○米国の端末シェアは大きく様変わりしつつある。スマートフォン対応が遅れたMotorola、Nokiaが凋落傾向にある一方、逆にその流れにのった韓国メーカーとRIMが勢力を増している。
○米国での端末販売の仕組みは日本とほぼ同様であり、キャリアの端末メーカーに対する支配力はある意味日本のキャリアよりも強いといえる。その中でも比較的ユニークな端末戦略を取るキャリアとして、スプリントとTモバイルの戦略を紹介しよう。
最近のWirelessWire記事にあるように、米国の第一四半期で端末のシェアトップはサムスンとモトローラが分けあい、ほんのわずかの差でLGが続いていると推計されている。この数字は、comScore社のアンケート調査によるもので、販売でなく、調査期間中のユーザーの「利用状況」である。この3社が圧倒的トップで、これにRIM(ブラックベリー)とノキアがかなり離れて続く。
世界編第四回で紹介した世界のシェアと比べると、世界首位のノキアと、米国地元メーカーのモトローラがほぼ逆転した順位となっている。また、米国でスマートフォンのリーダーであるRIMの存在感が大きいことも特徴で、ここで数字は5位までしか出ていないが、アップルは6位につけている。上位の各社とも、対応OSや販売戦略は異なるが、いずれもスマートフォンを手がけている。
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▼Motorola RAZR
同じ調査ではないが、2005年第三四半期の販売統計を例にとって比較すると、この頃はモトローラが圧倒的に強く、これにLG・ノキア・サムスンがほぼ同率で続く状況だった。00年代半ば頃は、モトローラの「RAZR(レイザー)」という薄型折りたたみ式端末が大人気で、こうした「日本型」フォームファクターの全盛期であった。三洋も5位に食い込んでおり、2006年発売の「Katana」はRAZRに似たタイプで人気があり、これに6位京セラが続いていた。しかし、その後三洋と京セラは合併による数量効果を活かせず、スマートフォンに対応しなかったことから、現在では番外に去っている。
当時と現在を比べると、スマートフォン対応の遅れたモトローラとノキアが落ち込み、逆にその流れに乗った韓国メーカーとRIMがシェアを上げているということになる。なお、RIM・アップルなどスマートフォンの詳細については次の回に譲る。
端末販売の仕組みはほぼ日本と同様で、キャリアがメーカーから買取り、自社ショップや販売代理店を通じて販売する。2年契約の縛りと交換で、端末販売奨励金がついて安く買えるのも日本と同じである。多くの場合、主要な機種は消費者に覚えやすい商品名をつけ、キャリアもチラシやテレビCMなどでこれら主力モデルをプッシュする。
最近は以前より多くなったとはいえ、日本と比べると端末の付加機能やデザインのバラエティは少ない。キャリアは価格帯やターゲットとするユーザー層などにより、ラインアップを調整して絞り、宣伝を主力端末に集中的に投下して、自社にとって望ましい機種にリードする傾向がある。北米編第一回で紹介したように、トップキャリアのベライゾンはネットワーク品質を売り物にしており、端末の高機能化は「自社の商売を阻害しない」(自社経由でないテレビが見られる端末は採用しない、など)、「消費者を混乱させない」(異なるメーカーでも、ベライゾン対応のどの端末もメニュー配置が共通、など)などといった基準で、強くコントロールしており、やたら高機能競争をさせない。よく日本では「日本のキャリアの支配力がメーカーに対して大きすぎる」という意見が聞かれるが、その意味では米国のほうがもっと、キャリアの支配力が大きいと見ることもできる。
そんな中で、差別化のために新しいコンセプトの端末や特徴的な端末を比較的積極的に導入するのは、下位のキャリアであることが多い。iPhoneを扱うのはAT&Tであるが、最近ではスプリントのパームPre、TモバイルのグーグルNexusOneなどの例がある。スプリントとTモバイルは、いずれも90年代のデジタル化から本格参入した新規参入組であり、上位2社と比べると個性が強い。前回の上位2社に続き、2番手組のこれら2社の特徴を以下に見てみよう。
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スプリントの社名は、正式には「スプリント・ネクステル」である。1899年創業の独立系地域電話会社からスタートし、お決まりの買収を重ね、80年代に長距離電話サービスに参入して広く知られるようになった。96年の2G周波数オークションで多くの地域免許を獲得して、全国ブランドとして携帯電話サービスを開始、2004年にはネクステルを買収して現在の名称となった。方式はベライゾンと同じCDMA系技術を使っている1。
同社は後発組としてのサービス開始以来、新しいタイプの端末やデータ系サービスで他社に先んじることを戦略としてきた。2G開始当時に米国ではまだ珍しかった、日本型の折りたたみ式・薄型・カメラ付き・カラー画面・和音の端末を韓国メーカーから導入して成功。その後も、携帯テレビサービスのMobiTV、携帯ゲームや各種コンテンツなど、データ系の新しいサービスを積極的に導入して、新しいモノ好きな若年層にアピールする特徴を打ち出してきた。
