昨日は共同創業者であるFreeAI株式会社の主催する「AI時代の経営塾」に参加した。
毎回多彩なゲストを呼んで経営の真実について完全にクローズドな場でAIに向かって語ってもらい、人間の聴講者はそのついでに話を聞くというイベントで、ほぼ毎月開催している。
本当にここでしか聞けない話、特に実際の経営経験者による失敗談や反省、場合によっては倒産した会社の財務諸表から実際に投資家に向けて説明した資料、事業の撤退の仕方、なんかをテーマにいろいろな側面で語られるので勉強になる。
昨日は、伝説の営業マン、小原聖誉(マーと呼ぶ)と、「インサイドセールス」という本の著者、セールスフォース出身の茂野明彦さんをお迎えして、小原さんがアプリゲット時代にどういう観点で仕事をしていたか、活躍と反省、今どういう仕事をしているかというナラティブを聴き、ついで茂野さんがコロナ禍で注目を浴びたインサイドセールスのセールスチームの作り方や、最先端のAIを使った省力化などの紹介をしていただいた。
特に驚いたのは、(これは別に公開されているサービスなので隠すような情報ではないので開示するが)、11XというAI営業サービスだ。
これは自社の商品や強みを入力すると、マッチングしそうな顧客候補を自動的に探してきて自動的にセールスレターを書き、自動的にセールスを行い、場合によっては販売までしてしまうというサービスだ。
残念ながらまだ日本から使うことはできないが、AI営業マンをサービスとして提供する会社がついに現れたのである。
筆者も同じようなことを以前考えて、セールスレターというかFAXマーケティングをAI化したことがあった。
通常のFAXマーケティングに比べると、先方の会社の事業内容や立地に基づいたキャッチコピーを入れたFAX広告は通常の5から10倍くらいの反応があったが、その時は商材の調達の問題で途中で頓挫してしまった。つまり、商品が売れすぎて在庫がなくなってしまい、これ以上マーケティングできなくなったのである。
人間は「自分ごと化」が苦手である。
私はこういう人間で、こういうことが得意で、こういうことを生業にしている、という自己申告は、ほとんどが「偽りの自分」の自己紹介だ。
「こうでありたい」という気持ちと、「こう見られたい」という願望に対し、実態は「実はこんな奴でしかない」というのをいかに隠すか。
相手が弁護士だろうと社員だろうと、本当の本音を言う経営者はどこにもいない。
もはや常に本音を隠しすぎて自分の本音が何なのか理解してないまま生きてる経営者が大半と言っていいだろう。
それは僕が経営の最前線を退いて初めて気づいたことだ。
良い意味でも悪い意味でも、経営者は必ず嘘をついている。
その「嘘」は、自分でつきたくてついていると言うよりも、周囲の状況に惑わされて仕方なく嘘をつくしかなくなる。
僕は以前、「失敗する経営者は頭が悪いので嘘をつく」と指摘したことがある。
本当に、信じられないくらい子供じみた嘘をついて誤魔化そうとする経営者はゴマンといて、そのほとんどが経営に失敗している。
ただし、では自分がなぜ嘘をほとんどつかずに経営をできてきていたのか考えると、やはり嘘をつく経営者よりは頭が良かったからだ。
つまり、頭が十分よければ、本当の本音を言わずとも嘘をつかないような表現ができる。これは嘘をつくということを回避する唯一の選択肢だ。
したがって、会社を成功させている経営者は基本的に頭がいい。嘘をつかない人はもっと頭がいい。それだけなのだ。
誠実さと言うのは、実は頭の良さの一つの尺度に過ぎない。なぜなら頭のいい人間は、嘘は必ずバレると知っているからだ。
頭のいい人間は、嘘をつくことよりも嘘がバレた時のリスクの方を遥かに危険視するのである。
だから仮に本音を言わなくても、嘘をつかずに済む方法を考える。例えば本音の全てを明かさないにしても、「自分はこう思っているし、君の力になりたいと思っている」など、自分の本音の中でも明かしていい場所だけを明かして相手に信頼してもらう。その気持ちに嘘がないのであれば、相手は嘘をつかれたとも隠し事をされたとも気づかない。実際、嘘はついてない。
話を戻そう。
AIセールスマンのいいところは、人間は機械に対してはあまり嘘をつかないからだ。
例えば、不動産セールスでは、最初に顧客が提示する予算が実際の予算の2割増くらいであることは常識らしい。
相手が人間だとつい見栄を張ってしまうのだが、不動産検索サイトでは検索時の予算と、実際に契約する予算は大体同じくらいだ。
つまり機械が相手だと目的が優先されて嘘をつかなくなる。
