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【1】モバイルソーシャルの売上と世界のソーシャルアプリ

2010.12.13

Updated by WirelessWire News編集部 on December 13, 2010, 21:01 pm JST

本稿は、山上俊彦氏の著書「仮想世界錬金術―モバイルソーシャルアプリに見る現代ディジタルコンテンツ革命」(2011年2月発売予定)より、著者および出版社の了承を得て一部を抜粋したものである。

モバイルソーシャルアプリとは

本書の中で頻繁にでてくるSNS とはソーシャルネットワークサービス(SocialNetwork Service) のことである。SNS はコミュニティなど社会的ネットワークをインターネット上で構築するサービスである。コミュニティとは、複数のユーザの集まりであり、地域、同窓会、趣味の集まり、ファンクラブ、などを包含する。

すでに日本の三大SNS サービスmixi, GREE, モバゲータウンはそれぞれ2000万人の会員を擁しているので、ここで改めて解説する必要はないであろう。世界ではFacebook やMyspace などが有名である。SNS のビジネスモデルは大きく分けて「広告収入モデル」「ユーザ課金モデル」「他サイト誘導・連動モデル」が成立している。

ソーシャルアプリとはSNS などのコミュニティをプラットフォームとし、ユーザ同士の繋がりや交流関係を機能に活かしたWeb アプリケーションのことである。日本のインターネットユーザは1 億人に達しているので、Web についてはもはや解説する必要はないであろう。プラットフォームとは何かといわれるとこれは難しいが、さまざまなサービスやアプリケーションを構築するための土台、という意味である。最近のサービスは複雑なコンピュータアプリケーションが組み合わされてつくられているので、それらをひとつひとつ作って結合するのは大変である。そのため、つくりやすくするための土台を作るわけである。コンピュータのソフトウェアをいちいち作るのは大変なので、Windows(Microsoft 社) を利用してその上にアプリケーションソフトウェアを作るというような場合、Windows がプラットフォームになるわけである。

具体的にはSNSのユーザは次のようなことをする。

  • 自分の好きなことなどプロフィールを入力し、関係のある人が検索できるようにする
  • 興味のあることや日記などを書き、写真を載せたりして、友達と共有する
  • 自分の友達を登録する、相手からの友達申請を受ける
  • 相手の書いたことにコメントしたりする
  • 自分の情報を見た人の、あしあとと呼ばれる履歴を確認する

現実と連携の薄い仮想社会系のSNS では、仮想の自分のアバター(分身)を作ったりもする。

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日本では三大SNS サービスが2009 年にあいついでOpenSocial に対応した。

SNS を利用してアプリケーションを作る場合に、認証などの機能がそれぞれに違うと大変である。アプリケーションを作る会社が個別のSNS のアプリケーションインタフェース(API) に対応して作る必要があるからである。OpenSocial はこのような個別化のコストを小さくするために、共通にインタフェースを定義した仕様である。OpenSocial は、Google が2007 年11 月に提唱し、MySpace, Friendster, Oracle,Six Apart などが支持を表明しているSNS 向けAPI の共通規格である。Google 自身のSNS Orkut も対応している。サードパーティがRestfulAPI, OAuth を利用して、プロフィール情報やともだち情報にアクセスして、SNS プラットフォーム上で動くソーシャル・アプリケーションを構築・運営することが可能となる。

日本ではmixi, GREE, モバゲータウンがOpenSocial に対応している。すなわち、アプリケーション会社は、OpenSocial に対応したプラットフォームに対応すれば、基本的な機能の共通化が図れる。すなわち、一度作ればどのサービスに接続して提供することも可能であるということである。

ソーシャルアプリのアプリというのはアプリケーションの略である。基本的にはどんなアプリケーションでもよくて、教育アプリケーションとかプロジェクト管理アプリケーションというのも考えられるが、昨今、日本を席巻しているのは、ゲームである。本書では、モバイルソーシャルアプリといえば、モバイルソーシャルゲームとほとんど同義語に使っている。モバイルソーシャルゲームとはすなわちゲームを行うモバイルソーシャルアプリである。

モバイルソーシャルアプリの年表を表1.1 に示す。

▼表 1.1: モバイルソーシャルアプリの年表
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矢野経済研究所が2010.06.28 に発表したソーシャルゲーム市場に関する調査結果[3] によれば、2009 年度の市場規模は338 億円、2011 年度の予測は1171 億円である。図1.2 に示す。2010 年度と2011 年度は予想であるが、DeNA の決算などを見る限り、十分到達可能な数字である。

