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シンガポールで新規参入を狙うMyRepublicが4G LTEトライアルを実施

シンガポールで新規参入を狙うMyRepublicが4G LTEトライアルを実施

MyRepublic tested 4G LTE, aims to become 4th MNO in Singapore

2016.03.08

Updated by Kazuteru Tamura on March 8, 2016, 17:17 pm JST

シンガポール共和国(以下、シンガポール)では携帯電話事業者が長らく3社の体制が続いているが、4社目の携帯電話事業者が誕生する可能性が高まっている。2011年に設立されたMyRepublicは新規参入に向けて特に活発な動きを見せており、LTEサービスのトライアルまで実施した。そんなMyRepublicの担当者とシンガポールで面会して新規参入に関する動向を取材したので紹介する。

15年以上も続く3社体制

シンガポールでは1994年3月にSingapore Telecommunications (Singtel)の子会社であるSingtel Mobile SingaporeがGSM方式で携帯電話サービスを開始し、1997年4月には2番目の携帯電話事業者としてM1がGSM方式で新規参入、さらに2000年4月にはStarHubの子会社であるStarHub MobileがGSM方式で新規参入を果たして携帯電話事業者は3社体制となった。しかし、StarHub Mobileの新規参入を最後に、仮想移動体通信事業者を除いてシンガポールで新規参入もしくは撤退した携帯電話事業者はない。

シンガポールの行政機関のひとつで電気通信事業などを管轄するInfocomm Development Authority of Singapore (シンガポール情報通信開発庁:以下、IDA)は新規参入によって競争を促進することを狙っており、2001年4月に実施した3G用の周波数オークションではライセンスの発給数を4枠と定めた。既存の携帯電話事業者は3社であるため、4枠の用意は新規参入を迎え入れることを意味したが、新規参入は実現しなかった。また、IDAは2010年に追加で3G用の周波数オークションを実施、2013年には4G用の周波数オークションを実施し、いずれも新規参入を受け付けたものの新規参入は実現しなかった。

そして、IDAは2016年に実施する4G用の周波数オークションでまた新規参入を受け付けることを明らかにした。2014年後半あたりからMyRepublicとConsistelが新規参入を検討していることが明らかになり、各社とも新規参入に向けた活動を繰り広げている。

MyRepublicが本格的なアピールを展開

MyRepublicとConsistelのうち、特に目立った活動を繰り広げている企業がMyRepublicである。MyRepublicは2011年にシンガポールで設立されており、光ファイバを利用した高速インターネットサービスを低料金で提供して存在感を高めている。シンガポールのみならずニュージーランドとインドネシアにも進出し、マレーシアへの進出も検討していることが分かっている。

MyRepublicは新規参入に向けた活動を本格化するにあたりスローガンをMY 4TH TELCOと定め、2015年よりMY 4TH TELCOのスローガンを利用して大々的なアピールを開始した。MyRepublicは新規参入を果たせば指定条件を満たすMyRepublicの高速インターネットサービス加入者に対して12ヶ月間はモバイルデータ通信を無料で提供することを約束するなど、顧客を味方にして新規参入に向けて優位性を確保する狙いがある。

▼MyRepublicの取扱店にはMyRepublicのロゴが掲げられている。
MyRepublicの取扱店にはMyRepublicのロゴが掲げられている。

LTEサービスのトライアルを実施

IDAはSingtel Mobile Singapore 、M1、StarHub Mobile、そしてMyRepublicの4社に対してHeterogeneous Network (以下、HetNet)のトライアル実施を許可した。なお、HetNetはセル半径や通信方式などが異なるシステムが同一エリア内で混在し、それぞれが協調することでネットワーク容量を増やす技術である。

シンガポールの西部に位置するジュロンレイク地区限定となるもののMyRepublicはHetNetのトライアル実施が認められたことでLTEネットワークの構築が可能となった。これは新規参入への活動を本格化する中で非常に都合が良く、もちろん新規参入に向けたアピールの場として活用した。

本来はHetNetのトライアルであるが、技術的なことに詳しくない人々に伝わりやすくするために呼称を「モビリティトライアル」とし、「MY 4TH TELCO」のスローガンを前面に押し出した。実質的には新規参入に向けたLTEサービスのトライアルとなり、2015年10月22日から2015年12月20日まで実施した。

モビリティトライアルの参加者にはMyRepublicのSIMカードとXiaomi Mi 4iを配布し、無制限でモバイルデータ通信を提供した。なお、Xiaomi Mi 4iを配布端末として選択した理由は、シンガポールで正規販売されており、通信方式や周波数に問題なく、価格が安かったためと説明している。

▼MyRepublicのSIMカードにはシンボルマークのロケットが印刷されている。
MyRepublicのSIMカードにはシンボルマークのロケットが印刷されている。

