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フェムトセルを用いたローカルブレイクアウト技術(前編)

2010.08.02

Updated by WirelessWire News編集部 on August 2, 2010, 19:00 pm JST

○6月18日、KDDI研究所は、Airvana社(米国マサチューセッツ州)と共同で、cdma2000 1Xの音声通信、1xEV-DOのIPデータ通信について、実機フェムトセルを利用したローカルブレイクアウトの実証実験に成功したと発表した(報道発表資料)。

○フェムトセルを用いたローカルブレイクアウト技術についての解説を、株式会社KDDI研究所 モバイルネットワークグループ 研究主査 千葉恒彦氏に執筆いただいた。前編では、ローカルブレイクアウト技術の背景と、音声フェムトセルを用いたローカルブレイクアウト技術について解説する。

1. はじめに

近年、携帯電話の新しい接続形態として、数十メートル程度の小さいエリアをカバーするフェムトセルが注目されている。フェムトセルには回線交換の音声用フェムトセルとデータ通信用フェムトセルが存在するが、一般的に高層ビルや地下など広域基地局からの電波が十分に到達しないエリアに配置し、通信エリアの拡充に用いられる。

これ以外にフェムトセルを用いるユーザへのメリットとして、少数ユーザで専有的に無線帯域を利用することによる通信容量の増加があげられる。また、通信事業者の観点からは、一般のブロードバンドアクセス回線を介して通信事業者のモバイルコアネットワークへ接続することによる広域無線基地局の負荷軽減などもあげられる。

本稿では、広域無線基地局だけでなく、広域無線アクセスネットワークやモバイルコアネットワークの負荷も軽減し、通信品質の向上を可能とする技術について提案する。

2. フェムトセルのモバイルコアネットワークへの収容

第3世代携帯電話に関する方式を規定する3GPP(3rd Generation Partner Project)や3GPP2(3rd Generation Partner Project 2)の標準アーキテクチャでは、音声用フェムトセルやデータ通信用フェムトセルを利用した通信を行う場合、図1に示すように、移動体通信事業者のネットワーク(広域無線アクセスネットワークとモバイルコアネットワーク)を経由して回線交換網やインターネットなどへ接続される。尚、図1の例では音声用フェムトセルとデータ通信用フェムトセルが一つのデバイスで動作している。よって、音声用フェムトセルに接続されたユーザ同士が音声通信を行う場合や、データ通信用フェムトセルを利用して自宅・オフィス内のローカルサーバ、およびインターネットへアクセスする場合には、以下の課題があげられる。

  • 経路の冗長化による通信品質の劣化
  • 将来的な無線区間の高速化にともなう広域無線アクセスネットワークの負荷増大
  • 将来的な無線区間の高速化にともなうモバイルコアネットワークの負荷増大

▼図1: フェムトセルの標準アーキテクチャ
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これらの標準アーキテクチャの課題を解決する手法としてローカルブレイクアウト技術が注目されている。ローカルブレイクアウトとは、移動体通信事業者のネットワークを介さずに自宅やオフィスなどでのローカルアクセスやインターネットへの直接通信を可能とする技術のことである。

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3. 音声用フェムトセルを用いたローカルブレイクアウト

本節では音声用フェムトセルを用いたローカルブレイクアウトについて説明する。音声用フェムトセルを用いたローカルブレイクアウトでは、ユーザ間の音声セッションを確立するための呼制御信号と音声データを分離し、呼制御信号については移動体通信事業者の呼制御システムへ転送しながら、音声データについてはフェムトセル間で直接送受信する。

図2に音声用フェムトセルの接続形態を示す。本構成では、アクセスネットワークに音声用フェムトセルを接続し、呼設定にはSIP(Session Initiation Protocol)[1]ベースの呼制御システムであるIMS(IP Multimedia Subsystem)[2]を用いることを想定している。よって、SIPに対応していない既存端末をIPネットワークに収容するため、音声用フェムトセルが端末の代わりにSIPクライアントとして動作し、 IMS へ登録を行うことで端末の位置管理を行う。

