テルアビブから南に10kmほどのところにイスラエルで4番目の都市「リション・レジオン(Rishon LeTsiyon)」がある。旅行者に人気の観光名所があるわけではないが、そのほぼ中央あたり、整然と区画が整備された住宅地の中に、全長5,600メートル、片側2車線のゆったりした道路「Henry Kissinger St.」があり、その道路に沿って「The Norbel Prize Laureates Boulevard(ノーベル賞受賞者大通り)」と名付けられた遊歩道がある。
Wikipediaでノーベル賞受賞者を調べている時に、たまたまこの通りのことを知り、出張した際に訪ねてみた。通りの中央あたりにある由来を記した碑がこの写真である。
この碑を読むと、2004年に当時の市長が発案されたらしく、RISHON LE-ZION SALUTES THE JEWISH LAUREATES WHO BROUGHT PROGRESS TO HUMANITY AND HONOR TO OUR NAITONと書かれている。
ノーベル財団のホームページによれば、1901年から2017年の間にノーベル賞は923の個人と団体に授与された。Wikipediaによれば、その少なくとも20%はユダヤ人であり、6ジャンルすべてを受賞している。世界の人口の0.2%以下に過ぎないユダヤ人が、ノーベル賞の20%以上を受賞しているのである。その「すべてのユダヤ人ノーベル賞受賞者」の名前が刻まれた記念碑がこの遊歩道沿いに設けられている。
▼遊歩道の全景。植え込みを挟んで左側がHenry Kissinger St.。数メータ間隔で両側に設置されている円柱形のものが、ノーベル賞受賞者の碑。
▼1970年のノーベル経済学賞を受賞した、アメリカの経済学者、サムエルソンの碑。
このように、すべてのユダヤ人受賞者の名前が刻まれた碑が数百メートルに渡って設置され、ヘブライ語と英語の説明が刻まれている。また、下記のようにユダヤ人であることを明記している。
Jewish American Economist
Jewish German Poet
Jewish French Biologist
German Born Jewish American Biochemist
イスラエル建国は1948年。国籍という意味では多様であり、その多くが大国である米国なのも事実である。しかし、ハンガリーやアルゼンチンなど、必ずしも経済的に強国とはいえない国籍のユダヤ人も多い。
最近、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典東工大栄誉教授が、日本の基礎科学力の低下に警鐘をならしており、記事(「大隅良典氏『ノーベル賞、日本から出なくなる』 基礎科学細れば産業も育たず」)の論調としては、基礎研究への予算削減が問題、というような平凡な結論になっている。しかし、本当に基礎研究に潤沢な予算と自由度を与えて研究者に好きなことをやらせれば「ノーベル賞学者」が生まれるのだろうか?
過去10年間イスラエルと付き合ってきたなかで、最も分かりやすい日本人との違いが、ユダヤ人の意思の強さと、日本人の同調行動への流されやすさ、ではないかと感じている。彼等の意思の強さは、時として政治的に様々な軋轢を生むことも事実であり、個人レベルの経験でも、実際にビジネス交渉などは一筋縄では行かなかった。
筆者がビジネスの中で経験したその「意思」は、単なる思いつき等ではなく、実に緻密に考えられた結果としての意思であり、容易に論破することはできないように良く組み立てられている事が多かった。また、ノーベル賞とは質が異なるかもしれないが、近年の数多くのイスラエル発イノベーションを見ても、技術が優れているというよりも、その着眼点や発想に感心することが多い。実に良く考えられているのだ。
彼等と話をしていると、しばしば自己中心的ではあるものの、
・成果がなかなか出なくても、自分を信じて継続する力
・人とは違う新しいことをやりたい、という気持ち
・難しい課題から逃げずに、なんとか答えを出そうと取り組む姿勢
・成功したいという意思
・自信
といったこと感じさせられる。これらの強さが、リスクを避け、同調圧力に流されやすい日本人とは決定的に異なると考える。基礎科学であろうが、実用化であろうが、課題に取り組む強い意思がなければ成果は得られない。制度やお金以前に、われわれ自身の中に見直すべきものがあるはずだ。
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登録はこちらNTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu