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変化する映像関連ビジネス - 新たなチャンスの手がかり

2010.11.10

Updated by Kazutaka Shimura on November 10, 2010, 15:00 pm JST

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(cc) Image by Marco Raaphorst

視聴スタイルは「探して、観て、共有する」に

ガラポンTV」は、ハードディスクに録ったテレビ番組をiPhoneやiPadで視聴できるサービスだ。いまのところ、一部のユーザーに限定して、ワンセグチューナーを7つ積んだ「初号機」を関東圏で販売した(完売)。

ガラポンTVのユーザーは、初号機と自分で買った録画用ハードディスクをつなぎ、iPhoneでその番組を見る。筆者が面白いと思ったのは、ワンセグ放送に付いてくる字幕を検索して、好きな場面を見られる点だ。好きな場面や俳優の出てくるシーンをまとめて並べたり、頭出しもできる。

ガラポンTVの保田歩社長は、「テレビ番組は、これからケータイや家の外でも見ることになる。そして、番組表を見るのではなく友達から面白い番組を知る世の中が来る。キーワードはソーシャルとモバイルだ」と語る。テレビ番組を共有したり、クチコミで広げる仕組みは、今後どんどん成長するビジネスだ。

テレビ番組の好きなシーンを一発で検索できるサービスといえば、アメリカでワーナー・ブラザースの動画配信サイト「TheWB.com」で使ったことがある。TheWB.comのサービスは、音声認識や映像認識技術を使って映像のタグ付け、番組情報データ生成などを行うベンチャー企業のデジタルスミス(Digitalsmiths)の技術だった。映像を1枚ごとの画像に分解して、登場人物の名前や撮影場所、セリフなどの情報が、自動で付加されていく。

Digitalsmiths
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2008年10月にロサンゼルスで開催されたカンファレンスで、デジタルスミスのベン・ワインバーガー(Ben Weinberger)CEOは、「ネットの動画広告はユーザーの視聴行動の分析が不十分なため、同じ広告が何回も流れる。そのためユーザーに飽きられる」と語ってくれたのを覚えている。映像に精細なデータが付加されれば、「どこで映像を見なくなるのか?」「人気あるのか?」が明確になっていき、関連シーンのレコメンドなど分析とその展開が進む。

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鍵を握る映像のメタデータ

今後、放送用電波からインターネットへ配信手段が代わり、テレビからモバイルへ視聴デバイスが拡大するのは確実であり、視聴率に代わる効果測定データと、そのデータの集積、分析する仕組みが必要となる。過去10年、グーグルやアマゾンなどインターネットビジネスで巨大化した企業は間違いなくユーザーの行動データを自社に集積させる仕組みを持っている。テレビ局が次世代の映像ビジネスの覇権を握りたいならば、映像にまつわるデータは、自分で持ったほうがよい。

番組情報データは、一般的にメタデータと呼ばれる。現在のメタデータの課題は標準化が進んでいないことだ。筆者も経験があるが、番組情報の入力は、あまりモチベーションのあがらない仕事で、入力基準もそれほど厳密に決まっていなかった。動画配信プラットフォームを提供するブライトコーブ(Brightcove)のジェフ・ワトコット(Jeff Whatcott)マーケティング部門責任者は、「アメリカでもメタデータの付け方はテレビ局ごとに違う」と言う。

Brightcove
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2010年10月27日、電子番組表の特許を持つロヴィ(Rovi)社が、映画やテレビ番組のデータベース化について、統一基準を検討するため、ハリウッドの映画スタジオやケーブルテレビ企業と、EIDR(Entertainment Industry Identifier Registry)を結成した。効果測定が標準化されてこそ、広告クライアントが広告出稿しやすくなる。アメリカは、既に新しい時代の映像ビジネスへ一歩足を進めている。

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志村 一隆(しむら・かずたか)

情報通信総合研究所主任研究員。1991年早稲田大学卒業、WOWOW入社。2001年ケータイWOWOW設立、代表取締役就任。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学でMBA、2005年高知工科大学で博士号を取得。文系・理系に通じ、さらには国内外のメディア事情、コンテンツ産業に精通。著書に『ネットテレビの衝撃―20XX年のテレビビジネス』(東洋経済新報社)『明日のテレビ チャンネルが消える日』(朝日新書)がある。