モバイル・ヘルス(mHealth)に注目が集まっており、4日間の会期中、初日に3つのセッションがこれに充てられた。モバイル広告やソーシャル、モバイル・マネーと同列に扱われる重要なトピックになっている。あるセッションの終わりに、mヘルス時代はいつ本格化するかという質問に、パネリストの全員が時代はすでに来ており、普及のペースだけの問題だとの認識を示していた。セッションのみならず、ブースでもmヘルス関係の展示が集められている。
▼mヘルス・パビリオンの展示
例えばモバイル・オペレータがmヘルスを提供する場合、EBIT(利払い税引き前の利益)でポジティブになることが多くの事例で実証済みとのこと。mヘルス利用者はモバイル事業者をスイッチしない傾向があるので、チャーン(他社への乗り換え)が劇的に下がるそうだ。
米国ではFDA(食品医薬品局)が規制緩和策を打ち出しており、先週はiPhoneによる画像診断アプリケーションを認可するなど大きな動きがあった。アフリカ諸国でmヘルスを提供しているオレンジ(フランス)は、シンプルな技術を使って安価に、恩恵を受ける人を地理的に拡大することに腐心しているそうだ。さまざまな機器やアプリケーションで、互換性確保を重視するだけでなく、緊急性を要する重要なアプリケーションを通す場合にはネットワークのQoSを変えるケースもあるという。
mヘルスの普及を阻害する要素にはいろいろあるようだが、すでに技術面はモバイル・インフラストラクチャ―の整備も含めて、先進国のみならず新興国でも途上国でも十分に整いつつあり、何らかのブレークスルーを待っている状態ではないそうだ。
では何が阻害要因になっているかといえば、以下のようなことがあげられる。
・複雑なシステム
医療費の負担者、患者、医師、看護師その他の医療関係者などプレイヤーの多い複雑なエコシステムであることや、医療の実務(ワークフロー)が極端に複雑であること、さらに技術の標準化がなかなか進まないこと規制緩和が必要となるケースが多いことなど。
・「患者は医師を訪ねるもの」という思い込み
数千年に渡って病気になれば医者のいる場所に患者が出向くということが各国で常識化しており、今まさに「原始家族フリントストーン」から「宇宙家族ジェットソン」に一足飛びに進歩しようとしているので、多くの人が心理的な抵抗感を覚えていることなどが挙げられていた。
・医療機関・当局の抵抗
患者や若い現場の医師はデジタル技術への抵抗感がないが、医療機関や規制当局の意思決定者はデジタルを使いこなしておらず、慎重な対応をしているケースが多いとのこと。
mヘルスの標準化や規制という観点では、Wi-FiのアクセスポイントとATMが例に挙げられた。電話のジャックの形状の違いから、海外でダイヤルアップ回線にパソコンを接続するのに苦労した経験を持つ人、3Gの国際ローミングで苦労した人には、各国のホテルに広く普及した無線LANの提供する利便性の大きさが分かるはずだし、各国の医療に関する複雑な規制の問題で一歩も踏み出せないと思っている人でも、もっと規制の厳しい金融の世界で、ATMカードが各国で使え、現地の通貨を引き出すことができるようになったことを思えば、それほど複雑ではないことに気づくはずだという。
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mヘルスの普及は、慢性的な疾病に苦しんでいる人------定期的に通院し投薬を受けている人------から始まっているそうだ。こうした人はモバイル・ヘルスの経済的な価値を即座に理解するし、実証実験などにも積極的に参加してくれる。また遠隔で血圧その他をモニタリングするシステムは、患者、医師、医療機関にそれぞれメリットがあるので、発生するコストをシェアする場合に理解が得られやすいとのことだ。
また、途上国では国の予算がつくので、電話ドクターがどんどん増えているそうだ。アメリカの医療現場では、例えば緊急で手術が必要となった場合に、医師や看護婦が手元のターミナルで「ボタンを押す」だけで、手術室、麻酔、利用する医療機器などの手配が即座にできる(従来は、看護師などが連絡に駆け回っていた)ばかりか、エレベータを適切な時間に適切な階に待機させることもできる。看護師は1回のシフトで平均4キロから7キロ歩き、事務文書作成にかける時間は患者のケアにかけている時間の2倍に達するそうなので、電子化は医療現場の効率化と品質の向上に大きく貢献する。
展示では、iHealth Lab社(アメリカ)のiPad/iPhone用血圧計が米国メディアでも取り上げられていたためか注目を集めていたほか、シンガポールのEPI(EPHONE INTERNATIONAL PTE Ltd)社のモバイル心電図にも人が集まっていた。EPIの初号機は10cm×6cm程度の大きさで、心電図(ECG)機能を持っている世界初のECG電話機。GSMの国であれば、世界中のどこに行っても24時間、センターに自分の心電図を送信し、異常があれば担当医に通知される。この形態では普及が難しいと考えたEPI社は、さらに小型の二号機、EPIminiを開発中。デジタル歩数計程度の大きさで、各種スマートフォンとBluetoothで接続する。
▼iHealthの血圧計
▼EPI Lifeの持ち方
▼EPI mini
このほかにも医療機器に通信機能を持たせる試みはいくつも見られた。特にスマートフォンは、患者のいる現場でさまざまな情報処理や表示が可能なため、今後iPhone、Android、BlackBerryのアプリケーションがますます増えそうな領域である。
【参考情報】
・iHealth社ウェブサイト
・EPI社ウェブサイト
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