○欧州にはスマートフォンブームの波が押しよせている。今後の主役はやはりGoogleとAppleで、競争が激化する可能性がある。
○欧州のスマートフォン市場ではミッドレンジの機種と使用料金が好まれており、月額利用料金は携帯電話ユーザー全体と比べても平均的である。
○市場を牽引しているのは18歳から44歳の男性である。スマートフォンの普及率や、シェアに、国ごとの個性が見える。
欧州にもスマートフォンブームの波が押しよせている。欧州主要5カ国ではスマートフォンの市場が年38%程度の勢いで伸びている。
▼欧州主要5カ国・スマートフォンOSベンダー別成長率(単位:1000人)
成長率に関して最も注目すべきなのはGoogle(Android)であろう。Googleはかなり短期間で170万人のユーザーを獲得し、欧州主要5カ国のスマートフォン市場の3%を占めるまでになった。AppleのiPhoneの人気も高まっていることから、今後欧州のスマートフォン市場では、GoogleとAppleの熾烈な戦いが繰り広げられると予測されている。
欧州主要5カ国のスマートフォン市場を牽引するのは、「そこそこの値段」と、「そこそこのサービス」を望む「ミッドレンジ」のユーザーである。
欧州主要5カ国では、スマートフォンユーザーの月額利用料金平均は50ユーロ(1ドル=107.81円として約5,390円)、£35(1£=131.53円として約4,603円)となっている。日本の携帯電話ユーザーと比べると随分安いなという印象になるかもしれないが、これは、イギリスを始め欧州の携帯電話利用料金としては、中程度の使用料金にあたる。例えば、イギリスでは82%の携帯電話ユーザーが月£35以下の料金を払っている(参考資料)。この料金帯は、スマートフォンユーザーにとっても同じである。
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欧州主要5カ国では、携帯市場全体におけるiPhoneの浸透率は市場全体の4%となっている。携帯電話市場全体では、決して高いとはいえないが、スマートフォン市場では18%を占める人気となっている。
▼欧州主要5カ国・スマートフォンOSベンダーシェア
iPhoneの登場は、欧州の携帯市場における携帯電話の「マーケティングツール」としての認識を高め、ゲームやマルチメディアサービスが「ビジネスになる」という認識を高めるのに一役買っているようである。
欧州のテクノロジー系調査会社であるcomScoreのバイスプレジデントであるJeremy Coppは「iPhoneは、欧州全体では1千万台程度と、大きいとはいえないユーザー基盤なのにも関わらず、欧州市場に無視できない影響を与えている。ビジネスが携帯をマーケティングのツールだと認識した上に、大人向け携帯ゲーム市場も開拓した。Apple以外の携帯デバイスメーカーやソフトウェアメーカーに大きな影響を与えている。」と語っている(参考資料)。
欧州では、iPhone提供携帯キャリアの多くが、固定データ通信プランを提供してきたことが、データ通信ユーザーの増加に拍車を掛けた。イギリスを始めとする国では、ユーザーは、月額の固定費用を支払えば、無制限でデータ通信を使用できたのである。
しかし、通信規制監督官庁である英国通信庁(Ofcom)を始め、広告標準団体であるAdvertising Standards Authority (ASA)から「無制限は消費者の間で誤解を生んでいる」との指摘があったため、現在では、iPhoneを提供する携帯キャリアであるO2を始め、Orange、Hutchisonは無制限通信プランを廃止し、上限を設定しているが、かつてに比べると、かなりお得な値段となっている。
例えばイギリスでiPhoneを提供するO2は、月£40で18ヶ月契約、iPhoneは無償提供、600分までの通話込み、データ通信は500MBまでで無制限のWi-Fiと無制限のテキストメッセージサービスを提供している。その他にも24ヶ月契約やプリペイドのサービスもあり、従来のスマートフォンのサービスに比べ、かなりお手ごろなサービス価格となっている。
Appleが躍進する一方で、携帯大手であるフィンランドのNokiaのシェアは下落している。大手調査会社であるIDCの調査によれば、2009年6月における同社の欧州全体における携帯電話市場シェアは29.3%であったが、2010年6月には26.8%に下落し、近い内に競合である韓国のサムソンに追い抜かれるのではないか、と見られている(参考資料)。
Nokiaのシェアの下落はスマートフォン市場ではさらに明白である。2009年6月の57.1%から2010年6月には40.8%に下落し、一年で17%近い下落となっている。一方、欧州全体では、同時期のApple のシェアは2.3%から7%に増加しており、韓国のLGの9.6%を凌ぐ勢いだ。
