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フェムトセルを用いたローカルブレイクアウト技術(後編)

2010.08.03

Updated by WirelessWire News編集部 on August 3, 2010, 11:50 am JST

○6月18日、KDDI研究所は、Airvana社(米国マサチューセッツ州)と共同で、cdma2000 1Xの音声通信、1xEV-DOのIPデータ通信について、実機フェムトセルを利用したローカルブレイクアウトの実証実験に成功したと発表した(報道発表資料)。

○フェムトセルを用いたローカルブレイクアウト技術についての解説を、株式会社KDDI研究所 モバイルネットワークグループ 研究主査 千葉恒彦氏に執筆いただいた。後編では、データ通信用フェムトセルを用いたローカルブレイクアウト技術と、先日実施した実証実験について解説する。

前編はこちら

4. データ通信用フェムトセルを用いたローカルブレイクアウト

次にデータ通信用フェムトセルを用いたローカルブレイクアウトについて説明する。データ通信用フェムトセルのローカルブレイクアウトでは、フェムトセルにてIPレイヤを終端し、フェムトセルを提供している移動体通信事業者の方針に基づいて、IPパケットをルーティングする技術を用いて、自宅・オフィス内のローカルサーバとのローカルアクセスやインターネットとの直接通信を可能とする。

IPデータ通信では、音声用フェムトセルの場合とは異なり、端末自身がIPアドレスを取得し、クライアント・サーバ型の通信やピア・ツー・ピア型の通信を行う必要がある。データ通信用フェムトセルの広域無線アクセスネットワーク接続型の場合、図2に示したアクセスゲートウェイが端末へIPアドレスを割り当てる。

一方、オールIP接続型のローカルブレイクアウトを実現する提案方式では、図4に示すとおり、FGWがデータ通信用フェムトセルに対して端末へのIPアドレス割り当て可能リストを提供する。続いて、データ通信用フェムトセルは、端末へIPアドレスを割り当てるとともにNAPT(Network Address Port Translation)相当のIPアドレス・ポート変換を行うことでローカルブレイクアウトを実現する。また、アプリケーション毎にローカルブレイクアウトの実行判断を行う場合には、ユーザ認証時に認証サーバからデータ通信用フェムトセルへローカルブレイクアウトポリシーを伝達する。

データ通信用フェムトセルを用いたローカルブレイクアウトの実現形態としては、VoD通信などのクライアント・サーバ型とIMSを利用したピア・ツー・ピア型の通信について考慮する必要がある。

さらにピア・ツー・ピア型の拡張形態として、モバイルコアネットワークのIMSを利用する形態(IMSアプリケーションデータはローカルブレイクアウトを許可するがSIPメッセージはローカルブレイクアウトを許可しない)だけでなく、オフィスの内線用IMSを利用する形態(IMSアプリケーションデータもSIPメッセージもローカルブレイクアウトを許可する)についても考慮する必要がある。

▼図4: データ通信用フェムトセルを用いたローカルブレイクアウトの構成
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図5にクライアント・サーバ型通信の一例としてVoD通信におけるローカルブレイクアウト方式を提案する。肝となるのは、手順4のユーザ認証時のローカルブレイクアウトポリシーのフェムトセルへの伝達である。フェムトセルはアプリケーション毎、ユーザ毎にローカルブレイクアウトの実行判断を行うことが可能となるのである。尚、ローカルブレイクアウトの実行時には、手順7で示したとおり、IPアドレス・ポート番号変換をフェムトセルにて実施する。

▼図5: データ通信用フェムトセルを用いたVoD通信のローカルブレイクアウト手順(クリックして拡大
201008031150-5.jpg

  1. アクセスネットワーク接続時、フェムトセル#1およびフェムトセル#2はDHCPなどにより取得したIPアドレス(IP#1、IP#2)を用いてFGWとの間にIPSecトンネルを確立する。この手順においてフェムトセル#1およびフェムトセル#2は端末へ割り当てるIPアドレスのリスト(IP#A、IP#B)をFGWより取得する(手順1)。
  2. フェムトセル#1は、端末#1の接続要求を検知すると無線リンクの確立に引き続き、ユーザ認証およびIPアドレスの割り当て(IP#A)を行う。オペレータのポリシーに基づき、VoDのローカルブレイクアウトを許容しないアプリケーションによる通信の場合、認証サーバは認証応答メッセージを用いて、その設定をフェムトセル#1へ指示する(手順2)。
  3. ローカルブレイクアウトを許容されない通信の場合、端末#1がストリーミングデータを受信するためにはIPSecトンネルを介して、モバイルコアネットワークの上位に位置するグローバルVoDサーバへ配信要求を行う(手順3)。
  4. 一方、VoDのローカルブレイアウトを許容するアプリケーションの場合は、設定(ローカルVoDサーバ宛のIPアドレス、VoD通信のポート番号)をフェムトセル#2へ指示する(手順4)
  5. 端末#2はSTUN処理により、フェムトセル#2が端末#2のストリーミングデータ受信に用いるIPアドレス・ポート変換後のIPアドレス(IP#2)とポート番号(Port#2)を取得する(手順5)
  6. ストリーミング配信要求のSDPにそれらを設定する(手順6)。ここで、STUNの代わりにUPnP[6]を用いることでもよい。よって、フェムトセル#2のIPアドレス・ポート変換処理によりローカルブレイクアウトが実現可能となり、アクセスネットワーク上のローカルVoDサーバからストリーミングデータを受信することができる(手順7)。尚、図5において端末#1のSTUN(Session Traversal Utilities for NAT)[5]処理は省略したが、実施した場合においても送信したIPアドレスとポート番号は変換されない。

【参考文献】
[5] J. Rosenberg et al., "Session Traversal Utilities for NAT (STUN)," IETF RFC 5389, 2008.
[6] UPnP, http://www.upnp.org/

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5.実機フェムトセルでの実証実験

前章で提案した音声用フェムトセルとデータ通信用フェムトセルのローカルブレイクアウト方式を実現するため、cdma2000方式(音声:1X RTT、データ:EVDO Rev.A)の実機フェムトセルに音声通信時のSIPによる呼制御と音声分離を実現する複数IPアドレス利用機能、データ通信時のアドレス・ポート変換機能、ローカルブレイクアウトポリシー制御機能を実装し、それらの有効性を検証した。図6および図7に実証実験に用いた音声・データ通信兼用型フェムトセル(Airvana社製)と回線交換用端末(au E02SA)、およびデータ通信用端末(Android OSで実装したArmadilloとau W04Kデータ通信カード)の外観を示す。本実証実験は、世界的にも新しい試みであり、今後、次章に記載するフェムトセルを用いたローカルブレイクアウトと連携した新規サービスの創出などが期待される。

▼図6: 実験に用いた音声・データ通信兼用型フェムトセルと回線交換用端末
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▼図7: 実験に用いたデータ通信用端末
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6.将来サービスへの適用

ローカルブレイクアウトは移動体通信事業者のネットワークのトラフィックを軽減するだけでなく、自宅の機器と携帯電話間でデータ共有やバックアップを行ったり、オフィス内の機器から直接ストリーミングを再生したりすることが可能となる(図8)。よって、ローカルブレイクアウトを応用することにより、新規アプリケーションの創出やより高品質な通信の実現に向けた取り組みも重要となる。

▼図8: ローカルブレイクアウトを用いたホーム・オフィスネットワークの一例
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文・千葉恒彦(株式会社KDDI研究所 モバイルネットワークグループ 研究主査)

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