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マイクロソフト・セールスフォースと組んだトヨタの目指す次世代テレマティクス

2011.08.18

Updated by Asako Itagaki on August 18, 2011, 16:30 pm JST

2011年4月、トヨタ自動車(以下トヨタ)はマイクロソフトと次世代テレマティクスのプラットフォーム構築に向けた戦略的提携についての基本合意を発表。また、その翌月には、セールスフォース・ドット・コム(以下セールスフォース)と、クルマ向けSNS「トヨタフレンド」構築に向けた戦略的提携についての基本合意を発表した。マイクロソフトとセールスフォース、2つのクラウドサービスをベースにしたトヨタの次世代テレマティクスとはどのようなものだろうか。

次世代テレマティクスは環境と切り離せない

地球環境問題の解決に向けた低炭素社会実現に向け、自動車のCO2削減は大きな課題だ。車両のサイズや用途に応じて、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)など、燃料の多様化が進んでいる。

EVやPHVは、家庭の電力を利用した充電を行う。トヨタの試算によれば、PHVを一般家庭に導入すると、その充電は家庭の消費電力の33%を占めるという。充電のために電気を使うということは、それだけ系統電力の負荷を増大することになる。社会全体として低炭素社会を目指し、省電力を進めるためには、効率的な充電が欠かせない。

▼家庭の用途別電力消費予測(図版提供:トヨタ)
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2010年10月、トヨタは、住宅・車・電力供給事業者・ユーザーをつないでエネルギー消費を統合的にコントロールする「トヨタスマートセンター」の実証実験開始を発表した。車と住宅のエネルギー使用を一括管理し、電力供給事業者からの供給電力と、自然エネルギーによる自家発電電力により供給される電力をあわせて、需要と供給全般を管理し、スマートフォンなどを使って居住者と車の利用者に情報を提供していく。

▼トヨタスマートセンターの全体像(図版提供:トヨタ)
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▼車充電によって、ますますピーク時の電力需要は増える(左)需要データに基づく平準化を行うことで、電力必要消費量が一定し、効率良く使えるようになる(右)(図版提供:トヨタ)
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トヨタではG-BOOK/G-Linkでテレマティクスサービスを提供してきた。今後は、G-BOOK/G-Linkも、カーナビゲーションサービスであると同時に、トヨタスマートセンターに情報を集約し、またユーザーに対して提示するためのインターフェイスの一つとして位置づける。

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グローバル対応とクラウドによるオープンなテレマティクスサービス

2011年4月には、トヨタスマートセンター構築にあたってのマイクロソフトとの協業が発表された。プラットフォームにはWindows Azureを採用し、クラウドを活用したグローバル展開を目指す。

▼トヨタスマートセンターにおけるWindows Azureプラットフォームの位置づけ
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元々トヨタとマイクロソフトの関係は、情報サービス"GAZOO"をはじめとする情報サービス分野において、十数年にわたっての開発などで支援を受けたりなど、以前から協力関係にあった。2011年1月、トヨタの豊田章男社長がマイクロソフトのスティーブ・バルマー社長と会談。逼迫するエネルギー情勢を鑑み、トヨタスマートセンターをグローバルかつ迅速に実用化する必要があるという点で合意した。
グローバルなクラウドプラットフォームであるWindows Azureを活用することで、過去のWindows開発資産をそのまま移行でき、クラウドの導入により従来に比べた大幅なコスト低減とスケーラビリティの向上が可能になる。また、スマートフォンとの連携なども、Azureをプラットフォームとすることで迅速な開発が期待できる。

グローバルなクラウド基盤の活用で、世界各地で最新のサービスを迅速に展開できることも、グローバル企業であるトヨタにとっては重要だ。特定地域のインフラが災害などで稼働不能になっても、他地域でカバーでき、信頼性も高い。公開されているAzureのフレームワーク上で、外部サービスと連動したテレマティクスサービスを実現していくこともできる。

G-BOOK/G-Linkで収集している車の走行情報やプローブデータなども、スマートセンター上に集約する。ユーザーに対してはカーナビやスマートフォンを通してフィードバックする。クラウドにつながることで、G-BOOK/G-Linkが次世代のテレマティクスサービスへと進化する。2012年初頭に発売される日米欧向けのEV・PHVに、Azureプラットフォーム上で稼働するサービスを搭載予定となっている。

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ユーザーとの接点を豊かにする「トヨタフレンド」

マイクロソフトとの提携の翌月、2011年5月に発表したセールスフォースとの提携は、次世代テレマティクスサービスを、セールスフォースが持つ、セキュアな企業向けコラボレーションツール「Chatter」をベースにした「トヨタフレンド」と結びつけることで、ユーザー・車・販売店をつなぐソーシャルネットワークサービス(SNS)を構築することを狙いとしている。

