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[LTE仕様書斜め読み]3GPP TS 36.300編(1)

2011.04.25

Updated by WirelessWire News編集部 on April 25, 2011, 13:54 pm JST

「技術解説」の新シリーズとして、LTE技術を習得したい技術者の方向けに、モトローラ株式会社 藤原将道氏による新連載「LTE仕様書斜め読み」を開始いたします。(編集部)

はじめに

3GPP TS 36シリーズはLTEの公式仕様書です。ここには80余の独立した仕様が定義され、議論され、改版されています。

LTE技術者として、それぞれの専門分野、担当分はすでに精読されているものと思いますが、全てに精通するのは分量が多く、困難です。また、「LTEとは何か」「何が標準化されていて、何が設計できるか」を知ることも役立つはずです。

今回は、いくつかの基本的な仕様書を取り上げ、その中身を簡単に説明することにします。重要なコンセプトやキーワードは説明しますが、詳細な定義は原文を確認してください。

36シリーズはMicroSoft Word形式で保存されており、誰でもダウンロードして、読むことができます(英文です)。

3GPP Technical Specification(TS)36シリーズは、こちらです。

まず始めに取り上げるのは「3GPP TS 36.300」です。これは「E-UTRA and E-UTRAN overall description」です。E-UTRAがいきなり出てきて面喰ったかも知れません。これはEvolved Universal Terrestrial Radio Access(進化型地上無線アクセス)のことで、要するにLTEシステムを示す用語です。36.300は、そのシステム全体像を紹介する
仕様書ですので、LTEに取り組む技術者はまずはじめにこれに読むべきです。

3GPP TS 36.300はこちらからダウンロードできます。最新版はRel-10ですが、開発目標がRel-9などに決まっていれば、そのバージョンを取り出すことをお勧めします。

この種の技術文書には大量の略語が使用されますが、36.300では、第3章に略語集があります。まずはじめに覚えておくべきは、eNB = E-UTRAN NodeB(LTE基地局)と、UE = User Equipment(LTE端末)です。この2つの間の通信の仕組みを説明することが、36.300の目的になります。

4章以下の章構成は次のようになっています。

  • 4. アーキテクチャー
  • 5. E-UTRAの物理レイヤ
  • 6. レイヤ2
  • 7. RRC(無線リソース制御)
  • 8. E-UTRAN ID
  • 9. ARQとHARQ
  • 10. 移動性
  • 11. スケジューリングとレート制御
  • 12. 接続状態のDRX
  • 13. QoS
  • 14. セキュリティ
  • 15. MBMS(放送型データ)
  • 16. 無線リソース管理
  • 17. 省略
  • 18. UE能力
  • 19. S1インターフェイス
  • 20. X2インターフェイス
  • 21. 省略
  • 22. 自己構成と自己最適化(SON)のサポート
  • 23. その他

今回は第4章から、第6章を説明します。なお、文中の図版については、全て3GPP TS 36.300 v10.2.0より、許諾を得て引用しています。

(c)2010. 3GPP(TM) TSs and TRs are the property of ARIB, ATIS, CCSA, ETSI, TTA and TTC who jointly own the copyright in them. They are subject to further modifications and are therefore provided to you "as is" for information purposes only. Further user is strictly prohibited.

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4. アーキテクチャ

▼図4-1
201104251400-1.png

図4-1が全体構成図です。ここでeNB(基地局)と上位階層にあるS-GW(サービングゲートウェイ),MME(モビリティマネジメントエンティティ)をつなぐ「S1リンク」とeNB同士をつなぐ「X2リンク」が図示されています。これはW-CDMAシステムに比べると格段に単純な構成になってます。eNBは無線制御とスケジューリングなどの呼処理を行い、MMEはNASと呼ばれる認証制御を受け持ちます。またS-GWは、ユーザパケットのルーチングとバッファ処理を行います。無線区間やS1区間で行われるパケットの分解組立処理をできるだけ簡略化することにより、パケット遅延が最少になるよう工夫されています。

