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目的が明確なAI導入支援。石川県の産学官連携による「AI実践道場」での推進体制

2020.11.30

Updated by SAGOJO on November 30, 2020, 13:30 pm JST Sponsored by 石川県AI実践道場

「AIの活用」は、今やビジネスのトレンドであり、導入を希望する企業は多い。それゆえ、入門講座は引く手あまた。夢を抱いて受講する企業も多いだろう。しかし、そのうちどれだけが、「目的を見据えたAI活用」を実現しているだろうか。

「テクノロジーはあくまで手段であり、導入がゴールではない」という思いを共有した上で開講された中小企業向けのAI活用講座が、石川県にある。石川県、金沢工業大学(KIT)、日本IBM、e-netソリューションズが2018年から産学官連携で行っている「AI実践道場」だ。

創生する未来では、石川県の取り組みから中小企業のデータやAIの活用促進への熱意とその目指すところについて、5回にわたって紹介したい。AIの事業活用を考えている自治体や事業者にとって、大いに参考になるはずである。

初回である本稿では、「AI実践道場」の石川県庁の担当者・清塚大輔氏に登場いただき、本プロジェクト発足の経緯から県職員としての関わり、産学官連携の取り組みに寄せる期待を詳しく聞いた。

「リスクやコストが不安」「メリットが見えない」中小企業にいかにしてAI活用の支援をするか

「中小企業のAI活用は難しいテーマですから、予算を付けて民間に『やっておいてね』と言えば進むような事業ではないと、元から思っていました」と語るのは、石川県商工労働部労働企画課の清塚大輔氏だ。石川県の「AI実践道場」の実質的な主担当者として、自身も積極的に企業を訪問し、企業ニーズを引き出すことやデータ活用について学ぶなど、熱心にこの企画に取り組んでいる。

石川県は「モノづくり産業」が地域経済の一つの軸になっている土地だ。石川県として、何を支援するのが県民のためになるのかを考えた時に、このモノづくり企業を支援していくのは当然のことといえる。しかし、「モノづくり企業は中小企業が多く、リスクやコストを考えるとAIなどの新しい技術の活用にはなかなか積極的になれません。現状ではメリットが見えにくいのも、手を出しづらい理由の一つです。そこでまずは、『生産性向上』『効率化』『合理化』という企業側に最も分かりやすいキーワードで、中小企業の新しい技術導入の背中を押すことから始めました」と清塚氏は語る。

とはいえ、AIを活用することでいったい何ができるのか。そもそも「AI」とは何なのか。企業側にも基本的な知識が必要だ。そこで、地元企業のデータ利活用のリテラシーをどのようにして高めるか、という視点から施策を検討し、まずは金沢工業大学(KIT)のAIラボとのコラボレーションで進めていくことにした。

「県が地元企業を支えるところに、地域に根ざした大学が間に入ってもらうことで、実績を蓄積して関係を持続し、次に繋げることが可能になります」。大学が入ることで「AI実践道場」は行政主導の1回限りの講座ではなく、オープンな「場」になった。さらに、実習ツールとして日本IBMの協力によりAI「Watson」の利用が実現し、ここに産学官の連携で講座を実施する座組が整った。

「非エンジニア向け」のAI活用講座に託した想い

「AI実践道場」で特徴的なのは、その受講者だ。「AIの導入」を目的とした講座と聞くと、参加者はシステムエンジニアやプログラミングができるような職種が対象になるイメージがあるだろう。しかし、本講座の募集要項には「石川県内の企業に所属する、営業・総務・経営等の非エンジニアの方」と書かれている。そもそも、モノづくりの中小企業にはエンジニアを抱えていない企業も多い。非エンジニア職の人たちに、最新のテクノロジーであるAIやデータマイニングを活用するスキルを修得してほしい、というこの講座の期待と目的が表れているのだ。

