンモスを氷の山から復活させる共同作業的なゲームだ。複数の参加者が同時に氷に石や槍を投げる作業をするため、クラウドレンダリングにより高精細なCGをリアルタイムに作成して各端末に伝送する必要がある。「データ量は30M~50Mbps程度なので、参加者が1人ならばSub6でも対応できる。しかしデモは最大10数人までが同時に体験するため、ミリ波を使った大容量通信の性能が不可欠になる」(中村氏)。デモでは、スマートフォンを端末に使うケースと、ARヘッドセットを使うケースが用意されていて、いずれも眼の前にそびえる巨大な氷の塊に対して参加者が協力して石や槍を投げ、マンモスを救い出す体験ができた。

▼参加者が協力して仮想的な石や槍を投げることで「氷を砕いて」マンモスを救出

現状の5Gは、一般ユーザーにとってはスマートフォンの画面の1つのピクトになっている感もある。Sub6や4G LTEから周波数帯を置き換えた5Gは、エリアの整備には有効でも5Gの特性を体感することは難しいためだ。絶滅動物との出会いの体験にミリ波を用いるこうした一般向けのイベントの開催は、ミリ波の特性と5Gの効用を広く知らしめる1つのアプローチとして期待できそうだ。

[修正履歴]2023/10/31 9:50
「目撃せよ!ティラノサウルスvsトリケラトプス AR観戦」のNTTドコモ中村氏のコメントを修正しました。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。