▼図4.1-1
201104251400-2.png

図4.1-1は、eNBとEPC(Evolved Packet Core=コアシステム)の役割分担を示します。P-GW(PDNゲートウェイ)は、IPアドレスの割り当てと、パケットのフィルタ処理を行います。

4.3 無線プロトコルアーキテクチャ

▼図4.3.1-1
201104251400-3.png

▼図4.3.2-1
201104251400-4.png

図4.3.1.1はユーザプレーンのプロトコルスタック(通信階層)です。また図4.3.2.1は制御プレーンのプロトコルスタックです。下層から順にPHY(物理層)、MAC(メディアアクセス制御)、RLC(無線リンク制御)、PDCP(パケットデータ暗号化)、NAS(UE認証)、RRC(無線リソース制御)となっていて、ソフトウェア機能ブロックが、eNBとUE間で通信を行う仕組みを説明しています。

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5. E-UTRAの物理レイヤ

LTEの物理層は、時間、周波数を多重化して利用する方式になっています。時間軸では10msを単位とする「フレーム」によって構成されます。FDD方式とTDD方式ではフレーム構成に若干差がありますが、ここでは多くのキャリアが実施するFDD(周波数多重)方式を説明します。

▼図5.1-1
201104251400-5.png

まず無線フレーム(radio frame)という時間の単位があり、これは10ms周期です。それを10分割したサブフレームという単位があります。これは1msです。1つのサブフレームは、さらに2つのスロットに分割することができます。FDD方式の場合、下り(eNB->UE)と上り(UE->eNB)の信号は周波数が違いますので、同時送信可能です。

物理レイヤには9つの物理チャネルがあります。(Pがつけば、Physical(物理)チャネル名です。)

  • PBCH - 物理ブロードキャストチャネル
  • PCFICH - 物理制御フォーマット指示チャネル
  • PDCCH - 物理下り制御チャネル
  • PHICH - 物理ハイブリッドAQR指示チャネル
  • PDSCH - 物理下りシェアドチャネル
  • PMCH - 物理マルチキャストチャネル
  • PUCCH - 物理上り制御チャネル
  • PUSCH - 物理上りシェアドチャネル
  • PRACH - 物理ランダムアクセスチャネル

5.1 下り伝送形式

下りの送信はこのスロット(0.5ms)を用い、サブキャリア間隔15HKzのOFDM信号を送信します。OFDMとは直交周波数分割多重のことで、今回は詳細な説明は省きますが、同時送信しても無線干渉を起こさない信号と思ってください。12個の連続したサブキャリアを束ねたものを下りリソースブロックといいます。UEとの通信に使用するリソースブロック数を、最低6から110程度まで変化させることにより、必要な通信速度を確保することができます。

5.2 上り伝送方式

上りの送信は、シングルキャリアFDMA方式です。上りのサブキャリア間隔も15KHzで、12個の連続したサブキャリアを束ねて、上りリソースブロックを構成します。下りと同様に、通信に使用するリソースブロック数を、最低6から110程度まで変化させることにより、必要な通信速度を確保することができます。

5.3 伝送チャネル

ダウンリンク(下り)には4つ、アップリンク(上り)には2つの伝送チャネルがあります。

  • 放送チャネル(Broadcast Channel = BCH)
  • 下りシェアドチャネル(Downlink Shared Channel = DL-SCH)
  • ページングチャネル(Paging Channel = PCH)
  • マルチキャストチャネル(Multicast Channel = MCH)
  • 上りシェアドチャネル(Uplink Shared Channel = UL-SCH)
  • ランダムアクセスチャネル(Random Access Channel = RACCH)