▼図1.2: ソーシャルゲーム市場に関する調査結果(矢野経済研究所)
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なお、簡単な用語辞典を巻末に付けてあるので、ご参照いただきたい。本書で取り上げる有名モバイルソーシャルアプリを表1.2 にまとめる。

▼表 1.2: 有名モバイルソーシャルアプリの一例
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本書で取り上げるモバイルソーシャルアプリ関連の会社を表1.3 に示す。

▼表1.3: モバイルソーシャルアプリ関連の会社
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本書で取り上げるモバイルソーシャルアプリの理論的背景は表1.4 に示す。

▼表1.4: モバイルソーシャルアプリの理論的背景
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モバイルソーシャルの売り上げ

モバイルソーシャルアプリがなぜ衝撃であるのか、それは携帯電話ゲームの一タイトルにすぎない「怪盗ロワイヤル」や「海賊トレジャー」が推定年間100 億円単位の売り上げを上げている。少なくとも、四半期決算を見る限り、あげつつあることが推定できる。マネタイズできるビジネスモデルとして、ベンチャーキャピタルが世界的に注目しているビジネスモデルである。

東洋経済2010 年10 月9 日号のカバーストーリーでも「携帯ゲームバブル!で終わらない ネット「新」金脈」という特集が踊っている[5]。ゲーム系SNS  2 社は業績、株価とも絶好調というのが表1.5 である。主要なネット企業、ゲーム関連企業、メディア関連企業について2010 年9 月28 日終値で計算したものである。DeNA の2011 年3 月期決算は、売上高で1000 億円、営業利益も500 億円を超えることが予想されている。ゲーム1 タイトルで年間売り上げ100 億円レベルのペースである。

100 億円といえば、ものすごい大作映画やばりばりの大作ゲームに匹敵する数字である。当然、広告費も使い放題であり、TV CMにおいても、関東地区における2010 年7 月の放送回数は、サントリー、花王についで、3 位がGREE、4 位がDeNA だったということである。

しかも、すごいCG 画像やすごい脚本があるわけでもない。やっていただければわかるが、基本的にただENTER キーをおすだけのゲームである。そもそも携帯電話は画面の大きさにもユーザインタフェースにも大きな制約がある。片手でもって遊べるゲームとなると許容される操作には相当の制約があり、基本はただいくつかのキーを押すだけである。逆に、こういうゲームをいわゆるスマートフォンでやろうとするとタッチインタフェースが使いづらかったりする。ただENTERを押すだけがいいのである。

▼表1.5: 主なネット系企業の時価総額と利益
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  • [5] 東洋経済新聞社, "携帯ゲームバブル!で終わらないネット「新」金脈," 週刊東洋経済 2010.10.9 pp. 36-86, October 2010.

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そんなものが大変な売り上げをあげ、ユーザの時間を占有すれば、映画やTV、音楽や出版、携帯電話以外のゲームに甚大な被害が及ぶことは想像に難くない。しかも、このモバイルソーシャルというジャンル、そもそもモバイルをはずしたソーシャルアプリというジャンルにおいて、模倣は当たり前、という世界である。Facebook の有名なゲームベンダであるZynga などでも、模倣というとなんだが「オマージュ」や「リスペクト」と呼ばれるコピーは当たり前である。Zynga のMafiaWars とDeNA の怪盗ロワイヤル、Zynga のFarmsville とRekoo のサンシャイン牧場などは似ているといわれている。農場系ゲームの類似具合は[6] に述べられている。

インターネットが誕生し、やがて商用化して以来、ディジタルのコピー能力によって、インターネットビジネスは鬼門といわれてきた。端末を売ったり、接続サービスを売ったりする業者はともかくとして、コンテンツを有料で売るのはかなり知恵が必要だった。

しかし、モバイルソーシャルアプリのおかげで、2010 年の日本のIT 関連新興企業の利益の50 %以上はモバイルソーシャルアプリのアイテム課金から出てきているという説も出てきている。IT 関連といえば10 年前なら新興企業の代名詞である。さすがに売上の半分というわけではないが、企業の生命線が利益とすれば過半数の利益とは相当な衝撃である。

しかもそれがちょっとしたミニゲームを数人、数週間で開発していきなり数ヶ月でユーザ100 万円、売り上げの半分以上が利益と聞くと、これはただことではないという感じである。もちろん、携帯電話の利用時間である3 分、5 分といった単位でユーザに確実に快感を与えなければならない。そこはノウハウの塊である。

