大規模データ分析が可能にするもの - ダイナミック・プライシング制を導入したSFジャイアンツの例
2011.06.03
Updated by WirelessWire News編集部 on June 3, 2011, 17:30 pm JST
2011.06.03
Updated by WirelessWire News編集部 on June 3, 2011, 17:30 pm JST
Technology Review誌のウェブサイトで先月はじめに「データ分析が新たな商機を生み出している」(Data Analysis Is Creating New Business Opportunities")というタイトルの記事が紹介されていた。
ここの数年に広まった2つの流れ--SSDのような半導体ベースの記憶媒体の低価格化により現実的になった「インメモリー・データベース」と、そしてHadoopなど大規模データを効率的に分散処理できるオープンソース・ソフトの普及により、意外なところにもリアルタイム・データ分析の成果が応用されてきている、という内容の話である。
Giants Seating and Pricing | SFGiants.com: Ballpark
[ AT&Tパーク - これだけたくさんある席の1つひとつが、対戦相手やゲームの開催日時、天候などの要素によって変動するとは.../ところで、長く「キャンドルスティックパーク」といったはずだが、いつネーミング権がAT&Tに移っていたのだろう]
この記事の冒頭で描かれているのは、プロ野球大リーグ(MLB)のサンフランシスコ・ジャイアンツが本拠地のAT&T Parkで昨年から導入した、いわゆる「ダイナミック・プライシング」の例。「5月11日の試合を観ようと4月後半に予約購入した外野席上段の席は8ドルで買えた。だが5月21日の試合では、その同じ席の値段が45ドル50セントに跳ね上がっている」というエピソードではじめるこの話によると、同球団はQcueというテキサスの会社のデータ分析システムをつかうことで、推定で6%も入場料収入を押し上げることができたという。ジャイアンツは昨シーズン、ワールドシリーズ優勝という好調ぶりで、その分の増収も確実にあるはずだが、この「6%」という数字はその分を除いた「正味」らしい。
ForbesがMLB各球団の経営面に光をあてた"The Business Of Baseball"という記事には、ジャイアンツの昨年の売上は過去最高の2億3000万ドルで、そのうち入場料収入(Gate Receipts)は1億700万ドルとある。つまり、Qcue製システムの貢献度は金額に直すとざっと600万〜700万ドルといったところだろうか。
このダイナミック・プライシングの仕組み、具体的には対戦相手--たとえば、あまり成績がぱっとしないダイヤモンドバックスよりも、SF湾をはさんだ「隣町のライバル」であるアスレチックスのほうが当然高くなる--や、試合の開催日時--水曜のナイターより土曜午後のデーゲームのほうが高い--といった事柄をもとに「最適解」となる値段をはじき出して、「とにかく少しでも多く席を埋めよう」「人気の試合なら、できるだけ多くの売上を稼ごう」というものらしい。また、現在実験的に進めているのは、天気予報のデータを使ってビールの最適価格を見つけ出すことだという。
プロ野球とデータ分析といえば、マイケル・ルイス著のヒット作『マネー・ボール』で描かれ一般にも知られることになった「セイバーメトリクス」(SABRmetrics)がすぐに思い浮かぶかもしれない。「強いチームを資金効率よく(=低コストで)つくるために、データ分析で過小評価されている選手を見つけ出す」というそのセイバーメトリクス活用も、実際に複数の球団で採用されるようになったのは、個人でもPCが持てるようになった1990年代後半。それと同じように、前提となる技術=高速な大規模のデータ分析の登場で、今度はゲームという経済行為自体から「隠れた価値」が引出されるようになるのかもしれない。
【参照記事】
・Data Analysis Is Creating New Business Opportunities - Technology Review
・San Francisco Giants (The Business Of Baseball) - Forbes
・セイバーメトリクス - Wikipedia
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