9月24日から28日まで世界13都市で開催されたソーシャルメディアにパネルとして登場した Guido Fawkes 氏(本名は Paul Stainesさん)氏は、イギリスで最も人気のある政治ブログであるGuido Fawkes's Blog を運営する「右翼ブロガー」です。
「右翼」とは言っても、この方ネトウヨでも外国人排斥者でもなく、単に保守党を支持する政治的保守派であり、単に労働党が嫌いなだけのようです。(ちなみに伝統的にイギリスでは保守党は右寄りの金持ちの政党で、労働党は支持母体が労働組合なので左寄りです)
Guido氏は、大学時代に政治に目覚め、保守党政治に入れこみつつ、当時流行だったアシッドパーティーに入れこみます。大学を卒業すると、右翼のフィクサーとして有名で、当時サッチャー首相のアドバイザーとして働いていた David Hart氏の元で働き、ソ連に資料を送ったり、ニカラグアに武器を送るなどのきな臭い活動に関わります。その間、アシッドパーティーやレーブの支援活動にも関わります。
しかし、政治に幻滅し、なぜかプロのブラックジャックのプレーヤー(要するにフルタイムのギャンブラー)を二年ほどやり(日本だと二年間パチプロやりました、みたいな感じですかね)ロンドンの金融街であるシティで債券のトレーダーになり(パチプロから転職できる所がこういう職業の神髄を語っておりますね。)、香港や東京でも勤務。2001年に金融関係のトラブルに巻き込まれ破産します。2002年からはなぜかスペインの牛追い祭りに参加することにはまりますが、2003年の祭りの際に牛に刺されて顔に大怪我をおい大手術するはめに。怪我の直後に結婚し、2004年からブログを始めます。
ちなみに以下は首相主催のメディア帰省に関する公聴会の公式証言記録における「なんだかフリーダム」な職歴です。
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(1) Who you are and a brief summary of your career history;
Paul De Laire Staines
86-90 Worked in politics, think tanks, campaigns (←政治活動)
89-91 Organised mass attendance dance music raves. (←大衆が参加するダンス大会を開催&参加)
92-94 Professional gambler (←プロの賭博屋)
95-01 Derivatives broker, bond dealer, hedge fund trader in London, Hong Kong and Tokyo(←トレーダー)
02-03 Litigant in a protracted commercial dispute (←裁判)
04- Began publishing the Guido Fawkes political blog (←ブロガー)
06- Investment adviser to online ventures (←ベンチャー投資)
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ちなみに、Guido Fawkesとはイギリスの有名人であるGuy Fawkesさんのもじりです。この人は1605年にイギリス国会を爆破しようとした悪人であります。
イギリスでは毎年11月5日にGuy Fawkes Nightなる日がありまして、爆破されなくて良かったねということで、Guy Fawkesさんの人形を子供が八つ裂きにしてたき火に放り込んで、花火を打ち上げて歌って踊る、という祭りをやります。
これジェームス王が「おお、爆破されなくてよかったべよ。いわうべー」と始めた祭りなんですが、なんという恐ろしい祭りでしょう。。。(やはり世界の七つの海を支配する方々は幼少期よりかなり野蛮人様なようであります)
ちなみに、Guy Fawkes さんはイングランドが大嫌いなスコットランドでは「反逆の英雄」扱いであります。Guy Fawkesさんは反逆&匿名の象徴なので、アノニマス、ウィキリークスのジュリアン・アサンジさん、「ウォール街を占拠せよデモ」でも象徴として仮面が使われています。
ところでこのブログ、今やその辺のゴシップ紙をしのぐ「政治タレコミブログ」と化しており、なんと有名新聞の日曜版やゴシップ雑誌がGuido氏のサイトからネタや新聞を買っているのです。
例えば、元外務大臣で保守党所属の下院議員であるウイリアム・ヘイグ氏の「ウホッなゲイのお友達をコネ採用したのではないか?」というゴシップが持ち上がった際には、ヘイグ氏がゲイバーにいる所を撮影した写真を ゴシップ紙であるNews of the Worldに2万ポンドで販売しています。