図1.5 にモバイルビジネスモデルの段階変化を示す。

いずれにせよ、2010 年7 月30 日のDeNA の空前の好決算は、多くのIT 系企業の注目を集めた。もし、これが10 年に一度のビッグウェーブだとすれば、「最終の発車ベルが鳴りました」というわけである。これで出遅れた会社は10 年休んでいてください、ということになるかもしれない。

ソーシャルアプリは生き物、といわれる。ゲームバランスをチューニングしながら、無料ユーザと課金ユーザのバランスをとりながらエンドレスにゲームデザインをしていくことになる。しかも、競争相手は五万といる。ハリウッド映画と違い、参入障壁は低い、あるいは一見低いように見える。本書でも触れるが「3 日に1 本ソーシャルアプリをリリースする」という世界である。ユーザも毎日ソーシャルアプリで遊び、その感覚は磨かれ目は肥えていっている。GREE, DeNA は新規ユーザを獲得するため高額なTV CM をうちまくっている。ビジネスシーンは毎日変わっているといっても過言ではない。勝利の方程式はまだまだ見えていない。2010 年10 月18 日にはRECRUIT がモバイルソーシャルアプリの新会社nijiboxを立ち上げた[7]。RECRUIT といえば、ソーシャルストリームビジネスの総本家である。また、日本一の出版会社でもある。いよいよメディア界のオールスターがそろいつつある、という印象である。

▼図1.5: モバイルビジネスモデルの段階変化
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世界のソーシャルアプリ

日本のモバイルソーシャルアプリは独特であるが、世界でもユーザ5 億人のFace-book がいち早く、ゲームというユーザ導線に着目して成長している。CMUのJesseShell 教授が"Design outside of the Box" としてD.I.C.E. という国際会議で2010年の2 月に話した内容の一部が図1.6 である。ソーシャルアプリって何という人にはまずいくつかの算数をお見せしよう、として示したものの一部である。

この図は、Farmsville (Facebook の農場ゲーム) のユーザがTwitter より多い、ということを示している。Twitter の影響力を考えると驚くべき算数である。ちなみにこの講演は[8] から見ることができる。大変興味深い講演である。日本のモバイルソーシャルアプリのすごいところはある意味で、「直接課金」に極めて近い形で収益をあげていることである。インターネットでは、金を払う人が負け組で、技術知識をもってディジタルの穴をついて、コピーしてくる人が勝ち組であった。これではビジネスは広がらない。

モバイルソーシャルアプリは「金を払う人が勝ち組」のネットビジネスを作ったということで大きな転換点である。モバゲーのあいさつゲームの裏ステージは課金しなければクリアできない、などである。表ステージだけを無課金でクリアするというのもひとつのプレイスタイル、やっぱり裏ステージもクリアして、というのもひとつのプレイスタイルで、ユーザの選択である。この結果、裏ステージをクリアしたユーザに課金に見合う満足を与えれば「金を払う人が勝ち組」のビジネスができあがる。

モバイルビジネスだけでなく、広くインターネットビジネスを考えても、これは驚くべきことである。インターネットビジネスの3 段階を図1.7 に示す。Googleの検索広告課金が出てきたときには、マス広告、地域広告以外に、こんなビジネスモデルがあるのかと驚いたものだが、さすがにインターネット、まだまだ新しいビジネスモデルはあるものである。

通信サービスの進化としては図1.8 に示すように、ついにレイヤ8(社会層)に入ってきたという感じである。従来の通信サービスはすべてレイヤ7(応用層) で標準化されてきた。レイヤ8 には標準化はいらない、純然たるサービスのレイヤである。レイヤ1 からレイヤ7 までは国際標準化によって規定されている。レイヤ1 からレイヤ7 までが情報通信の階層モデルとして規定されたときからレイヤ8 は概念としては提案されてきたが、いよいよ本格的に通信サービスがサービスの中身の話をし始めたという気がする。

▼図1.6: ソーシャルアプリの算数
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▼図1.8: 通信サービスの従来の7 階層モデルを越えるレイヤ8 の出現
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日本のモバイルソーシャルアプリのすごさは、その進化の速さ、ビジネススケールともに、感動ものである。次の章では、モバイルソーシャルアプリを解剖してみよう。

文・山上俊彦(株式会社ACCESS CTO Office シニアスペシャリスト)

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