「最初は手探りでした。まずは、KITのラボを使って集合研修を始めました。地元企業にデータを提供していただき、サンプルを用いて研修を実施したんです」と清塚氏。この集合研修では、地元金沢の工芸系企業に協力を求め、提供されたデータを用いて、自然言語分析を体験してみようという内容だった。

講座は、「IBM Watson」とテキストマイニングツールを活用し、AI分析に必要な基本データの設計、アンケートで収集したビッグデータを活用したAI分析、またチャットボット(対話型AIシステム)の構築などを受講者が体験した。ツールを活用することで非プログラマでもデータ解析することができる、という実感を持ってもらうための講座だ(本研修の詳細については、本連載の2回目に紹介する予定)。

自ら動く意思のある企業の熱量を途切れさせない「ステップアップコース」

前段の集合研修では、参加企業が製造系、サービス系、IT系と多岐に渡った。そのため、一部参加企業から「自分の業務と関係のない業種データを取り扱う研修では、自分事として考えるのが難しい」という声が挙がってきたという。それまでAI導入を考えたこともなかった企業からの「主体的なデータ活用への積極的な姿勢」の表出ともいえるだろう。

▲幅広いジャンルの中小企業が集合研修に参加した

「そのような声に応えていくために何ができるかを考えた結果、各企業のデータや組織そのものとしっかり膝を付き合わせて、AI活用の方向性を考えていく、実習型の研修『ステップアップコース』の開催をすることが決定しました」と清塚氏は振り返る。

AIはあくまでツールであり、自社に眠っているデータをどう活用していくかが大切だ。では、参加企業がそれぞれのデータを使ってAIを活用するには、どうすれば良いのだろうか。さらに、AI活用に興味を持って講座に参加してみたものの、普段の仕事と並行して新しい技術に挑戦し、モチベーションを保ち続けていくことは誰にでもできることではない。

自社のデータ群から何のデータが利用できるか自ら考え、どのようなツールを作るのかゼロから企画し、実装までを行う「ステップアップコース」。このコース参加企業の成果については、本連載の3回目、4回目にて詳しく紹介したい。

「自分が今まで見てきた他のハンズオン講座だと、挫折する企業も目に付きました。AI活用の取り組みを『辛いなぁ、嫌だなぁ』と終わらせないように、ステップアップコースでは講師陣の皆さんには本当にきめ細かくフォローしていただきました。参加された企業の反応を見ても、お互いが盛り上がる形になっていて、本当に凄いなと思いました」

熱く語る清塚氏自身も集合研修に出席し、ステップアップコースの企業訪問にも同行するなど、講座の熱量を途切れさせないよう尽力してきた。

アフターコロナ、デジタルトランスフォーメーション(DX)、そしてそれを実現するキーワードとしてのAI、IoT。「新しいことにチャレンジしたい」という意欲を持った多くの企業人に、新しいスキルを獲得してほしい。そして、解決の糸口を一緒に探してくれるような人的ネットワークを構築してほしい。そのような取り組みが、これからの時代はより一層重要になってくるだろう。石川県ではこのような考えの下、このコロナ禍でも途切れることなく講座を開講し続けている。

「考え方の方向性はいろいろあるテーマだと思いますし、具体的な動き方についても千差万別だと思います。難しいからこそ、緊張感や斬新さを維持して尻すぼみにならないようにしなければ、という意識でいます。結果がどうなるかはちょっとまだ分からないですけれど、三かされる企業や講師の方々、スタッフの皆さんと一緒に、汗をかきながら動いて行けたらと思います」

次回以降は、「AI実践道場」講座のより具体的な内容について、また参加企業の講座参加における課題認識や受講後の変化などを聞いていく。

(取材・文:かのうよしこ 写真:スガタカシ 編集:杉田研人 企画:SAGOJO)

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プロフェッショナルなスキルを持つ旅人のプラットフォームSAGOJOのライターが、現地取材をもとに現地住民が見落としている、ソトモノだからこそわかる現地の魅力・課題を掘り起こします。