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"言葉の壁"を越えたコミュニケーションを実現するVoice4u

2011.05.13

Updated by WirelessWire News編集部 on May 13, 2011, 18:00 pm JST

「Android Application Award 2010-11 Winter」(日経BP社主催)で大賞を受賞した米国・スペクトラムビジョン社の「Voice4u JP」は、言語表現が困難な人を支援するAAC(代替コミュニケーション)ツールである。その中には、全ての人のコミュニケーションを豊かにしていくために必要な、コミュニケーションの本質が詰まっている。同社CEOの久保由美氏に、Voice4uが可能にしたコミュニケーションについてご寄稿をいただいた。(編集部)

Voice4uは、自閉症など言語表現が難しい人々の気持ちや、考えていること、行動、必要とするものを表現できるように支援するアプリで、専門家の間ではAAC(代替コミュニケーション)と呼ばれています。アプリに登録された物や人物、事柄をタッチするだけで音声が発声し、意思を伝えてくれます。ユーザーの利用シーンに合ったアイテムを好きなだけ追加したり、既存のアイテムの編集も自由にできます。

"I Love You"を伝えたい

201105131800-1.png我が家の息子は、重度知的障害があり、最初に診断された医師に、

「一生一言も話すことができないだろう。覚悟して育てて下さい。」

と言われました。

診断がおりてすぐに学校の言語療法士さんは、私に息子と会話する為の手話を教えてくださいました。私は最初に教わる言葉は、「駄目です」とか、「危ない」とか、「止まれ」などの手話だと信じておりました。ところが驚いたことに、言語療法士さんが一番最初に教えてくれた手話は

"I love you."

でした。私は興奮して、アメリカ人の友達に"I love you."を最初に教えてもらって驚いたことを報告しました。すると、その友達は、

「由美、けどね。それって母親が一番伝えたい言葉じゃないの?」

と言ったのです。「そうだ! そうだ!! 私が一番息子に伝えたい、さらにずーっと伝えてゆきたい言葉はこれだ」と思いました。

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我が子と話したい親も、親と話したい子供もたくさんいる

息子に"I Love You"を伝えたい。ここからVoice4uの開発は始まりました。最初に相談したのは、仲良くしている言語療法士さんでした。私は、息子の周りの友達に配るつもりでいたのです。ところが彼女は、にっこり笑って、

「由美、それはずるいわ。自閉症の我が子と話したい親は世界にたくさんいるのよ。親と話したい子供だってたくさんいるわ。みんなが使えるようにすべきだわ」

と言うのです。

私は息子が自閉症と診断されてから、多くの方に助けていただきました。けど、英語が第二言語で、親族もこちらにいな私はみんなにお返しすることができない。この開発で少しでも皆さんのお役にたてればと思い、Voice4uを世に出すことを心に決めました。

当初は自閉症を対象に開発しましたが、現在では知的障害があり、お話が苦手な方以外にも、第二言語を学ぼうとする方や英語のクラスなどでも使われています。

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集中力を活かして「情報を伝える」ための絵

Voice4uには、多くの専門家の方たちが参画しております。特に絵には、多くの言語療法士、特別支援学校の先生の意見が組み込まれています。

Voice4uをご覧になられた方がまず驚かれるのが絵だと思います。

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Voice4uの人の絵は宇宙人のようです。これは、自閉症児・者の方が使うことを想定して描かれているのが理由です。もしこの絵が服をきていたり、髪の毛が生えていたりするとセッションを開始する時に、「どうして、さっきの子供は、髪の毛が左だったのに、今度の子は右なの?」とか、「いつ服を着替えたの? この服はどこで買ったの?」などが気になる子供がいるのだそうです。

アメリカでは、通常30分刻みの言語療法がおこなわれます。そうなるとセッションの多くの時間をこの説明に費やしてしまい、本来のセッションに入るまでに随分時間が掛かってしまいます。彼らの持つ高い集中力を活かすためにも、余計な情報を入れず集中できるように、あのような絵になりました。

▼スピーチセラピーの様子(著者撮影)
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さらに色にも配慮しています。私たちは、「怒って顔が赤くなる」と言う表現をしますが、Voice4uも怒った絵は、赤です。スムーズに物事が運ぶような時「進め」のような時は水が流れるようなスムーズな青色になっています。

