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50年前の旅行エッセイから読み解く 高度経済成長後の日本人の心境の変化

2023.08.03

Updated by WirelessWire News編集部 on August 3, 2023, 06:49 am JST

前回紹介した祖父の旅行記だが、最後の章は旅中に思ったことを書き連ねたエッセイになっている。エッセイは13項目あり、旅後の祖父の思いが率直に書かれており実に興味深い。50年前とはいえ、現在の日本にも通ずる鋭い指摘もある。同時に当時の日本社会を窺い知れる箇所もあり、資料としても貴重だ。

私が記憶している祖父は冗談を言うことが多く、私が未成年だったせいもあると思うが、あまり社会や政治を語りたがらない人だった。それだけに、これだけ率直に所見が述べられていることに驚いた。同時に親族として祖父の新たな一面が見られたことに喜びを感じた。

ここでは13項目のうち、特に興味深いと思われる3項目を抜粋してみた。ぜひ紅茶を片手に読んでもらいたい。

世界を見始めた日本人の視点

思いつき

最低3カ月はその地に滞在しないと、その国の事情はわからないといわれる。会話すら満足にできずに駆け足で巡ってきて来た国々で私なりに感じた事柄がある。

出発を前にして図書館から雑多な本(旅行記、随筆、写真集、歴史書)を借り出し、また仕事上の文献などを読んで、いくばくかの予備知識は得ていたものの、やはり現地を見るに越したことはない。見ると聞くとではずいぶん違っていた。

風俗、習慣、気候、風土、物の見方など、それぞれ大きな差があるのはいかんともしがたく、我が国と比較すること自体無理もある。あるいは事象一つとらえても、そうなるだけの深く長い背景があってのことで、早計に判断すべきではないと感じた。

自由

第二次世界大戦後、我が国の得た最大のものは自由だといわれ、それなりに会得もしたが、各国間でずいぶん差がある。時には奇異と思うことすらあった。政治、経済上はもちろん、性の自由、役人の自由裁量、交通ルールの自由などなど、興味深いことに出くわした。

我が国が自由に恵まれているとはいえ、島国的な閉鎖された中の自由で、一朝一夕にはまだ埋められないものがまだまだ残されている。

フランクフルトのホテルの向かいのイスラエル航空事務所の玄関に実弾装備の自動小銃を肩にした警備兵を見、また平和そのもののチューリッヒの街でバズーカ砲、機関銃まで売っている大きな店に驚かされた。スイスで帰休中の市民が銃を持っていた。

平和と自由について講演も聞いたが、陸続きの国境を接し、数度にわたる過去の敵国侵入で先祖から受け継がれた血の濃さは、戦争に対する考えが全く違っていることに驚かされた。

ゆとり

終戦後、私たちがガツガツして生きていた時代から思うと、今はずいぶん心のゆとりを取り戻したものである。

モスクワの空港、ホテル、大学などで体験した。無頓着とも思われるおおらかさ、国が広ければ国民性もゆったりするものなのか。コペンハーゲンの福祉の行き過ぎを思わせる自由な解放感、伝統を思わせるロンドンっ子のゆとりと自尊心の強さ。かつての栄光にあぐらをかき南国の陽光に酔うローマ人の気楽さなどなど。

バス、レストラン、居酒屋、商店、街頭で見た大陸人のゆとり。同じ玉遊びでも、我が国のパチンコ屋の喧騒の中でせわしくするのと、パリーにある兵院の前の木陰でのんきにペタンクをやっている連中との差はどうだろう。もっと、のんびりとは思うものの、我が周辺はそれを許容してくれない。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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