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ソフトバンク、米スプリントの買収を正式発表 世界3位の移動体通信事業者へ

2012.10.15

Updated by Asako Itagaki on October 15, 2012, 22:31 pm JST

▼ソフトバンク 孫正義代表取締役社長(左)とスプリント・ネクステル・コーポレーション ダン・ヘッセCEO
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2012年10月15日、ソフトバンクは東京都内で記者会見を開き、米国のスプリント・ネクステル・コーポレーション(以下スプリント)との間でスプリントの事業に約1兆5709億円(201億米ドル)の投資を行うことについて最終的な合意に至ったことを発表した。ソフトバンクはスプリントの株式の約70%を保有することになり、同社を子会社化する。なお、買収完了後のCEOは現在のスプリントCEOであるダン・ヘッセ氏。取締役会は10名で構成され、うち6名はソフトバンクが任命権を持つ。

日本3位+米国3位=世界3位へ

「アメリカへの挑戦は簡単なものではないと思っている。しかし挑戦をしないということはもっと大きなリスクになるのかもしれない。日本は少子化をはじめ、世界の中でもさまざまなリスクを背負った危険な国になりつつあるのかもしれない。だから、日米両方で大きな基盤を作ることが、安全の鍵になる」ソフトバンクの孫正義代表取締役社長は、このタイミングでの米国市場進出の意義を語った。

買収対象となるスプリントはベライゾン・ワイヤレス(以下ベライゾン)、AT&Tに続く米国第三位のモバイルキャリア。契約数は5600万、米国内シェアは16%を占める。現在のソフトバンクグループ(ソフトバンク、イー・アクセス、ウィルコム)の合計契約数3930万件と合わせるとグループ合計で約9600万件の契約数と、「日米で最大級の、ベライゾン、AT&Tと匹敵する規模の顧客基盤になる」(孫社長)とした。また、移動体通信売上高の合計は2.5兆円となり、チャイナモバイル、ベライゾンに次いでグループで世界第3位となるとしした。

▼2012年1~6月期の主要通信会社移動体売上高
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米国市場は巨大な成長市場

米国市場について、孫社長は、米国の携帯電話契約数が日本の約3.5倍と巨大な成長市場であることを指摘。また、日本市場との類似点として、スマートフォンの稼働台数の多さ、ARPUの高さ、ポストペイド比率の高さを挙げた。一方で問題点として、モバイルデータ実効通信速度が遅いこと、大手二社の寡占市場であることを挙げ、大きな成長ポテンシャルがあるとして、「挑戦者にとってはまたとないチャンス。ソフトバンクが日本で体験したことを再現したい」と述べた。

スプリントについては、顧客満足度が向上していること、契約者数が9期連続で増加し2012年6月時点で過去最高水準になっていること、料金プランの簡素化などで年間50億ドルのコスト削減に成功したことなど、ヘッセCEOが自ら急速な業績回復をアピール。2008年から2011年までのブランド再建フェーズが終わり、ネクステルの遺産である2Gネットワークのマイグレーション、3Gネットワークの高度化、LTEネットワーク展開といったネットワーク重複コスト見直しと新たなネットワーク構築のための投資フェーズに向けて順調に進捗していることを説明した。

▼スプリントの加入者数は過去最高水準
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一方で、ヘッセCEOは、これまでの累積損失や2011年秋のiPhone 4S投入にかかった費用などもあり、財務的には苦しいことについても言及。「ソフトバンクからの投資を得られることは歓迎。ソフトバンクの日本における成功体験を学んでいきたい」とした。

資金と戦略で貢献

ソフトバンクは、スプリントに対して、資金面では6240億円の増資でネットワーク強化、戦略的投資、財務体質の強化に貢献する。また、戦略面では、グループシナジーとしてスマートフォン戦略、LTE戦略、V字回復のノウハウを提供する。「スプリントはすでに自力で業績回復中であり、そこに資金と戦略を投入することで成功する自信がある」(孫社長)とした。

スマートフォン戦略については、ソフトバンクモバイルの顧客獲得ノウハウをスプリントでも生かす。また、端末調達やネットワーク機器調達においては、調達ボリュームが増えることによる価格引き下げと交渉力のアップを見込む。V字回復については、日本テレコム、ボーダフォン、ウィルコムの業績をいずれもソフトバンクグループ入り後に急回復させた実績を強調した。

▼「1社だけならまぐれかもしれないが、3社V字回復させればノウハウといっていいと思う」と実績を強調
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なお、一部で報じられていた米第5位のMetroPCS買収や、スプリントが出資するClearwireに対する出資引き上げについては、今のところは何も考えていないとコメント。米国でのTD-LTE展開については、「戦略にかかわることなので今日は何もいえない」としながら、さまざまな技術を常に検討しているとした。

「借金は返せます」

買収に要する資金のうち9469億円(121億ドル)は既存株式引受にあて、6240億円(80億ドル)は増資引受にあてる。既存株式の買い取り価格は1株あたり7.30米ドル。新株については、1株あたり5.25米ドルで発行する。支払資金はソフトバンクの手元資金に加えてみずほコーポレート銀行、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行、ドイツ銀行東京支店がアレンジし、引受を合意した新規ブリッジローンにより充当する。

ボーダフォン日本法人買収時の巨額な借金をようやく返済し終えて純有利子負債が8000億円まで圧縮されたタイミングでの巨額投資のニュースを受け、ソフトバンクの株価は急落。また格付け会社による格付けも引き下げの動きがある。孫社長は、ボーダフォン買収時の借入金を予定の半分の期間で完済したことや、純有利子負債/EBITDA(償却前営業利益)倍率が、ボーダフォン日本法人買収時には5.6倍だったのに対し、今回は2.7倍と半分以下の比率であり、世界大手携帯事業者や国内大手企業との比較で健全な水準にあることをアピールした。

▼世界の主要通信事業者の純有利子負債/EBITDA倍率。5.6倍はボーダフォン日本法人買収時のソフトバンク。当時と、また他社と比べて今回の資金調達は健全であることをアピール
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また、特に「ソフトバンク株主の皆様へ」として、取得資金調達のためにソフトバンクの新株発行、転換社債発行などのエクイティファイナンスは一切行わないこと、配当方針に変更がないこと、有利子負債は早期削減すると説明した。

「米国の外資規制に対してはどう考えるか」という質問に対して孫社長は、「アメリカは世界で最も開かれたグローバルな市場であり、今回の投資は政府、国民にフェアに、オープンに受け止めていただけると考えている」と回答。また、すでにドイツテレコムがTモバイルに出資している事例を挙げ、今回の出資だけがここから疎外されるとは考えていないとした。

【報道発表資料】
ソフトバンク株式会社によるスプリントの戦略的買収(子会社化)について

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。