日本でもネット選挙運動が解禁となりましたが、ここイギリスでは日本より一足早く2010年の総選挙でネットが活用されました。Hansard SocietyのThe internet and the 2010 election putting the small 'p' back in politics?という報告書では、総選挙におけるネットの影響力が分析されており、様々な示唆が含まれています。
まずはじめに指摘されているのが、投票行動にネットの影響はそれほどなかった、というものです。オバマ大統領がネットを味方につけて大勝したのを受けて、イギリスでもネットが総選挙を左右するのではないか、と考えられていたのですが、選挙の結果は予想とは随分異なっていました。
イギリスの庶民院(下院に相当)は単純小選挙区制度を採用しており、議員が当選するには地域の有権者との「リアルな空間での繋がり」が重要になるため、ネットでのブランディングや意見の主張は当選を左右しなかった、というのがその理由です。候補者や党の「イメージ戦略」が投票行動を左右する傾向があるアメリカ大統領選とはここが違う点だ、と指摘されています。
イギリスでは有権者と繋がるためには、議員は日頃から地域の悩み相談を請け負ったり、市民の陳情を受けて問題を解決すると言った地道な活動が必要になります。ちなみにイギリスの有権者は日本よりもかなり気軽に議員に悩みを相談したり、陳情に行ったりするので、イギリスの選挙活動というのは、想像以上にベタベタ、というかドブ板であります。対面でのコミュニケーションにネットは勝てないというわけでね。
次に、ネットが選挙に及ぼす世代の違いも指摘されています。24歳以下だとネットが投票に及ぼす影響は高いのですが、政治的に活動的な45歳以上となると、ネットの影響はがくんと下がると指摘されています。
イギリスよりも高齢化が進んでいる日本では、ネット選挙運動を展開するにあたり、高齢者や熟年はネットに精通していないということを十分理解しておく必要があるでしょう。一部の高齢者はネットを使いこなしていますが、多くの人はタブレットPCの電源の入れ方すらわからないのですから。(なお、私の両親やその友人達、近所の人の多くもスマートフォンもタブレットPCも持っていない上、「それ何?美味しいの?」状態であります)
さらに、同レポートは、ネットを選挙でうまく使うコツは、ネットでは個人的なことをこまめに発信すること、と指摘しています。例えば、Stella Creasy議員は、オンラインでは国政などマクロな事柄ではなく、地域の問題や自分の性格や人柄がわかることをこまめに発信し大成功しました。また、他の候補者は自分の政策などを単に発信することが多いのですが、オンライン上で有権者と積極的に対話しています。結果、自身の選挙区での労働党の得票数増加に貢献し当選を果たします。
人柄を発信して読者の信頼を得ること、身近なことを発信して共感を得ること、読者とマメに対話すること、というのは、ソーシャルメディアを上手に使いこなしている民間企業や、ミュージシャン、漫画家さんなどと同じですね。
選挙であっても、ファンの支持を得るためのロジックは同じなのだ、ということが良くわかります。Twitterで大喧嘩を始めてしまったり、読者が不快になる弁明を延々としているどこかの政治家さんがどんどん人気が亡くなってしまう理由がなんとなくわかりますね。
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