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世界の概況(2)先進国市場はARPU向上の鍵を握る「スマートフォン」に注目

2010.04.08

Updated by Michi Kaifu on April 8, 2010, 11:50 am JST

○先進国市場は、米国・欧州・日本という、3つの分類で考えるとわかりやすい。いずれも、それぞれの異なる特徴と共通の要素がある。

○それぞれの市場では、市場細分化の度合いとデータ通信サービスの特徴によって、キャリアの支配力が異なっている。一方、音声からデータへの大きな流れは、3つの市場に共通している。

1. 米国:統合されたプラットフォームに参入するネット企業

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(cc) Image by Tony

米国市場には、他の地域と比べ、下記のような特徴がある。

  • 「原則自由」「政府の介入を嫌う」という傾向が強い国民性である。このため、90年代のデジタル移行時に方式を完全に絞らず3方式並立となり、細分化の弊害を招いた。一方、こうした国民性のために、技術・ビジネスの両面でイノベーションを起こすことが得意である。
  • 強力なネット企業が多く、固定網経由のネットのユーザーが多く開発者も多いため、携帯のデータ利用も「スマートフォン」および「ネットとの連携」を指向する傾向が強い。
  • 歴史的な経緯により、周波数免許が非常に細かい地域(800MHz帯で合計734、1.9GHz帯A/B免許51およびC〜F免許493)に分かれており、キャリアの数も非常に多い。徐々に統合が進み、現在では主要4事業者に集中してきているが、過疎地事業者などを含めるとまだ180社程度(2006年現在、CTIAによる)ある。
  • 有力キャリアがサービスだけでなく端末販売でも力を持ち、市場支配力が大きい。「端末販売助成金をつける代わりに2年契約」という囲い込みの仕組みが健在である。
  • プリペイドの比率が低く、高めの基本料金に多くの「無料通話」をつけるパッケージが基本であるために、ARPUが比較的高い。
  • 車社会であり、携帯電話は車を運転しながら使われることが伝統的に多い。このため音声サービスの重要性が高い。
  • 一方で、2000年以降、SMS(Short Message Service、テキスト・メッセージとも言われる)が若年層を中心に急速に普及し、現在ではキャリアの非音声売上の大きな部分を占め、加入者一人当たりのSMS送受信数は欧州を上回っていると言われる(※出典)。

米国は、人口も多く売上も大きい豊かな国内市場をもつにもかかわらず、免許地域という面で伝統的に「細分化(フラグメンテーション)」しており、世界的に携帯サービスが大きく発展した2Gデジタル移行時には、デジタル方式の3方式並立も加わって細分化の弊害が大きくなった。これに加え、アナログですでに設備投資と端末普及が進んでいたために、最初からデジタルで新規ユーザーを入れた他国と比べて手間とコストがかかり、デジタル化が遅れた。

細分化の弊害とは、市場がばらばらに分かれ、ユーザー数が分散してしまうと、スケールメリットが出ずコストが下がらない、広い地域で同一のサービスが利用できない、相互にトラフィックや課金情報をやりとりするための手間がかかりすぎる、大きな技術開発投資ができない、といった種々の問題が出てくるということである。

2G移行後、デジタル化によるコスト減と激烈な競争により料金は大幅に安くなったが、細分化の問題やデジタル化の遅れにより、コンテンツ配信などの新しいサービスで日欧に遅れをとった。

しかし、その後キャリアの統合とデジタル方式の集約化が徐々に進み、携帯サービスがようやく「大きなプラットフォーム」となってきた。このプラットフォームの上に、ネット対応端末スマートフォンが発達し、アップル・グーグルというネットの2大プレイヤーが大きくコミットすることにより、新しい動きが米国から出てくるようになった。

イノベーションという、本来の強みを生かして、米国の携帯市場は活気を取り戻しつつある。

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2. 欧州:「欧州市場」の数量メリットを武器に新興国市場に活路を見出す

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(cc) Image by Marco Bellucci

