July 29, 2026
服部 希代野 hattori_kiyono
静岡市出身。早稲田大学文学部卒業後、東京写真学園にて、写真を学ぶ。出版社スタジオ勤務後、広告、音楽関係のカメラマンのアシスタントを経て、2013年、独立。雑誌広告中心にファッション、ポートレート、フード、旅など幅広く撮影。ライフワークは民藝や道具、手仕事。
タイとミャンマーの両国にまたがる地域に暮らす少数民族のカレン族。少数民族としては人口が多く、現代では多様な生活を送るようになる中でも、農耕や家畜の飼育を中心に伝統的な生活を営んでいる人々がいる。カレン族の文化を示す1つが伝統的な衣装で、男女などの属性によって色や形状が異なる貫頭衣を着用する。またコメや野菜を基本とした伝統料理からも、彼らの生活と文化を垣間見ることができる。
写真家の服部希代野氏は、チェンマイから離れた土地に暮らすカレン族を訪ね、伝統的な藍染を体験した。その後に招かれた台所では、料理を作り、家族で食卓を囲む日常に触れた。布を染める手、食べ物をこしらえる手。その一つひとつの所作には、自然から受け取ったものを暮らしへとつないでいく、祈りにも似た静けさがある。連載の第1回では、湯気の向こうに服部氏が見つけた、カレン族の暮らしの温もりを紹介する。
ふとした日常の美しさを切り取ったような、旅でした。
料理を教えてもらいにある家庭に、チェンマイから車で2時間のカレン族のご自宅にお邪魔させてもらった。
雨季のチェンマイは日本ほどジメジメしていない。
木のご自宅はとても居心地が良い。

照明は無く、窓からほのかに入ってくる光で過ごした。



料理を作っている途中で子供たちが帰ってきた。
その無邪気な笑い声に、雨の音がやさしく重なる。
ラジオから流れる懐かしい民謡が、心地よい。遠い日の記憶をそっと揺り起こす。
窓からさす微かでやわらかだけれども確かにそこにある光。雨で濡れた土の匂いのする帰り道や、雨上がりに少しずつ光がさしていく故郷の景色を、想起させた。

窓辺では、ねこが静かに雨を見つめている。その穏やかな横顔は雨音をよりやさしいものにしてくれている。



ご飯の炊ける湯気がゆらりと立ちのぼり、日々のあわいをやさしく満たしていく。

雨音、子どもたちの笑い声、民謡の旋律、ねこの気配、そして湯気のぬくもり。さまざまな音や情景がひとつの調べとなって響き合い、心はいつしか深い安らぎの中へとほどけていく。









素朴で優しく何気ないひととき。
けれど、その何気ないひとときこそが、かけがえのない日常だった。そこには確かに、暮らしの幸せが息づいていた。


中央 ジョーパッカード (Cho Phakkad) 青菜と豚肉を煮込み、タマリンドや魚醤で味付けした料理。
右下 カイジャオ たっぷりのラードで揚げ焼きした卵焼き


投票所に向かう途中のご近所の方々。
日常に鮮やかな民族衣装を纏っている。