この写真は結局同紙には印刷されなかったのですがGuido氏は「News of the Worldは政界とえらく距離が近いよね。詳しくは知らないけど印刷しなかったってことは、写真を買い上げて外に出ない様にしたかったんじゃないの?」とメディアの報道姿勢に関して政府が審議会を実施したThe Leveson Inquiry(リーブソン審理)で暴露しています。ちなみにGuido氏を始めとするネットメディアや既存メディアが色々突っ込んだため、メイヤー氏はその後辞任しています。
個人のブログが持っているネタを有名新聞や雑誌が買うというのは、今まで考えられなかったことですね。日本だと大手新聞や雑誌が個人ブログを盗用したり勝手に引用していることがありますが、Guido氏の場合は手持ちのネタがあまりにもレアなため、力関係が逆転してしまっているわけです。ちなみに、ネタ元は、大手の新聞や週刊誌の記者や、政治家の近隣の人、政敵などの様です。記者に関しては勤務先で発表できないネタを流しているという噂があります。
イギリスでも著名人のプライバシーやメディアの報道の行き過ぎに対する規制はあるのですが、Guido氏の場合、サイトは時差の異なる複数の外国にホスティングし、運営者の自身は外国人(国籍はアイルランド)というわけで、イギリスにおける法的な制裁を避けています。Guido氏は「このサイトに対して起こされた訴訟は全部失敗している。なぜなら海外でホスティングしているからイギリスの法律が通用しないのだ」と語っています。時差も法律も異なる国にホスティングしているので、訴えるにしても、訴える側の弁護士の労力は相当必要です
訴訟が怖くないので、大手メディアが掲載を控えたハリー王子のラスベガス全裸ご乱心写真もばんばん掲載してしまっています。(まあ、凄い写真ですね)なお、Guidoは掲載した件で、大手ニュースチャンネルのSkyメディアに出演してインタビューを受けておりました。
なお同氏のブログは、年間2000万円以上の収益を産んでいる様です。「ケイマン諸島なんかにある様なオフショア投資をやっているファンド管理会社や裏の社会ののうさん臭い資金なんてもらってないよ」と言っており、収益は広告費、大手メディアへの写真や記事の提供、アイルランドに設立したネットメディア戦略コンサル会社の収入から成り立っている様です。(なおこの会社は保守党、ロシア大使館、ロンドン市長へのネットメディア戦略を提供しています)
Guido氏が延々とこの「恐怖新聞」をやっている理由は、同氏が「アイルランド人である」という点にヒントがある気がするのです。同氏は、アイルランド国籍も持っていますので、法的にも文化的にもアイルランド人なのです。(イギリスは二重国籍が当たり前なのです)
両親はアイルランド人ですが、父親はイギリスの植民地だったインドで教育を受けた中産階級で左翼、母親は18歳でロンドンに出稼ぎにやってきた労働者です。生活はあまり豊かではなかったらしく、Guido氏が生まれた頃に、母親が地元の公営住宅への入居を申し込んだ所、入居が認められず酷い扱いを受けた、ということがあったようです。イギリスでもちょっと前まではアイルランド人に対しては結構な差別がありましたので、Guido氏が幼少時に色々と体験したというのは何となく想像がつくわけです。
大人になって政界に幻滅した後に、Guido氏が金融街で債券トレーダーになった理由がなんとなくわかります。金融業界では物を言うのは数字ですから、アイルランド人だろうが、貧乏階級出身だろうが関係がありません。能力さえあれば成り上がれるのです。同氏が政府の介入を嫌うリバタリアンである理由も何となくわかります。
ブログの読者に「お前なんでロンドンにいて政界をウロウロしてるわけ?」と聞かれた際には「貴様の国を監視するため」と答えております。
さらに、BBC の著名ジャーナリストであるJeremy_Paxman のインタビューに出演した際には(普通この番組に出るのは現役の大統領や大臣なのでブロガーにインタビューするというのは異例です)「まるで IRAのテロリストがインタビューされてるみたいだったよね」と答えています。何となくルサンチマンを感じる発言ですね。Guido氏を見ていると、何となく藤子不二雄先生の「魔太郎がくる!!」を思い出します。
ソーシャルメディア時代が到来し、スマフォやタブレットの普及でネット経由での情報の取得や配信がますます気軽な物になっていますが、Guido氏の様に、「なんらかのルサンチマン」を抱える人が、大企業や政治家、政府などに対して、ネットを武器に様々なゲリラ攻撃を仕掛ける機会が増えるかもしれませんね。
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登録はこちらNTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。