2019年1月に亡くなられた、橋本治さんによる新刊『そして、みんなバカになった』(河出新書)が4月28日、刊行になりました。河出書房新社でこの新書を担当された辻さんに、この本の内容と今これを出版したのはなぜなのかについて寄稿していただきました。
この本は、かつて雑誌に掲載されたものの現在では読むことが難しくなっている、橋本治さんへの貴重なインタビューをまとめた書籍です。「熱風」編集部、小柳学さん、木村俊介さん、「考える人」編集部、前田塁さん、仲俣暁生さんがそれぞれ聞き手となったインタビューを収録しています。
良いインタビューというものは、ただ語りを文字にしただけの単純なものではありません。プロのインタビュアーは、答える側を即興のやりとりで刺激し、思考を活発にさせ、時に本人ですら意外に感じる言葉を引き出します。
インタビューが雑誌掲載される際には、インタビュイーやインタビュアー、編集者や校正者の確認が入り、インタビュー時に発せられた言葉は手を加えられ、変化していきます。しかし、原稿として書かれた言葉よりも、確実に「生の言葉」に近いといえます。橋本さんの著作は、共著や増補版なども含めると、これまで300冊近く刊行されており、その多くは橋本さんの手によって書かれたものです。そういう意味では、今回の本は、橋本さんの膨大な著作物の中でも一味違ったものだといえるはずです。
また、今回の書籍収録にあたっては、2000年代以降のインタビューに絞りました。橋本さんの単行本未収録インタビューはまだ他にもあるのですが、長い間、橋本さんの身近におられた方によると、2000年頃から依頼があっても断ることが徐々に増えていたそうです。そういう意味でも、この頃のインタビューはとても貴重なものでした。
「橋本さんが生きていたら、今どんなことを思うだろう?」
橋本さんのファンだった方は、こう思ったことが一度はあると思います。橋本さんは既に亡くなっているので、当然新しく書かれた文章を読むことはできませんし、語る言葉を聞くことはできません。しかし、それを想像することはできます。
今回の書籍のインタビューは、それぞれ2004年、2006年、2009年、2010年、2011年、2017年に収録されたものであり、一冊にまとめられること想定して収録されたものではありません。しかし、今回の書籍を読んでいると、複数のインタビューの中に共通する話題があることに気付きます。
「日本という国はどういう成り立ちなのか」
「この国はどうなっていくのか」
「教養とは何なのか?」
「老いや病について」……
一見バラバラに見えるインタビューの中に、こういった共通する部分が見つかります。今、橋本さんが生きていたら、この日本についてどう考え、どんな言葉を発するのか。今回の書籍に収録したインタビューで共通する部分こそが、恐らく晩年の橋本さんの中で変わらなかったものなのだと思います。
「橋本さんが生きていたら、今どんなことを思うだろう?」
この本の中で繰り返し語られる、橋本さんの中で変わらなかったものこそが、その問いに対する答えを想像するよすがになるのだと思います。なるべく現在に近い時期に収録されたインタビューを読むことによって、読者の心の中に橋本さんの声が聞こえてくるのではないか。そう願って、この本を今、刊行しました。
今回、高橋源一郎さんに、「はじめに」と「おわりに」を書き下ろしていただきました。その「おわりに」の中で、高橋さんはこう書かれています。
社会や世界がどうしようもなくぐらついてきたとき、人びとは、「橋本さん」を発見せざるを得なかったのです。
とても印象的だったので、今回の新書の帯にも引用させてもらいました。
今、まさに橋本さんが必要な時代が訪れています。もし橋本さんが生きていたら、今の日本を見て、どんなことを言うだろう。そんな想像しながら、今回の新刊を読んで頂けますと幸いです。
河出書房新社 編集部 辻純平
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