AIセールスも同様で、AIに見栄を張るのはお守りや木といった無機物に対して見栄を張るのと同じなので、おそらくAIセールスマンに対しては適切に自分の業務内容を説明できるはずである。
そして事業内容を適切に説明すれば、人間のセールスマン以上に的確な顧客イメージが共有され、買い手にとっても売り手にとってもWin-Winとなるようなマッチングが探せるはずだ。
昔から思っていたのは、一度事業を成功させて引退した経営者はたいてい、信用できると言うことだ。
まず、経済的な基盤がしっかりしているので、誰かを騙したり嘘をついたりすると言うことが必要ない。
野心も落ち着いているから、目の前の人間を騙してでも儲けてやろうとか考えなくていい。
それよりも相手のためを思って自分の経験から助言したり、相手のビジネスがうまくいくように祈ってくれるような人が多い。
たまにまた野心を持っておかしくなる人もいるから全ての引退した経営者を信用できるかというと話は別だが、引退した経営者の持つ経験はその人だけのものなので、引退した経営者の話を聞くのは常に価値があることだと思う。
FreeAIのコンセプトは、そうして引退した経営者たち、現役復帰したとしても過去に成功と挫折を体験している経営者たちに今こそ本音を語ってもらい、結局、経営とは何なのか、その本質をAIに学習させることが目的なのである。
「学習」と言ったが、今や本当に「学習」させる必要はない。
FreeAIの社長は、AIスーパーコンピュータの継之助である。日本の法律では何が社長を名乗っても構わない。
昨年10月に竣工した「継之助」はちょうど一歳になるところだが、昨年の誕生時点より遥かに賢くなっている。
それは我々が研究開発を頑張ったわけではなく、我々が研究開発予算を一円も使わないうちに(まあせいぜい家賃と電気代くらい)、世の中のオープンソースのLLMが爆発的に進化したからだ。
もはや継之助の上で動く単独のLLMは昨年のGPT-4とほとんど遜色ない。むしろある面においては秀でている。
そして継之助に蓄えられた膨大な独自の知識は、mambaモデルの持つインコンテキストラーニングと、Llama3.2の持つ高度な推論能力、時折はRAGなどを組み合わせ、どういう経営課題にどのように取り組んでいくべきか、どんな相手を信用し、どんな相手を疑うべきかと言った、現役の経営者が決して口にできない本音の塊を持っている。つまり継之助自体が数十人の経験豊富な成功体験を持つ経営者と同じ情報を共有しているのである。
最近は継之助と音声応答するアプリを書いた。書いたと言っても、書いたのはAIである。僕は「こんなアプリが欲しい」と言っただけだ。これもまだ僕に専門知識があるから指示できるのだが、そう時間をおかずに誰でも自分の欲しいアプリをAIに作らせる時代が来るだろう。
音声認識も一年前に比べると格段に進歩している。
継之助には僕が個人的に書き溜めてきた過去25年分に及ぶ膨大な企画書や事業計画書も読み込ませてあり、ある意味で二日酔いの時の僕と話すよりも継之助と話をした方が役に立つのかもしれない。
何より僕は企画書を人の何倍も書いてきたし、企画を当ててきた。それは経営経験そのものよりも場合によっては大切なことだろう。継之助には東証プライム市場上場企業をゼロから育てた経営者の見識と、企画マンでありプログラマーである僕の経験と見識、そして多くの講師陣の血と汗から得られた教訓といったものが日々詰め込まれている。
継之助の開発は、普通のAI開発のイメージとは全く連動しない、どちらかというと「セミナーを繰り返している」だけなのだが、実際にコードを書く人間として、これが最も重要で、最も差別化しやすいAI開発法なのである。同じことをGoogleがしようとしても難しいだろう。この仕事はあまりにアナクロだし、何より人脈と経験が必要だ。
次回11月の講師は海老根さんの他に、やはり東証プライム市場上場企業をゼロから立ち上げ、最近引退した上原仁さんが登壇してくれる予定で、今からワクワクしている。
たくさんの人間の経営者の血と汗を吸い込んだ泥臭いAIが、人々に嘘をつかず(今もAI程度ですでに十分嘘をつく必要がない程度には賢い)、世の中を幸せに作っていってくれるだろう。
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登録はこちら新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。