トヨタフレンドの大きな特徴は、「車」がSNSのメンバーとして参加していることだ。トヨタスマートセンターで集約した車の情報を、伝達情報生成エンジンを通してSNS上に発信する。参加者からは、あたかも車が話しているように見える仕掛けだ。もちろん、SNS上で車に話しかければ、応答が帰ってくる。端末は、カーナビだけでなく、スマートフォンにも対応する。

▼トヨタスマートセンターとトヨタフレンドの関係(図版提供:トヨタ)
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トヨタとセールスフォースとの提携については、2010年8月頃から協議を重ねてきたが、具体的なアプリケーションの方向性が決まったのは2011年1月。独自SNS構築を決めたのは、ChatterがBtoBのクローズドSNSプラットフォームとして優れていたことと、SNSに販売店やメーカーだけでなく、車が参加することで、「車がしゃべる」という驚きや親しみを感じて欲しいという意図がある。ちなみに「トヨタフレンド」という名前は、セールスフォースのマーク・ベニオフ社長の提案なのだそうだ。

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トヨタフレンドでどのようなことができるのか見てみよう。例えば、従来はディーラーからハガキによる案内で行っていた「点検のお知らせ」を、車から「点検の時期がきました」とSNS上で通知することで予約を促す。販売店への予約はSNS上で取ることができ、同時に、車がトヨタスマートセンターに送信したダイアグ情報を参照して、販売店スタッフによるリモート診断も行える。

▼定期点検をお知らせするデモンストレーションの例(図版提供:トヨタ)
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「フレンドサーチ」機能では、自分の車が友だちの車と位置情報を交換し、現在地や待ち合わせ場所までの所要時間などをユーザーと共有する。従来であれば携帯電話やメールなどでドライバーが連絡をとりあっていたが、代わりに車が会話してくれるというわけだ。

トヨタフレンドの記者発表会で行われたデモンストレーションがYouTubeのSalesforce.com公式チャンネルで公開されている。音声は英語の同時通訳だが、動きを見ればイメージがつかめるだろう。

▼4分30秒ぐらいから、3種類のデモを見ることができる(Salesforce.com公式チャンネルより)

トヨタフレンドも、2012年初頭に発売予定のPHVに搭載の予定となっている。こちらは、日本で先行サービスを開始し、準備でき次第グローバル展開を検討する予定だ。

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2種類のクラウドで柔軟・迅速なグローバル展開を目指す

Windows Azureとセールスフォース、2つのクラウドプラットフォームを導入することになったトヨタだが、両者は明確に区別している。Windows Azureプラットフォームは、従来の.NET環境での資産を継承し、トヨタスマートセンターの迅速でグローバルな展開のためのプラットフォームとして位置づける一方、セールスフォースのクラウドは、新たなサービスを展開するためのオープンソースプラットフォーム領域におけるクラウド環境と位置づける。両者を用途に応じて使い分けることで、柔軟なITサービスの開発と、スピーディなグローバル展開を目指す。

2社のクラウドを取り入れた次世代テレマティクス環境構築にあたり、トヨタは、従来G-bookなどのテレマティクスサービスを展開してきた子会社のトヨタメディアサービスに対し、トヨタ・マイクロソフト・セールスフォースの3社で、合計10億円の増資を行った。プラットフォーム構築やアプリケーション開発はトヨタメディアサービスが行い、3社はそれをバックアップする。

▼3社の提携モデル。増資10億円の内訳は、トヨタ4.42億円、マイクロソフト3.35億円、セールスフォース2.23億円となる。
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トヨタがスマートセンター構築には、今後、車の位置づけを変えていかなくては、自動車企業として生き残れないという思いがある。スマートセンターの要素技術は、実は既にトヨタの手の内にある。カーナビとしてのG-BOOK対応端末は200万台以上のトヨタ車に既に搭載されている。バッテリーや、住宅のHEMS(電力マネジメントシステム)技術についてもトヨタグループ内の企業で手がけており、これらを結びつけることで効率のよい住空間を構築できる。

トヨタでは、家も車も一緒にマネジメントする中で、車の役割は、「移動」や「(運転の)楽しみ」だけでなく、情報を収集する役割や、付加価値をつけてユーザーに提供するように変わっていくと考えている。クラウドの本格導入を決めたのは、急速な変化に迅速に対応するために、クラウドの柔軟性やオープン性に期待してのことだ。来年以降展開される新プラットフォームのサービスに注目したい。

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。