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──iPhone、iPadの大きな魅力になるのがアプリのバラエティだということですが、プラットフォームの上でアプリを展開するモデルといえば、ドコモのiモードが日本では一つの成功モデルとしてありましたよね。iPhone+AppStoreというモデルって、ちょっと乱暴な言い方になるけど、実はあれの真似と言えないこともないんじゃないかと思っています。

林 : そう思います。ただ、iモードは10年前にできあがった形に碇を下ろしてしまったまま大きな進化をせず、今では携帯電話の発展の足かせになっている部分もあると思います。そこにアップルが、最先端の技術でiPodジェネレーションの感性にあわせた携帯電話をつくり、AppStoreという非常に購入体験の優れたマーケットプレースをつくってしまった。

──こうした、良くも悪くも「携帯先進国」だった日本で、日本のモバイルをおもしろくするには、通信事業者はどうしていけばいいんでしょう。

林 : 日本はキャリアもメーカーも未だに技術志向が強すぎると思います。2003年頃にあのシンプルな機能とデザインのiPodが成功した頃から、消費者の価値基準は「スペック」重視ではなくなってきているのに。iPodの成功を、ただ表層的な色形のデザインで片付けてしまっているんじゃないでしょうか。

もし、スペックが重要というなら、iPadより優れた製品は日本からも出ています。例えばiPadより薄くて、軽くて、しかも世界初のカラーの電子ペーパーを搭載、バッテリーもiPadの4倍もつ製品があります。富士通のFLEPia(フレッピア)という製品です。

スペックシートだけみるとiPadを上回っているように見えるのですが、実物はさんたんたるもので、十数年前のパッシブ液晶搭載ノートパソコンのような色あせた状態で写真が表示されます。しかも、1ページを表示するのが非常に遅いため、付属のヘナヘナのスタイラスペンで、間違ってページめくりボタンを押しすぎてしまうと、前のページに戻るのが大変なので、ページめくる操作ひとつにしても決死の覚悟が必要です。

人が本当に使おうと思うかどうか、というのは、スペックシートじゃきまらないんです。数字のマジックじゃなくて、「もっと使いたい」、「また使ってみたい」と思わせる素晴らしい体験を提供しなければなりません。iPadには、そうした素晴らしい体験に加え、見た人に「自分だったらこう使ってみたい」というインスピレーションまで湧かせてくれます。

iPadが最高なのは、余計な要素をすべてそぎ取ったけど、その上で何をやるかは全く自由な、まっ白なキャンパスであること。だから、音楽系の人が見ればこれは楽器になるし、出版社の人に見せたら「こんな本が作れるかも」と次々とアイディアが出てくる。実際、米国ではペンギンブックスを始め、多くの出版社がiPadからインスピレーションを受けて未来の電子書籍のコンセプト動画をYouTubeなどにあげ始めています。

日本のメーカーは未だにハード志向、技術志向が強すぎて、左脳で考えてしまう。だから、「iPhoneの弱いところはカメラの画素数だから、画素数を増やそう」という発想で製品をつくってしまう。

──それは、Xperiaのカメラのことですか(笑)

林 : XperiaのカメラはiPhoneに比べるとずいぶん画素数が多いけど、反応が遅いので、シャッターが認識されなかったのかと思って、よく写真を2枚連写で撮ってしまうことがあります。また、撮った写真をメディアスケープで表示するのも遅いんです。1枚めくるたびに、中央でタイマーがくるくる回って、しばらくしてから次の写真が表示されるので、結局、小さなサムネール表示であたりをつけてから目的の写真を表示するようになる。

iPhoneのカメラは確かに画素数は粗いかもしれないけど、iPadのスクリーンででも十分見れる写真だし、発色がきれい。さらにパラパラめくって次の写真が表示されるスピードも、普通の人間の手になじむ感覚です。左脳で見るスペックシートではXperiaの方が上だ思うけど、論理的に説得されて、さわってみたらちょっと違うぞ、となる。

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「GQ」GQ誌のiPad版。iPad日本発売と同時に、日本版が提供される予定。

これがiPadだとさらに面白いんです。iPadは大量の写真を、ものすごく高速に切り替え表示できる。実はこれサムネールの上で素早く指を滑らせている間は、低画質で表示させておき、どの写真を見るか選んだ瞬間に高画質の写真に切り替えている。こうしたやり方は、ハードとOSの両方をつくっているアップルならではの強みです。タイムスケープは、見せ方は面白いけれど、あまり使い込むとバッテリーを一気に消費してしまうし、飽きも早い。しかも、あのつくりこみのせいで、Android新OSへの対応が遅れているのだろうと考えると、今後のOSアップデートも心配。できれば、将来のOSへのアップデートにも素早く対応できるように工夫して欲しい。

アプリのマーケットプレースに目を向けると、ドコモマーケットは編集コンテンツなので、いまいち動きが無いし、あったとしてもデザインのせいで見えにくい。かといってAndroidマーケットは有料アプリの価格表示でさえドル単位だったり円単位だったりで値段もはっきり分からないみたいな世界で、全然コンシューマー向けじゃない。現段階ではまだまだ「技術おたく」のためのもの。Googleらしさが悪い形で出てしまっている部分だと思います。

何がなじむかなじまないかというのは技術じゃないんですよ。スティーブ・ジョブズは、以前、ビジネスウィークにアップルのイノベーションの秘訣をこう語りました。

「何か問題を解決しようと取り組むと、最初は非常に複雑な解決方法が頭に浮かんでくる。多くの人々は、そこで考えるのを止めてしまう。でも、そこで止めず、問題をさらに突き詰め、たまねぎの皮をもう何層かむくように頑張っていると、しばしば非常にエレガントかつシンプルな答えにたどりつくことができる。多くの人々は、そこにたどり着くまでの時間もエネルギーもかけていないのだ」

アップルの製品は、非常にシンプルに見えてもその上に膨大な時間をかけたディスカッションがある。対して、日本のメーカーは、まだたまねぎの皮を剥く作業を3枚目くらいのところで止めてしまっている印象があります。

第一部:iPadがもたらす新しいユーザーエクスペリエンス
第二部:通信事業者・端末メーカーが生き残るには?(6月4日更新)

文:林 信行

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