ワタクシが1月に電子書籍でださせていただき、3月には紙の本で出ださせて頂いたノマドと社畜という本では、主にイギリスのノマドワーカーと、取り巻く状況を説明しています。
イギリスには、現在400万人ほどのノマドワーカー(フリーランサー)が存在します。
そのうちの一部は、技能があり高収入ワーカーであるスーパーノマドです。イギリス政府の統計上の分類ではプロフェッショナルオキュペーションと呼ばれる人々で、かなり専門性の高い仕事をしています。スーパーノマドは数カ国後を操り、華麗な学歴があり、世界の様々な国で高給を稼ぎだす特殊技能を持っています。
その一方で、元々中流階級だった人々の中には、会社のリストラや、業務の合理化などのために、仕方なくノマドになる人もいます。そのような人々はイギリス政府の統計上の分類ではロースキルワーカーと呼ばれます。数カ国後操るわけでもなく、学歴もぱっとせず、稼げる技能はないので時給1200とか1400円ぐらいで働く新たな貧困層として暮らしています。さらに、景気が悪くなると簡単に契約を切られ無職になってしまいます。
ただ、イギリスの場合は、低賃金ノマドになっても、無職に何とか暮らして行ける、という所に救いがあります。自らの選択でノマドになっても、仕方なくノマドになっても、最低限の生活は可能なわけです。
まず、この国では医療費は原則無料で、収入にそって、健康保険と国民年金が一緒になっているナショナルインシュランスという保険を払います。低所得者や、病気の人の場合は保険料が無料です。
例えば自営業(ノマド)の場合は、年収が£5,595(1ポンド142円換算で80万円)に満たないとナショナルインシュランスは無料です。£5,595 - £7,604(80万円から100万円)だと月1500円、それを超えると、月1500円の他に利益の9%を払います。年収600万円ぐらいの自営の人の場合は、月に4万5千円ぐらいになります。
ちなみに、医療費は処方箋が必要な薬代をのぞき原則無料なので、骨折しようがガンになろうが無料で、入院も救急車も無料です。もしろん、出産も緊急治療も無料です。ナショナルインシュランスを払えない人でも無料です。夜間や休日に救急病院に行っても、病院側では名前しかききません。健康保険証の番号さえみないのです。旅行中の外国人だって治療してもらえます。すべて無料です。
こういう制度なので、会社に所属していない人でも医療のことは心配する必要はないという、大変ありがたいシステムです。仮に売り上げが少なかったり、病気で働けなくてもなんとか生きて行くことは可能なわけです。会社を辞めて何か事業をやろうと思っても、とりあえず医療のことは心配する必要はないというのは、精神的には大きな支えです。
さらに、住む所がない場合は、家賃が収入連動の公営住宅に入ることができます。バスや電車だって割引になります。イギリスは国が狭いので、よっぽどの田舎でない限りバスや電車で移動が可能です。(遅れたりキャンセルされることはありますが)
また失業している場合は、市でやっている習い事などが無料になることもあります。失業している人は精神的に大きなプレッシャーに晒されているため、少しでも気楽になってもらおうという配慮があるからです。
また、図書館は無料ですし、世界的に有名な美術館や博物館、素晴らしい公園は無料の場合がほとんどですので、娯楽に困ることはありません。
前の記事で、ノマド先進国であるアメリカの環境というのはかなり弱肉強食的だと紹介したのですが、イギリスは、ノマドワーカーになりたい人のために国による様々な支援があり、ノマドになりやすい仕組みになっているわけです。一見冷酷に見えて、実は裏では色々支援策を準備してある、というのがイギリスらしいと思います。
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登録はこちらNTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。