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AIの発達はベーシックインカム導入につながるか?

Should universal basic income to be provided to cover job losses by AI?

2024.05.27

Updated by Mayumi Tanimoto on May 27, 2024, 10:55 am JST

イギリスでは、AIの権威であり最近までGoogleに勤務していたニューラルネットワークの先駆者であるジェフリー・ヒントン教授が、BBCのテレビ番組ニュースナイトで、AIが多くの仕事を奪うため、政府は一般の人にユニバーサル・ベーシックインカムを提供する準備をすべきだとはっきりと述べたことが話題になっています。

教授の意見の背景には、AIの恩恵を受ける人の多くが富裕層で、一般の人は仕事を失う可能性が高いとしているためです。ヒントン教授は、AIの知能がかなり近い未来に予想以上の発展を遂げ、人類に対する大きな脅威になるというかなり後ろ向きな予測をしています。

ユニバーサル・ベーシックインカムは、政府がすべての人に対して一定の福祉給付を支給する仕組みですが、AIにより業務は効率化されて事務系の人などの多くの職が奪われるため、経営者や富裕層が得た収益を失業している人に分配するわけです。

ヒントン教授以外にも、AIが職を奪うという見方をしている専門家や研究所は少なくなく、例えばイギリスの公共政策研究所(IPPR)の予測では、22,000の職のタスクを分析、11%がAIに置き換わるという結論を出しています。

今後、3-5年で、女性、新卒、若手、低賃金の非正規やパート、管理職などの仕事がAIに置き換えられる可能性が高いと予測しています。女性が失業する可能性が高い理由は、事務補助や秘書など、比較的複雑な作業を伴わない日常業務に従事しているためです。

その次の波として、AIによってかなりの効率化が達成されるデータベース作成、コピーライティング、グラフィックデザインなどのクリエイティブ系の職種が挙げられています。

結果としてイギリスの場合、800万人の雇用が失われるとしています。

一方で、この様なかなり後ろ向きな見方に対する異論もあります。例えばCNBCの報道によれば、ResumeBuilderのAIを使用している750人のビジネスリーダーのうち37%が2023年にこの技術が労働者に取って代わり、44%はAI効率に起因する解雇が2024年にあると回答しています。

ところが、この調査を行ったResumeBuilderの履歴書およびキャリアストラテジストであるJulia Toothacre氏は、産業全体では中小企業や零細企業が多く、大企業の様にどこもAIを導入しているわけではないので、この数字が経済全体を反映しているわけではないと述べています。

Leet ResumesやLaddersの創設者であるMarc Cenedella氏は、企業内で調整が起こり、労働者は付加価値の高い作業や従来とは異なる仕事をするようになる上に、AIはデータ処理などはできるものの、仕事を進めるためには企業にAIの作業を理解したうえで、「行動を起こす人が必要」としています。

確かに、実際に様々な作業は自動化されたり効率化されたとしても、販売戦略を作る、交渉を行う、従業員の動機付けを行う、ビジネスモデルを考える、談合を行うといったことは、人間でなければ無理なわけで、私の感覚はCenedella氏に近いものになります。

教員の仕事もAIで完全に代替することは不可能ですし、例えばラグビーの指導や技術家庭科や理科の実験、英語のフォニックスの練習、議論の調整などは対面でなければ無理です。楽器の指導も17世紀と変わっていません。医師の診断はかなり効率化されるのでしょうが、患者のカウンセリングや幹部を細かく見て処置をするのは医師でなければ無理です。

ただ、最近、AIの影響で仕事が減ったという声が聞こえてくるのは、イラストレーターやデザイナー、翻訳者、テープ起こし仕事などで、プログラミング界隈からもかなり実例を耳にするようになりました。

一方で、個人の指名が来て業務を受けているような庭師、美容師、作家、占い、医師、教員、料理人、マッサージなどの職種は、むしろ多忙なようです。特殊清掃や解体はむしろ仕事が増えている地域もありますし、介護も相変わらず需要が高いです。

将来、仕事が合理化され失業するのを防ぐには、はやり「対面でなければできない」「自分しかできない仕事」をやるべきなのでしょう。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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