伝送チャネルと物理チャネルのマッピングは以下の通りです。

▼図5.3.1-1 : 下り伝送チャネルと下り物理チャネル
201104251400-6.png

▼図5.3.1-2 : 上り伝送チャネルと上り物理チャネル
201104251400-7.png

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6. レイヤ2

レイヤ2はMAC(メディアアクセス制御)層、RLC(無線リンク制御)層、PDCP(パケットデータ収束)層からなります。PDCP, RLC, MACの各サブレイヤはSAP(サービスアクセスポイント)と呼ばれるインターフェイスで結合されています。MAC層と物理層を結ぶSAPが伝送チャネル、RLC層とMAC層を結ぶSAPが論理チャネルということになります。

▼図6-1: 下りレイヤ2構造
201104251400-8.png

▼図6-2: 上りレイヤ2構造
201104251400-9.png

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6.1 MACサブレイヤ

MACサブレイヤの代表的なサービスと機能は、次の通りです。

  • 論理チャンネルと伝送チャネルをつなぎます。
  • 論理チャネルのMAC SDU (サービスデータユニット)を多重化または逆多重化して伝送チャネルのTB(伝送ブロック)を作成または
    解読します。

  • スケジューラ情報の報告
  • HARQ (ハイブリッドARQ)による誤り訂正
  • 一つのUE(ユーザ端末)の論理チャネル間の優先度制御

論理チャネルの種別は次の2種類です。

  • 制御プレーン(C-Plane)情報を伝送する制御チャネル
  • ユーザプレーン(U-Plane)情報を伝送するトラフィックチャネル

制御チャネルには次の5種類があります。
放送制御チャネル(BCCH)、ページング制御チャネル(PCCH)、共通制御チャネル(CCCH)、マルチキャスト制御チャネル(MCCH)、専用制御チャネル(DCCH)

トラフィックチャネルには次の2種類があります。
専用トラフィックチャネル(DTCH)、マルチキャストトラフィックチャネル(MTCH)

上り論理チャネルと伝送チャネルの関係を図6.1.3.1-1に示します。

▼図6.1.3.1-1
201104251400-10.png

下り論理チャネルと伝送チャネルの関係を図6.1.3.2-1に示します。

▼図6.1.3.2-1
201104251400-11.png

6.2 RLCサブレイヤ

RLCサブレイヤの代表的なサービスと機能は、次の通りです。

  • AM(応答モード)データ伝送におけるARQによる誤り訂正
  • UM(非応答モード), AMデータ伝送におけるRLC SDUの分解、組み立て
  • AMデータ伝送におけるPDU (パケットデータユニット)再分割化
  • UM(非応答モード), AMデータ伝送におけるPDUの並び替え

RLC SDUとRLC PDUの関係を図6.2.2-1に示します。

▼図6.2.2-1
201104251400-12.png

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6.3 PDCPサブレイヤ

ユーザプレーンPDCPサブレイヤの代表的なサービスと機能は、次の通りです。

  • ヘッダ圧縮と展開
  • ユーザデータの伝送
  • RLC AMにおける上位レイヤSDUの順序伝送
  • RLC AMにおける下位レイヤSDUの2重検地
  • RLC AMにおけるハンドオーバ時のPDCP SDUの再送

制御プレーンPDCPサブレイヤの代表的なサービスと機能は、次の通りです。

  • 暗号化と完全性保護
  • 制御プレーンデータの伝送

ユーザプレーンデータのPDCP PDU構造を図6.3.2-1に示します。制御プレーンデータのPDCP PDU構造についてはTS 36.323をご覧ください。

▼図6.3.2-1
201104251400-13.png

まとめ

3GPP 36.300はLTEシステムの概略について記述した仕様書であり、アーキテクチャの基本や、プロトコルについて述べています。これからLTEの勉強を開始される技術者の方には是非お勧めしたい書類です。

次回は第7章から説明する予定です。


 
文・藤原 将道(ノキア シーメンス ネットワークス プリンシパルスタッフエンジニア)

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