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トラフィック増加対応で5Gのミリ波に期待、国内でローカル5Gの実運用も始まる――エリクソン

2023.11.26

Updated by Naohisa Iwamoto on November 26, 2023, 06:25 am JST

「5Gは2023年末に15億の端末が接続し、人口の48%が5Gでカバーされる。5Gのイノベーションは素晴らしいものになっている」。こう語るのはエリクソン・ジャパン代表取締役社長のルカ・オルシニ氏だ。同社が2023年11月に開催した「エリクソン・フォーラム2023」でのことである。5Gの商用ネットワークは世界で265に達し、5G技術だけで構築したSA(スタンドアロン)型のネットワークも45に達する。その中でもエリクソンは5Gネットワークのうち155件、SAのうちの26件を占めると説明する。

同じく代表取締役社長の野崎 哲氏は、日本の5Gについて、「FDDの既存周波数、TDDのSub6、ミリ波でネットワークが構成され、順調なのかなと考えている。5G加入数は7500万、人口カバレッジは96.6%となっている」と説明する。一方で、現状のカバレッジは4Gで利用していたFDD周波数を転用したものが中心で、5Gの特性を生かした活用が進展しているとは言い難い。「データトラフィックは2020年から10年で14倍に伸びると予測されている。このトラフィックの伸びに対応するために、必然的にSub6やミリ波も使っていく必要が生じ、効率の高いMassive MIMOの利用も拡大するだろう。その上で、多様なニーズに対応できるネットワークスライシングなどの利用が広がるとき、大きな変革につながると期待している」(野崎氏)。

▼データトラフィックの伸びへの対応が必要と説くエリクソン・ジャパンの野崎社長

エンタープライズ向けの自営5Gであるローカル5Gについては、「2022年から23年にかけて、本当に使いたい顧客に導入が始まっている。信頼性が高く、確実なネットワークが必要な層だ。国内では製造業や港湾での利用が中心になる」(野崎氏)。実用レベルでの普及が進まないローカル5Gだが、PoC(概念実証)ではなく、実運用の事例が国内でも複数出てきているとの説明だ。

23年6月に免許を取得した仙台市のローカル5G無線局「エリクソンプライベート5G」の実証実験に成功したことも説明した。コニカミノルタと協力し、低遅延カメラを使って4K画像を59ミリ秒の低遅延で伝送を実現し、会場ではデモも実施してLTEとの遅延の差を見せた。「エリクソンプライベート5Gの低遅延性能により、地震速報をいち早く伝送して機器を停止することで損傷を防ぐユースケースも紹介。野崎氏は「OTやITシステムなどと連携したエコシステムを作ることで、エリクソンプライベート5Gの価値を高められる」と語った。

▼仙台市のエリクソンプライベート5Gを使った4K動画の低遅延伝送のデモ。おもちゃの車両は手前の線路を左向きに走行していて、上部右のLTEでは遅延が大きい(右に映る)が、上部左のローカル5Gでは遅延が少ない

CTOの鹿島 毅氏は、5Gのアーキテクチャの変化について解説した。「これまではノードが垂直統合するアーキテクチャだったが、実現したいのはエンドツーエンドの通信であり、今後のネットワークアーキテクチャは水平化が進む」と指摘する。鹿島氏は、水平化により大きく3つの水平の層が生まれると続ける。「1つはネットワークのクラウド化や仮想化によるオープンなプラットフォームの層、もう1つは複雑化する通信の運用に対応するインテリジェントな運用の層、そして一番上位の層がプログラマブルなネットワークを実現するAPIの層だ」。

5Gはフレキシブルなネットワークであり、多くの産業で使われる。その際に、産業ごとのデベロッパーがアプリケーションを開発、運用する際に、ネットワークが共通のAPIを外部に公開することで、APIを通じてネットワーク機能を自在に活用できるようになるという。

▼5Gの変化に求められる3つの水平の層について説明する鹿島CTO

オルシニ氏は、「ネットワークAPIがゲームチェンジになる」と指摘する。エリクソンでは、ネットワークAPIを提供するボネージを買収し、産業での5G利用に求められるAPIを用意している。ネットワークAPIを提供するグローバルネットワークプラットフォーム(GNP)を運用することで、「スマートフォンからみたアプリストアと同じような役割を果たす」(オルシニ氏)。GNPによるネットワークAPIの提供は、すでにドイツテレコムに対してパートナーシップを結んでいるといい、5GにおけるネットワークAPIの活用と産業利用の加速が始まっていることをアピールした。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。