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SIMロックという決断について思うこと

2010.06.04

Updated by WirelessWire News編集部 on June 4, 2010, 14:52 pm JST

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──日本でのiPad 3Gは、結局、SBM のSIMロックモデルで出ることになりました。全世界で同じものを提供するというアップルのやり方からみると、きわめて異例のことだと思うのですが、なぜアップルが日本でだけこういう特例を認めたのだと思われますか?

林 : アップルは、自社の将来の計画が漏れることを非常に嫌う会社です。2000年には、Power Mac G4 Cubeという新製品について、アップルからの公式発表前に、あるビデオカードメーカーのCEOが、自社のビデオカードが採用されたと口を滑らせた事件がありました。アップルは、MACWORLD EXPOという展示会の会場にあったPower Mac G4 Cube、すべてのビデオカードを他社製に差し替えて、口を滑らせた会社の製品については一切言及しないという応酬に出ました。

また、今年、1月27日のiPad発表会では、その前日、米国のテレビでiPadへの書籍を提供する計画を発表してしまった米国の出版社、マグロウ・ヒル社のCEOの姿がなく、提携パートナーのリストからも削除されていました。

それから(マグロウ・ヒル社CEOの失言から)48時間も経たないうちに、NTTドコモの山田社長はiPadへの意欲を公式に表明し、その後も、アップルとの交渉の外でmicro SIM提供の計画などを公言してきました。これはアップルとして、およそ受け入れられるものではないと思います。

実はNTTドコモは、2年前のiPhone国内発売のおりにも同じような失敗をしています。逆に、いつもはあれだけオープンなのに、その件だけはずっと「ノーコメント」を貫いていたソフトバンク、孫正義社長が契約を勝ち取ったという経緯がありました。

もっとも、これだけのことでは、ソフトバンクをiPadのキャリアに選ぶ理由にはなっても、SIMロックをするまでの理由にはならないと思います。それをあえて、日本市場だけ特別措置でSIMロックするというのは、やはり、ソフトバンク、孫正義社長の交渉能力の高さの賜物でしょう。

孫社長は、よく「志(こころざし)」という言葉を口にしますが、アップルも非常に「志」が高い会社です。ただiPhoneやiPadというモバイルデバイスをたくさん売って、お金儲けをしようと考えているのではなく、それらのデバイスを通して、人々の暮らしぶりや社会のしくみにまで影響を与えて行きたい、と考えている会社です。

もしかしたら、NTTドコモの側は、交渉時も、そこまで思いが巡らず、ただのビジネスとして交渉をし、そこでそりがあわなかったのかもしれません。

iPad 3GにSIMロックをかけたことについて、先日、孫社長は「800MHzを持たない我々がドコモと対等に戦うための武器である」と言っていました(※)。この主張に対してどう思われますか?

林 : ビジネスのかけひきとして、ごく普通のことのような気がしています。実際、日本では事業者への電波の割当がオークションなどの公正なやり方ではなく、かなり不透明なやり方で行われており、むしろ、そちらの方が問題だと思います。そうした不公正の中で、あえてバランスをとって行く上では、必要な判断ではないでしょうか。

ずばり、SIMロックのかかったiPad Wi-Fi+3Gは、林さんにとっては魅力ですか?今のSBM価格のSIMロック版と、少し価格の高いSIMフリー版が選択できるとしたら、どちらを選びますか?

林 : 私は都内在住で、鉄筋コンクリートづくりでドコモの電波も通らない実家を除けば、ソフトバンクの電波は入っています。実家に電波がない問題は無料でフェムトセルを設置すれば解決しますし、そうなれば個人的には問題を感じないので、そのままSIMロックの端末を使うと思います。人に勧める場合を考えても、通信業界に詳しくて、よほどのこだわりや執着がある人でなければ、安い端末の方が喜ぶと思います。

また、海外ローミングに関しても、私はデータ量制限のない定額プランを用意してもらえるなら、SIMの入れ替えの手間もかかりません から、そのままのソフトバンクSIMで満足して使うと思います。実際、ヨーロッパのSIMフリー端末も、入れ替えが面倒で、購入時のSIMのまま使っていることがほとんどです。

もちろん、東京から離れるとソフトバンクの電波が入りづらいところがあることは承知していますし、そういう場所で(KDDIは必ずしもそうではない気がしますが)ドコモの電波なら入りやすいことも承知しています。ただ、ソフトバンクも、それを問題として認めており、年末までに基地局を倍増するという計画を発表しているのだから、それを待ってから判断してもいい気がします。自分の家や職場や通勤路がソフトバンクの電波がない所で、フェムトセルも用意できないような人で、iPadが欲しいとなると、確かにちょっと困ってしまいそうですが。

なお、ソフトバンクの基地局倍増計画は電波効率が悪いという意見もありますが、それを言えば、そもそもWiMAXなどもライバル技術のIEEE 802.20と比べて電波効率が悪いといった議論もあります。そのあたりの事情は複雑すぎて、実際にやってみないとわからない部分が大きい気がします。

※5月13日に行われたジャーナリスト・佐々木俊尚氏との対談"徹底討論「光の道は必要か?」"の中での発言

第一部:iPadがもたらす新しいユーザーエクスペリエンス
第二部:通信事業者・端末メーカーが生き残るには?(6月4日更新)

文:林 信行

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