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とりあえずで言ってみるという文化と最初から諦めてしまう文化

2014.05.07

Updated by Mayumi Tanimoto on May 7, 2014, 04:48 am JST

日本ではゴールデンウイークが終わってしまいましたが、ロンドンでもイースターホリデーと5月頭のバンクホリデー(祭日)が終わってしまったため、うつろな目の人々が通勤電車に目立ちます。

さて、ロンドンではホリデー時期にあわせて(意図的な気がする。。。)先週大規模な地下鉄ストが実施され、通勤できない人が続出しました。しかし今週も大規模ストが予定されておりましたが、今週のは回避されました。このスト、地下鉄の予算合理化と券売所の大規模閉鎖にリストラに反対したものでありますが、こういうストはここでは日常茶飯事であります。

何か要求したいことがあれば外野に何と言われようと要求してみる。つまり「とりあえずやってみる」というのがイギリス的やり方です。地下鉄も医師も公務員も先生もその精神でストをやるわけです。もちろん文句を言う人も大勢いるわけですが、「私はこれはイヤ!」と思ったら言ってみる、そして交渉に持ち込むという考え方なわけです。

ワタクシは、このイギリスの「とりあえずやってみる」精神が、ここがかつて世界一の帝国であり、落ちぶれたあともなんだかんだ言って生き残っている原因の様に思うのです。

走りながら考えて、「とりあえずやってみる」。そして何か言われたら「俺はこう思う」と徹底的に議論してやり込める。何としても自分が勝つ方法を戦略的に考える。最初から諦めるとか、何か言われたらどうしようなんて考え方がないわけです。

これはここの通信業界やIT業界でビジネスしていても同じです。

契約社会ですので、何でも契約書で明確にするのがここの慣習ですが、ちょっと気を許すと、相手方は、雇用契約書やサービス契約書に、ありったけ自分に有利なことを書いてきますので、そのままサインしたら大変なことになります。「なんとなく関係ができてるから大丈夫だよね」なんて日本的な情は通じません。

相手は雇われる方だろうが、取引先だろうが、「とりあえずやってみる」精神で自分が有利になることをどんどん契約書に書いて要求してきます。ですから、何度も書き直すのが当たり前。相手と交渉して有利な条件に持って行くのが担当者の腕の見せ所です。無理なことでも言ってみる、そして交渉する。それがここのやり方です。

普段仕事する中でもそれは同じです。会議では自分のアイディアやちょっと無理目のことでもどんどん提案して、強烈な交渉をします。それが同じチームのメンバーであっても上司相手であっても同じこと。休暇中のシフト調整、給料交渉、昇進させろなんて交渉も当たり前。「何か言われたらどうしよう」「目上の人にこんんなことを言って平気かな?」なんて遠慮はないわけです。ワタクシも現地化してますから「もっと報酬をよこせ」「私はこの日は仕事はしません」ということをはっきり言います。

イギリス人の「とりあえず言ってみる」は、ITガバナンスや内部統制をやる人間にとっては実は頭がいたいのです。仕組みや規定を作っても「なぜこうなのか?」「この方がいいだろう」「俺はこう思う」という人が大勢いて、一筋縄ではいきません。相手が納得する理由を、論理的に説明し、うまく交渉を進めなければ実装できません。

とりあえず言ってみる、やってみる。そしてダメならさっと諦める。恐ろしいフットワークの軽さです。

しかしこういうフットワークの軽さがあるので、かなり画期的なアイディアがでてきたり、はっとするような投資スキームを考える人がいたり、若い人が大役に抜擢されたりします。「これはどうだ?」「俺はこう思うんだよ」「アタシにやらせてみてよ」と「とりあえず言ってみる」わけです。

ここで水洗式トイレや蒸気機関車、株式会社、パック旅行、パンク、メタルが産まれ、チャールズ・ダーウインが進化論を主張できた理由がわかります。

その一方で、日本でのビジネスはとても楽です。なにせ「とりあえず言ってみる」の人はいませんので、なんとなく物事が決まって行く。会議は場を共有する空間であって、人々は組織の中の期待される役割に沿って発言するので、突拍子もないことを言う人はいませんし、誰が何をいうか、落としどころは何になるのか、大体予想が可能です。誰もが最初から諦めている。ストはまれです。人々は低賃金や酷い就労環境でも文句を言わず死ぬまで働きますので、管理者にとってはとても楽な社会です。

しかし、イギリスの様なダイナミクスはありませんし、実は不満を抱えている人が多いのです。そして画期的なことは産まれません。

激しいけれど「とりあえず言ってみる」と、不満がたまるけど「最初から諦めている」の社会、皆さんはどちらが好きでしょうか?

We Shall Fight on the Beaches

"We shall never surrender"

ロンドン市長ボリス•ジョンソン氏、ストの時どうやって通勤するか

地下鉄組合員以外はコーヒー10%オフ

超ハイランクの公務員が地下鉄の運転に招集されたみたいよ

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。