欧州は、各国ごとの特徴があるが、全体としていくつかの特徴がある。

  • 欧州は、多くの国に分かれ、人口(潜在市場)・売上の両面で、より人口が大きく単一市場である米国や日本に対して不利である。
  • この不利を補うために、種々の技術方式や基本的な競争ルールを欧州内で共通化している。2Gデジタルでは、共通の周波数で共通の技術方式(GSM)を採用。これにより、機器の数がまとまり、コストが下がった。
  • 1990年代終わり頃の通信の国際的自由化により、欧州域内でのキャリアの相互参入が進み、少数の大手キャリアがどの国でも共通ブランドでサービスを提供するようになった。
  • GSM方式の一部に規定されている文字メール交換システム「Short Message Service (SMS)」は、各国に分かれるキャリアの間どれでもやりとりできる「最大公約数」であり、安価・手軽なコミュニケーション方式として定着した。現在ではメッセージだけでなく、コンテンツ配信・課金など種々の機能を果たすようになり、欧州の携帯文化の中で大きな位置を占めている。ただし、現在では米国での趨勢を受け、スマートフォンの人気が高くなり、ネット系サービスの存在も大きくなりつつある。
  • 各キャリアの間で方式がすべて統一され、端末はキャリアの端末販売助成金と契約の縛りがないために、ユーザーはいつでもキャリアも端末も変更することができる。多くの国ではプリペイドが多いことも加わり、ユーザーとキャリアの間のつながりは、日米に比べて一般に薄く、ARPUは低い。一方、普及率は100%を超えている国が多く、ユーザーあたり一台以上を保有していることが多い。

全体として「市場としては均一なのに、わざわざ細分化したがる」米国と全く逆で、欧州は「もともと市場が細分化しているので、なんとか統合したがる」という矛盾を抱えている。基本的な仕組みは共通だが、各国ごとにユーザーの嗜好や、規制環境や国ごとの政府・キャリアの方針などが異なり、やはり市場としては完全に同一ではない。

ここ数年、欧州キャリアとベンダーは、新興国市場への展開に力を入れている。欧州はかつての植民地と東欧という新興国市場をいわば「身内」として持っている。GSM方式やSMSなどの欧州共通方式は、事業上のつながりや、すでに大きな数量メリットがあるためのコスト優位などから、新興国に広く普及している。こうした新興国市場への裾野の広がりは、欧州のひとつの大きな特徴となっている。

※一般には「テキスト・メッセージ」または「テキスティング」と呼ばれることが多い。

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3. 日本:ネットとの関連薄いキャリア独自サービスで収益強化

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(cc) Image by Jim Epler
  • 欧米と比べ、日本市場は非常に均質であり、市場規模も金額的には単一国としては米国に次ぐ大きさである。
  • 技術方式やキャリアの数の面では、米国と欧州の中間的である。全体に、国内での細分化の問題は欧米と比べて少ない。
  • 米国と似てキャリアの支配力が大きく、ARPUが高い。そのマージンを新サービスや魅力的な端末の開発・普及につぎ込むことで、90年代後半から2000年代前半にかけ、iモード、おサイフケータイ、ワンセグなど急速に独自のサービスが発達した。端末に高い機能を搭載し、価値を高めてユーザーをひきつけることが主要なキャリアの戦略となっている。
  • 日本の進んだサービスは、携帯独自で閉じたもので、ネットではなくSMSを中心に種々サービスが発展した欧州と比べても、米国のようなネットとの関連はさらに薄い。
  • 欧州・新興国で主流のSMSは日本ではほとんど使われていない。その代わりに、携帯キャリア経由の電子メールが広く普及している。日本の携帯メールは、インターネットの「普通の電子メール」と同じだが、SMSはインターネットを使わず、電話の仕組みの一部である、という違いがある。

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4. 先進国市場の共通点

このようにそれぞれ特徴のある先進国市場であるが、共通点もある。

いずれの市場でも、従来ドル箱であった音声サービスが陰りを見せ、(米国以外では)ARPUが減少する中、携帯データサービスの比率が大きくなりつつある。しかし、音声の時代にはキャリアがすべて完結していたサービスが、データの世界では、アップル、グーグル、携帯ゲーム企業など、多くの上位レイヤー企業との分け合いとなってしまい、キャリアの取り分はだんだん痩せていく。

その一方で、次世代サービス展開と、増大するデータ量に対応するために、設備投資はかさむ。固定通信部門を持つ大手キャリアでは、回収期間の長いブロードバンド回線を建設するための設備投資が必要となり、「携帯で稼いでブロードバンドにつぎこむ」状況がつづいている。

こうした中で、ARPUを引き上げ、新しいサービスを生み出す余地の大きいスマートフォンに期待が集まる。各国ともに、「台風の目」はiPhoneを中心とするスマートフォンとなっている。

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海部美知(かいふ・みち)

ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
(ブログ)Tech Mom from Silicon Valley
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