もっと言えば、音声も聴覚が過敏な子供が気にならないように、100名以上から厳選された低めの声が使われています。

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手にしてすぐに使い方を理解できる

さらに技術面では、自閉症の子供さんが使うということを想定して、「つくる時は自閉症以上にこだわる」ということを基本にしておりました。手抜きはすぐにわかってしまう子供・大人の方たちですので、「こだわり抜く。手抜きをしない」を信念に開発しました。

あと、「複雑な機能をつけない」というのも目標でした。自閉症は、一人一人症状が違う為に、いろいろな機能がついていると、いろいろつかえる気がしてしまうのです。ところが、いろいろな機能を搭載してしまうと、親御さんのほうは使い方を覚えるのに疲弊してしまいます。

私自身、睡眠障害がなおらない息子の子育てをしていた頃は、一日の睡眠時間は3時間から4時間。その睡眠時間を削って息子の使うAAC(代替コミュニケーション)デバイスの使用書を読むので、こうなるともうそのデバイスが大嫌いになってしまいます。さらに絵のカードのようなものを持ち歩くとなると重い上に、かさばり、必要な物を探すのも大変です。どんどん親の負担が多くなり、過酷な育児になっておりました。

このようなことが起こらないように、手にとった瞬間に使い方がわかり、なおかつポケットに入り、操作は簡単で単純にすることに力注ぎました。ボタンを画面に一つ増やすだけでも、真夜中まで会議し、決定するようなことがしばしばでした。

これは意外に難しいことでした。Voice4uの開発リーダーはスタンフォード大学ロケットサイエンスの博士号を持つ弊社の樋口聖です。学生時代は、ロケットサイエンスという大変難しい学問を行っておりまして、彼が簡単だと思うことでも、機械音痴の私には、とても難しく感じます。そのギャップを埋めるために、樋口とは徹底的に使いやすくなるまで話し合い、時間をかけてもらいました。私は、専門用語も苦手で、「そこ」「それ」などの代名詞で専門用語をはなすので、それをひもとき作成してもらいました。

そのおかげか、これだけVoice4uが世に出回っていても、まだ「どのように使うの?」という使い方の質問は来ておりません。手にしてすぐに使い方を理解していただけると思います。

コミュニケーションは双方向 〜受け手によるデバイス受容の重要性

息子はVoice4uを使う前は、専用のAACデバイス(代替コミュニケーションデバイス)を使っておりました。それをファーストフードのお店のカウンターに置き、注文しようとすると、初めて見るAACデバイスにお店の人が後ずさりしたりされました。

息子は知的障害がありますので、「自分が嫌われているのか、機械が嫌われているのか」の判断ができません。人が大好きな彼は、毎回買い物をするたびに、「嫌われた」と傷つく訳です。

ところが、同級生の皆がもつiPod touchをポケットから出すと、お店の人はもちろんのこと、学校の友達も寄って来てくれて「かっこいいねー! 何のアプリ使ってるの?」という感じになります。出したとたんに引かれるものと、出したとたんに友達が寄ってくるものでは、息子の生活には大きな違いがありました。

▼Voice4uを使用した会話(著者撮影)
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言葉の壁を越える

さらにVoice4uは、世界30カ国で購入されています。中には、韓国語やオランダ語に全て入れかえて、どんどん言語を足して使っている方もおられます。

このように世界に届き始めると楽しいです。私たちは、自分の知っている言語でしか話せないですが、Voice4uを使っている人たちは、どの世界にいっても言語が通じる可能性があります。コミュニケーションが苦手でお話ができない息子と海外旅行をした時に、Voice4uを使って、息子が現地の方と話をして、通訳してくれるなんていうことも起こりえます。息子のほうがコミュニケーションできてしまう可能性も出てくるわけです。

私たちの今後の方針としては、現在は弊社の主要な製品ラインナップであるVoice4uについては、今後も外国語にも力をいれていきます。介護に携わる方たちからもつかえるようにしてほしいとの意見もありますので、介護も視野にいれております。

また、弊社はもともとiPhone、Androidなどのアプリなどをつくる会社です。さらに子供さんが遊ぶようなエンターティメント施設などでも、お話が苦手な人に幅広く使っていただけるような製品の開発も考えています。

「かっこよくって操作は簡単。使っていて楽しくて、世界中どこでも使える」という製品を目指してゆきます。

文・久保 由美(Spectrum Visions Global, Inc.(スペクトラムビジョン社)CEO)

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