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欧州主要5カ国のスマートフォンユーザーは、アメリカと同じく、ブラウザやゲーム、アプリケーション等のマルチメディアサービスを好んで使用している。
しかしながら、ユーザーがスマートフォンを使用する方法は、使用OS毎に違いがある。例えばiPhoneの94%のユーザーはモバイル・メディアを使用し、87%はアプリケーション、85%はブラウザを使用している。一方、Symbian OSを使用したスマートフォンのユーザーは、52%のユーザーがモバイル・メディアを使用し、38%はアプリケーション、39%はブラウザを使用している。
▼欧州主要五カ国ユーザーのスマートフォンの用途
欧州主要5カ国では、iPhoneをはじめとするスマートフォンユーザーを牽引するのが、18歳から44歳の男性である、というのも注目すべき点であろう。(参考資料)2010年4月にcomScoreが実施した調査では、欧州主要5カ国のスマートフォンユーザーの63%が男性であった。米国の調査になるが、RIMが提供するBlackberryユーザーの多くが女性であるという結果と比較すると興味深い(参考資料)。
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欧州主要5カ国では、国によりスマートフォンの普及率や機種に違いがあるのも面白い。連載第一回で紹介した様に、携帯電話普及率では欧州の優等生であり、お喋りなユーザーが多いイタリアとスペインのラテン諸国は、スマートフォン普及率でも市場を率いている。
▼欧州主要5カ国・国別スマートフォン普及率
ラテン諸国のユーザーは音声通話やテキストメッセージでは飽き足らず、ブラウザからSNSにアクセスしたり、ビデオフォンを使用しているのかもしれない。
この推測を裏付けるような面白い調査結果がある。イタリアの男性ユーザーの間では、携帯電話のブラウザから「出会い系」サービスにアクセスするのが人気となっているのである。例えば、2010年7月にcomScoreが発表した調査結果では、イタリアの男性携帯電話ユーザーの7.1%が出会い系サービスを使用した。他の国はといえば、スペインが6.9%が次いで高く、フランスが3.9%、ドイツが3.6%、イギリスが3.5%であった。イタリアのユーザーの使用率は、イギリスの2倍近い。
出会い系サービスの多くがブラウザからのアクセスが必要なことを考えると、イタリアのユーザーがスマートフォンから出会い系サイトにアクセスしている可能性は、低くはないだろう。
スマートフォンの普及率が、イギリス、スペイン、イタリアと、特にサッカー熱の高い国の間で高いことも理由がありそうだ。これらの国の多くの職場では、職場のPCに監視システムが組み込まれているため、勤務中のサッカー中継鑑賞やニュースの閲覧が「業務違反」として、懲戒解雇に繋がることがある。そもそもサッカー関連のサイトのみ業務PCからブロックされていることが多いのである。
そんな環境の中筆者が仕事で関わるイギリス人やイタリア人の多くが、業務中にスマートフォンからサッカーの結果をチェックしている。スマートフォン市場を牽引しているのが、男性というデータと照らしあわせると、サッカー人気がスマートフォンの普及と関係があるという推測は、あながち間違いではないかもしれない。
使用機種にも違いがあり、各国のユーザーの好みを反映しているようだ。例えばドイツイギリスでは他の国に比べRIM(BlackBerry)のシェアが18.7%と2~3倍のシェアとなっている。BlackBerryは金融をはじめ、世界各国を飛び回るビジネスユーザーに人気があるが、仕事熱心なドイツ人の好みを欧州一番の金融街シティを持ち、金融に携わるビジネスユーザーが多いイギリスの事情を反映しているようで興味深い。
一方で、Appleの欧州最大の市場だといわれてきたフランスにおけるiPhoneのシェアは、イギリスと大差ないのは驚きである。
同じラテン国であり、平均所得も同程のスペインとイタリアで、iPhoneのシェアに大きな差があるのも興味深い。しかしながら、ラテン国であるフランス、スペイン、イタリアで仕事に使われることが多いBlackBerryのシェアが低いのは、これらの国における人生の優先度をあらわしているようで面白い。
▼欧州主要5カ国・スマートフォンOSベンダーシェア
※9/3 7:00
国別のスマートフォンOSベンダーシェアについて、一部コメントを訂正いたしました。
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