しかし、ネクステルを買収した前後からやや失速。ネクステルは、ブルーカラーの現場向けを中心に、「ウォーキートーキー」としても使える「プッシュ・ツー・トーク」サービスを提供するキャリアで、技術も顧客層もスプリントと異なっていた。またスプリントとネクステルは、2.5GHz帯の免許2をそれぞれ徐々に買い集めていたが、両社の合併で集中してしまうため、規制当局から独占禁止を懸念する声があがり、この周波数で無線ブロードバンドサービスを展開することを当局に約束して、ようやく合併の認可を得た。その後同社がこの周波数で採用を決めたモバイルWiMAX方式は、一時は注目されたものの、LTEが次世代世界標準として定着してモメンタムを失った。しかし、同社ではすでにWiMAXにコミットしてしまったために、戦略の自由が制限されることになった。
一方で、世界的に同社の採用するCDMA系技術のシェアが下がり、端末ベンダーのサポートが得られにくくなっているという問題もある。前述のように、韓国メーカーの世界での躍進のきっかけはスプリントが作ったとも言えるが、現在ではCDMA系は少数の国に孤立した状態となっている。このため、iPhoneやNexusOneのような「世界戦略端末」はGSM系だけに対応することが多くなり、CDMAは対応しないか、または後回しになってしまう。一方ベライゾンほど米国内でのシェアも持たず、今後伸びる見通しもないため、米国だけが対象の端末であっても、端末ベンダーから見た優先順位が低い。こうしたことから、他キャリアと際立った先進性を打ち出せるような端末を出しにくくなっている。
同社は現在、WiMAXサービス(「4G」)をイメージとして前面に出しながら、プリペイドやMVNO向けの「サブプライム」市場や、無線組み込み機器(初代Kindleなど)などで顧客を確保すべく努力しているが、2007年以来加入者純減ペースがつづいている。
(4G対応携帯ホットスポットの最新テレビCM。AT&TのiPhone3G接続が遅いことを暗に揶揄している。)
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Tモバイルは、ドイツテレコムの子会社である。シアトル近郊を本拠とする中堅独立系アナログ携帯キャリアであったウェスタン・ワイヤレスが発祥で、その2G子会社ボイス・ストリームをドイツテレコムが買収して米国に進出した。
地方の中堅キャリアであったために、当初はニューヨークなど主要都市のいくつかで免許を持たず、自力でカバーできない部分が多かった。徐々に買収や追加周波数オークションで補っているが、未だに面的なカバレッジでは上位3社に見劣りがする。
こうした欠点を補うため、同社では「若者向け」「低料金」を特徴として打ち出し、特にティーンの「テキストメッセージ」文化にターゲットを絞り、テキスト端末で地歩を確立している。テキストメッセージは、音声や映像ほどネットワーク品質の影響を受けないことを利用していると見ることができる。
Tモバイルのテキスト端末として代表的なものが「サイドキック」である。汎用OSを搭載していないため「スマートフォン」には分類されず、いわば「qwertyキーボードつきのフィーチャーフォン」であり、両手で素早くテキストを打てる。シリコンバレーのベンチャー、デンジャー社が開発し、日本のシャープが製造している。(デンジャーは現在マイクロソフトの傘下にはいっている。)液晶画面の「フタ」を開けるときの「パコッ」と跳ね上がる独特の手応えが特徴で、テキスト送受信やMySpaceなどのSNSへの入力のため、一時はティーンの間で絶大な人気を誇った1。こうしたフォームファクターだけでなく、サイドキックは2002年の発売当初から、アドレス帳やカレンダーをサーバー側で自動保管する、最近の潮流「クラウド端末」コンセプトを先取りしていた先進性があり、Tモバイルの戦略の象徴である。
さらに、GSM系は「世界標準」となっているため、世界初のAndroid対応端末G1やグーグルNexusOneなどといった、実験的な「世界戦略端末」を真っ先に出すことでも知られる。このため、低料金戦略でありがちな「サブプライム」的イメージに陥らず、また「低料金」イメージと顧客サービスのよさにより、JD Powerの「消費者満足調査」では常にトップにランクされている。こうしたことから同社は、米国では第4位ながら、ドイツテレコム・グループの中では重要な位置を占めている。
ただし、加入者増加ペースは落ちており、徐々にプリペイドのユーザーが増える傾向にある。同社は4G戦略をまだあまりはっきりと言明していない。
(一ヶ月にテキストを35000通打つというティーンの女の子をフィーチャーしたテレビCM。本当に、ティーンの女の子はこういう感じである。)
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ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
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