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「擬人化された家電をスマートフォンのゲームで操作」ソニーCSLと大和ハウスの公開実験の狙い

2011.07.12

Updated by Asako Itagaki on July 12, 2011, 17:30 pm JST

7月8日、9日の両日、東京・水道橋の大和ハウス工業(大和ハウス)「D-TEC PLAZA」にて、同社とソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)による共同プロジェクトの公開実験が行われた。

公開されたのはスマートフォンアプリを利用してゲーム感覚で家電を操作するシステムだ。コンテンツはソニーCSLで開発中の、スマートフォン上でストーリーゲームを作成できるプラットフォーム「Kadecot」を利用して開発し、大和ハウスが提供する家電制御コマンド「住宅API」を利用してエアコン、扇風機などの家電を操作する。

▼ソニーCSLの「Kadecot」で作成されたプログラムが、「住宅API」にアクセスして家電の制御を行う。(※画像をクリックして拡大)
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擬人化を利用した「生活空間エンタテインメント」

Kadecotの研究開発を手がけているソニーCSL アソシエイトリサーチャーの大和田 茂氏は、元々「擬人化」を取り入れたコンテンツに興味を持っていた。「スマートフォン上で動く、暮らしを楽しくするコンテンツを考えていたら、機能性と娯楽が同居する「家電」に行き着きました」と語る。

スマートフォンを利用して家電を操作するリモコンアプリを開発することは比較的容易であり、複数の家電に対するリモコンアプリをスマートフォンに搭載することで、複数の家電を協調させて動かすことができる。Kadecotを利用して家電ごとにキャラクターを割り当て、セリフ、画像、アニメーション、シナリオなどを付加することで、ストーリーゲームの中から家電をコントロールできる。

公開実験で紹介された「空調機達の夏」は、電気代を節約することでキャラクターの恋愛を支援するゲーム。扇風機とエアコンの電気代の和が、あらかじめ設定した値より小さくなるように家電を操作する。

▼1日あたりの電気代の目標を設定する。過去1週間の料金の実績が表示されており、ユーザーはこれを見ながら、エアコンと扇風機の使い方を工夫することで目標に近づけていく。
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目標をクリアすると、ゲーム上では「エアコンと扇風機が結婚するという」ハッピーエンドを迎えるが、その結果スマートフォンの空調リモコンには「とにかく涼しく」という協調動作を指示するボタンが追加される。ゲームで遊んでいたら、学習型リモコンの設定ができてしまうという感じだ。

▼「とにかく涼しく」ボタンを選ぶと、エアコンと扇風機が同時に動作し、料金が安くなるような動作を自動的に行う。
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エアコンと扇風機を一緒に使うと節電できる、という話は聞くが、実際にどのように操作するのが効果的かは部屋の広さや日当たりなど、条件によって異なる。ゲーム感覚で試行錯誤しながら、その部屋に合った設定を見つけてリモコンに記憶できるのは、楽しく、かつ実用的な仕組みだと言えるだろう。

他にも、ブルーレイディスクプレイヤーのキャラクターとテレビのキャラクターが会話しながら新作の映画を再生するデモや、アップデートが必要なウェブカメラのキャラクターが「病院に行きたい」と訴えてユーザーにソフトウェアアップデートを促すなどのデモが行われた。

▼病院に行かせてあげる(ソフトウェアアップデートを実行する)と、新しいコスチュームが手に入るという演出で、「面倒なアップデートのやる気をユーザーに起こさせる」ことを狙っている。
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なかなか普及しないスマートハウスをプラットフォームとして提供

もう一方の主役である大和ハウスは、「スマートハウス」の普及に向け、長年取り組んできた。今回のデモを実施したD-TEC PLAZA内にも、モデルハウスを設置している。

スマートハウスという言葉の意味は誕生時から少しずつ変わってきているが、今はおおむねHEMS(Home Energy Management System)を活用して消費電力を見える化したり、節電ができる省電力住宅のことをさしている。同社のスマートハウスは、それに加えて家庭内の情報を活かした省エネ生活のための「工夫」や「気づき」、家族のライフスタイルに応じたさまざまなサービスを提供する。

スマートハウスを実現するための住宅内の配線と家電のインターフェイスとしては、ECHONET(エコーネット)というプロトコルが既に開発されており、標準規格として公開されている。にもかかわらず、なかなかスマートハウスが普及しないのは、家電や設備機器を制御するためのソフトウェアを、メーカーがそれぞれ独自に専用ソフトウェアを開発してしていたため、互換性が制限されていたという理由がある。

