July 17, 2026
岩元 直久 Naohisa Iwamoto
WirelessWire News編集長。日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。ITジャーナリスト、フリーランスライターとしても雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。
生成AIの進歩は著しい。文章を書いたり、絵や写真を生み出したり、プログラムを作成したりといった用途では、ビジネスからプライベートまで多くの作業を肩代わりしてくれるようになった。一方で、生成AIが得意とする仕事の多くは、画面の中で完結する。企業の現場には設備や機器、人が関わるリアルな課題が数多く残されている。そうした課題をAIで解決するには、現場の膨大なデータをAIへ伝え、人や機器と連携させる仕組みが欠かせない。
IoTプラットフォームを提供するソラコムは、こうした現場のAI活用を支援する。2026年7月に開催された説明会では、IoT向けAIエージェントの「SORACOM Agent」を中心とした新サービスを発表し、現場の課題をAIで解決する1つの道筋を示した。
ソラコムは創業以来、「IoTの民主化」を掲げてきた。通信事業者ごとの複雑な契約や専門知識を意識することなく、必要なときに必要な通信手段を利用して、誰でもIoT機器をクラウドにつなげられる環境を整えてきた。その思想はAI時代にも受け継がれ、「現場でAIを使うためのハードルを下げる」という形へ発展している。ソラコム代表取締役社長 CEOの玉川憲氏は、「Claude Codeが出てきたことで、人間がコードを書く時代が急速に終わった。基盤モデルが知識を吸収して仕事をするようになると、企業の競争力はどこに存在するのか、企業の中で人の役割はどうなるかが疑問に感じられるようになった。そこで2025年に『After AIの組織になる』ことを社内で宣言した」と語る。AIが存在することを前提に、仕事の進め方や組織のあり方を考え直す取り組みを進めてきたのだ。
社内ではコード生成にも生成AIを積極的に活用し、少人数のチームがAIと協力しながら仕事を進めるスタイルへ移行しているという。AIが担う仕事は増えていく一方で、人は判断や例外処理、AIへのフィードバックなど、より付加価値の高い役割を担っていく。「人の役割がAIのリーダーへと変わり、人的資本の価値はむしろ向上すると見ている」と玉川氏は話す。この「AIを相棒に現場を自律的に変革する」という成功体験を、顧客企業のIoTなどのリアルな現場にも広げようという発想から生まれたのが、今回発表した「SORACOM Agent」である。

現場のAI化を実現しようとすると、AIだけでは完結しない。通信回線やSIM、クラウド、センサー、カメラなどの要素に加えて、APIとの連携、セキュリティの確保など、多くの知見が必要になる。企業の現場で、AIを使って課題を解決したいと思っても、実際の仕組みを作り上げるには多くのステークホルダーとのやり取りが必要になり、時間も手間もかかってきた。
その課題を解決するため、SORACOM Agentは、「IoT領域におけるバーティカルAIとして、自律的にタスクを完遂できる」(玉川氏)機能を備えた。例えば、「倉庫でヘルメットを着けていない作業員を見つけたい」「センサーが異常を検知したら担当者へ知らせたい」といった目的を伝えれば、SORACOM Agentが必要なデバイスや通信方式、クラウド構成を検討し、SORACOMの各種サービスを組み合わせながら仕組みを構築していく。
利用者はIoTの専門知識やAPIを細かく理解している必要はない。現場で課題を知る担当者自身が、AIと相談しながら課題解決の仕組みを作っていける。SORACOM Agentには「プロジェクトメモリー」と呼ぶ長期記憶の仕組みも備える。現場ごとの設備構成や運用方法、過去のやり取りなどを蓄積し、使い続けるほど、その現場を理解したAIへと育っていく。こうした知識は顧客ごとに分離された環境で管理され、自社の知的資産として残る点も特徴だ。生成AIボットサービスの「Wisora」と連携することで、現場で発生していることをリアルタイムに説明することも可能になる。
ソラコムは今回、SORACOM Agentに加えて、その周辺を支えるサービスも発表している。IoT機器が収集した音声を、音声AIやコールセンターとPBXなどを通じて連携できるようにする「SORACOM Air RTC Gateway」、IoT機器の出荷後も通信プロファイルを遠隔から管理できる「SORACOM Connectivity Hypervisor」、コネクテッドカー向けの「SORACOM Automotive Suite」などである。今回の発表を通じて、SORACOM Agentを含めた各種のサービスは、AIがリアル社会とつながるためのインタフェースを整備する役割を担っていると感じさせられた。

昨今はフィジカルAIというキーワードが話題に上ることが多くなった。ともすれば高度な人型ロボットをAIが制御して人間のような作業をすることを想定してしまいがちだが、実際のリアル社会の「現場」には多くの課題がある。「例えば、『箱罠IoTを作りたい』とSORACOM Agentに問いかけてもらえば、エージェントが必要な質問をして、箱罠の仕様からデバイスづくり、アプリ作りまで支援してくれる」と玉川氏は説明する。設備やセンサー、カメラなど、既に現場に存在する機器とAIを結び付けることが、フィジカルAI実現の現実的な第一歩になっていきそうだ。