音声用フェムトセルの接続形態としては、図2に示すとおり2形態考えられる。1つは広域無線アクセスネットワークとアクセスゲートウェイを介して接続される広域無線アクセスネットワーク接続型の形態であり、3GPP2の標準構成として規定されている[3]。もう1つはモバイルコアネットワークにセキュリティゲートウェイであるFGW(Femto Gateway)を介して直接接続し、広域無線アクセスネットワークの負荷をより軽減するオールIP接続型の形態である。

▼図2: 音声用フェムトセルを用いたローカルブレイクアウトの構成
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【参考文献】
[1] J. Rosenberg et al., "SIP: Session Initiation Protocol," IETF RFC 3261, 2002.
[2] 3GPP, "IP Multimedia Subsystem (IMS); stage 2 (Release 9)," TS23.228 v9.3.0, 2010.
[3] 3GPP2, "cdma2000 Femtocell Network: 1x and IMS Network Aspects," X.S0059-200-0, 2010.

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図3に音声用フェムトセルを用いたローカルブレイクアウト方式を提案する。肝となるのは、手順4のSIP INVITEのSDP(Session Description Protocol)フィールドに設定される、フェムトセル#2との音声の送受信に用いるIPアドレスとポート番号の設定である。標準方式のフェムトセルではモバイルコアネットワークとの通信に用いるIPアドレス(IP#A)を設定するが、提案方式(ローカルブレークアウト)ではアクセスネットワークとの通信に用いるIPアドレス(IP#1)と任意に設定したポート番号(Port#1)を設定する。

結果的に、音声の送受信にはフェムトセル#1はIP#1及びPort#1、フェムトセル#2はIP#2及びPort#2をそれぞれ用いるため、標準方式とは異なり、SIPメッセージはIMSへ適切に転送しながら、音声はフェムトセル間で直接送受信することが可能となるのである。

▼図3: 音声用フェムトセルを用いたローカルブレイクアウト手順(クリックして拡大
201008021900-3.jpg

  1. アクセスネットワーク接続時、フェムトセル#1およびフェムトセル#2はDHCPなどにより取得したIPアドレス(IP#1、IP#2)を用いてFGWとの間にIPSecトンネルを確立する。また同時に、FGWよりフェムトセルの認証およびモバイルコアネットワークのIMSと通信可能なIPアドレス(IP#A、IP#B)を取得する(手順1)。
  2. フェムトセル#1は、端末#1の接続要求を検知すると無線リンクの確立に引き続き、FGWとのIPSecトンネルを経由し、IMSに対してSIP REGISTERを送信することにより、端末#1をIMSへ登録する(手順2)。
  3. 同様に、端末#2がフェムトセル#2へ接続されると、IP#Bの取得及びIMSへの登録が行われる(手順3)。
  4. 次に、端末#1が端末#2へ音声通信のために発信を行うと、フェムトセル#1はその発信信号をSIP INVITEへ変換し、IMSへ送信する(手順4)。
  5. フェムトセル#2は着信情報を端末#2へ通知するとともに端末#2を呼び出し中である状況を伝えるために180 RingingをIMS経由でフェムトセル#1に返信する(手順5)。
  6. 端末#2の応答を契機にフェムトセル#2は、SIP INVITEに対する200 OKをIMSへ返信する。この200 OKのSDPフィールドには、アクセスネットワークとの通信に用いるIPアドレス(IP#2)及び任意に設定したポート番号(Port#2)が設定される(手順6)。
  7. フェムトセル#1は200 OKを受信すると、端末#2の応答を端末#1へ通知するとともにIMS経由でフェムトセル#2に対してACKを送信する(手順7)。この時点でセッションが確立し、端末間でそれぞれのフェムトセルを経由し、音声の送受信が開始される(手順8)。尚、音声の暗号化にはSIPメッセージを用いて鍵を交換し、暗号を行うSRTP(Secure Real-time Transport Protocol)[4]やフェムトセル間でIPSecトンネルを確立する方法などを用いる。

後編に続く

【参考文献】
[4] M. Baugher et al., "The Secure Real-time Transport Protocol (SRTP)," IETF RFC 3711, 2004.

文・千葉恒彦(株式会社KDDI研究所 モバイルネットワークグループ 研究主査)

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