▼MyRepublicのLTEネットワークに接続したXiaomi Mi 4i。
MyRepublicのLTEネットワークに接続したXiaomi Mi 4i。

▼MyRepublicのLTEネットワークに接続して通信速度を測定した。
MyRepublicのLTEネットワークに接続して通信速度を測定した。

トライアルはTD-LTEを採用

MyRepublicは携帯電話事業用の周波数を保有していないが、HetNetのトライアルでは他社が利用していないTDDの周波数のみ利用が認められたためTD-LTE方式のネットワークを構築した。周波数は2.3GHz帯(Band 40)、2.5GHz帯(Band 41)および2.6GHz帯(Band 38)で、帯域幅はいずれも10MHz幅を使用した。基地局設備はAlcatel-LucentとAirspan Networksから調達している。担当者によれば、この2社を採用した理由は、Alcatel-Lucentは高速インターネットサービスの事業で取引実績があること、Airspan NetworksはコストやTD-LTE基地局の実績などを評価してとのことだ。

なお、IDAは4Gの新規参入用にTD-LTE方式に加えてFDD-LTE方式での利用も想定して周波数を確保しており、FDD-LTE方式は900MHz帯(Band 8)、TD-LTE方式は2.3GHz帯に該当する。

MyRepublicの担当者によれば、新規参入時にはFDD-LTE方式の900MHz帯を中心に展開する方針とのことだ。もちろんTD-LTE方式も展開するが、提供エリアの拡大に有利な900MHz帯を利用できるFDD-LTE方式を優先して展開する考えである。なお、運命の周波数オークションは2016年第3四半期に実施される見込みである。

▼MyRepublicのAlcatel-Lucent製基地局。
MyRepublicのAlcatel-Lucent製基地局。

▼MyRepublicのAirspan Networks製基地局。
MyRepublicのAirspan Networks製基地局。

ライバルはConsistel

MyRepublicが新規参入に向けて目立った活動を繰り広げているが、Consistelも新規参入を狙っている。Consistelは建物内における無線ネットワーク整備を中核事業とし、携帯電話事業者などと共同で建物内におけるモバイルネットワークや無線LANのエリア設計、構築、運用などを手掛ける。シンガポールの代表的なホテルであるマリーナベイサンズ内の無線ネットワーク整備は携帯電話事業者などと共同でConsistelが手掛けたことも知られている。

Consistelは新規参入に向けた事業を進めるために子会社としてOMGTELを設立しており、ブランド名をOMG!とすることを発表した。周波数オークションにはOMGTELを通じて参加する見込みである。なお、一時は子会社を通じて地下鉄など公共交通事業を手掛けるSMRTがOMGTELの支援を表明したものの、投資コストに懸念を表明してから目立った動きがなく、SMRTは手を引いた可能性がある。ただ、Consistelは通信業界で実績を残しており、決して侮れない。

▼シンガポールの代表的なホテルで特徴的な外観を持つマリーナベイサンズ。
シンガポールの代表的なホテルで特徴的な外観を持つマリーナベイサンズ。

新規参入の狙い

シンガポールは決して市場規模が大きいわけではなく、また長らく3社体制が続く中で新規参入後にシェアをすぐに奪うことは難しい。MyRepublicもそれは十分に理解している。MyRepublic担当者は「新規参入後はすぐにトップを狙うわけではなく、しばらくは利用者数ベースのシェアは10%前後を確保できれば問題ない」としており、現実的な判断で計画している。シェアは低くとも投資コストを抑えることで、長期的に見ると利益を生み出せるという考えだ。

また、MyRepublicは新規参入を果たせば既存の携帯電話事業者とは異なるサービスを実現するとアピールしており、野心的でスタートアップらしい攻めの姿勢を見せている。新規参入に向けた活動を本格化するにあたり複数のマニュフェストを掲げたが、そのうち最重要項目がモバイルデータ通信を無制限に利用できるプランの提供だ。

オンライン動画配信サービスを展開するNetflixがシンガポールに参入した際は歓迎の意向を表明しており、無制限のプランであればデータ通信容量を心配する必要がなく、安心してオンライン動画配信サービスを楽しめるため、このようなオンライン動画配信サービスが普及するにつれて無制限のプランは必要になるとアピールしている。また、通信速度の理論値を高速化するより、実用的に使える通信速度で無制限に利用できるプランを望む顧客は多いとしている。

モビリティトライアルではモバイルデータ通信を無制限で提供したが、顧客に無制限で使えることのメリットを伝えるとともに、新規参入後を想定したことは言うまでもない。

MyRepublicはインターネット利用のモバイル化や利用用途の多様化が進むと見込み、時代に応じたサービスの提供が必要と主張している。そして、成長市場への新規参入や事業の多角化により経営の安定性を向上させる狙いもある。

▼配布端末のXiaomi Mi 4iにはMyRepublicの壁紙がインストールされている。アイコンが被っているが、MY 4TH TELCOのスローガンやUNLIMITED DATAの文字が入っている。
配布端末のXiaomi Mi 4iにはMyRepublicの壁紙がインストールされている。アイコンが被っているが、MY 4TH TELCOのスローガンやUNLIMITED DATAの文字が入っている。

▼モビリティトライアルはMRTジュロンイースト駅の周辺で実施された。
モビリティトライアルはMRTジュロンイースト駅の周辺で実施された。

▼MRTジュロンイースト駅からすぐ近くのJCubeにはMyRepublicの基地局が設置された。
MRTジュロンイースト駅からすぐ近くのJCubeにはMyRepublicの基地局が設置された。

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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。