そこで同社では、経済産業省にて公募された「平成21年度スマートハウス実証プロジェクト」で、異なるメーカーの家電製品、設備機器も共通でコントロールできるソフトウェア「住宅API」を開発した。2010年2月には、奈良市の総合技術研究所内で実証実験も行っている。

▼スマートフォンによるエアコンの制御
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「スマートハウスはプラットフォーム」と、大和ハウス工業株式会社 総合技術研究所 フロンティア技術研究室の吉田 博之主任研究員は位置づける。建屋、配線、機器、そしてそれらの設置・施工など多くの事業者がたずさわるスマートハウスは、顧客から見れば「トラブルがあったときに誰に言えばいいのか分からない」というリスクがある。そこを大和ハウスが引き受けることで、マルチベンダーでそれぞれのレイヤーを水平分業できるプラットフォームとしてスマートハウスの提供を手がけていきたいという考えだ。家電メーカーや住宅機器メーカーなどに、相互接続できるECHONET対応製品の開発を促したいという意図もある。

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「Cool Japan」でスマートハウスを世界へ

さて、この両社が手をつなぐきっかけとなったのが、大和田氏がソニーCSLが隔年で行っているオープンハウスに出展した、スマートフォンのリモコンアプリでソニー製のAV機器をコントロールする「萌家電」である。Kadecotを利用して開発しており、2011年秋からの実証実験を計画している。オープンハウスに来場していた、経済産業省クールジャパン室の担当者がこれに目をつけた。その担当者はCOOL JAPANの前はスマートハウス実証プロジェクトを担当しており、日本の強みである「COOL JAPAN」とスマートハウスを結びつけることで、世界に輸出できるシステムになる可能性があると両社を引き合わせ、共同プロジェクトを提案した。2010年7月頃に両社の顔合わせを行い、開発にとりかかったのは2010年末頃だという。

大和ハウスは、スマートハウスを顧客にアピールするための新たな切り口としてこのプロジェクトを位置づける。従来はスマートハウスといえば省エネであり、そのコストを負担する顧客にとっては、「電気代が安くなる」もしくは「安くならなくても地球環境のために必要だからやる」のいずれかが導入のモチベーションだった。新たに「楽しんでいたらいつの間にか節電になっていた」というエンタテインメントとしての切り口が加わることが、普及につながると期待する。「スマートハウスの普及のための足まわり(工務店、大工、通信事業者など、設備や配線の設置やサポートを行う業者)も今は不足している状況であり、こうしたプロジェクトでユーザーの間で話題になることで、普及に向けた環境作りもしやすくなります」(吉田氏)

ソニーCSLでは、萌家電と同時期に、今回も使用しているKadecotを、家電制御ゲームの開発プラットフォームとして公開しようとしている。誰でも家電をコントロールできるゲームをスマートフォンアプリとして開発できるようになることを、大和田氏は家電の"いじれる化"と表現する。「"いじれる化"の実現で、家電の協調や節電のアイデアなどを、ユーザーが自由に実装できる。家電の擬人化によって、人と機器の関係、あるいはメーカーとユーザーの関係が変化することを期待しています」(大和田氏)

両社によれば今回の公開実験は「あくまでも研究レベルのもの」であり、商品化の具体的な予定はないとのことだが、「擬人化された家電キャラで遊ぶゲームによる、家電の制御」はまさしく生活エンタテインメントの一つの具現化であると同時に、ゲームコンテンツ開発による家電同士の新たな協調システムの実現という可能性を秘めている。

現在、Kadecotプロジェクトのウェブサイトはリニューアル準備中となっているが、Twitter(@kadecot_dev)が開設されている。まずは、秋以降に予定されている「Kadecot」と「萌家電」の公開を期待して待ちたい。

▼ソニーCSL 大和田 茂氏(左)と大和ハウス 吉田 博之氏(右)。2人の間の壁掛けサイネージに映っているのはブルーレイレコーダーを擬人化したキャラクターの「ブルーレイ」。
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【報道発表資料】
大和ハウス工業×ソニーCSL スマートハウスの家電機器を、ゲーム感覚で制御する公開実験を実施

【関連情報】
萌家電
Kadecot System(2011.7.11現在リニューアル中)
Twitter(@kadecot_dev)
ECHONET CONSORTIUM
「スマートハウス」における共通ソフトウェアの開発および実証実験の開始について
平成21年度スマートハウス実証プロジェクト報告書

※修正履歴(7/13 15:00)
・デモンストレーションの説明内のボタン名の記述に誤りがありました
・ソニーCSLのオープンハウスは、毎年開催ではなく隔年開催でした
・経済産業省COOL JAPAN推進室は、正しくは経済産業省クールジャパン室でした
以上3点について本文を修正いたしました。

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。