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問題をどのように考えるか〜視座の設定

2011.09.29

Updated by Tatsuya Kurosaka on September 29, 2011, 12:00 pm JST

今回の連載をスタートさせるにあたって、視座の設定をしておきたい。震災の影響は多岐にわたり、また通信やメディアは被災者をはじめとした私たちの生活に、広く、深く浸透している。そのすべてを把握することは極めて困難である以上、「問題をどのように考えるか」を定め、また確認することが、平時に比べてより一層重要である。

▼母屋の上に、流れてきた別の母屋が載っている。(2011/04/20 岩手県大船渡市 クロサカタツヤ氏撮影)
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体験と探索を重視する

たとえば前回の前口上でも触れた「電話がつながらない」という事実。あるいはその事実と対峙した人々の心理--こうした被災者の実情は、被災地に入って、膝を突き合わせなければ、分からない。当たり前のことだが、この意識をまず強く持つことが求められる。

特に今回は、あらゆる角度から情報が入り乱れ、様々な言説が今もなお飛び交っている。このレポートが、そうした混乱に拍車をかけないためにも、まず被災地の声を丹念に拾い上げることが、何より重要だと考えている。

一方、明らかなデマや捏造は論外として、客観的に認められる事実に対する解釈は千差万別であり、そこに唯一の正解というものは存在しない。特に今回は、ITやメディアのリテラシーの有無、また震災時にどのような特性のあるコミュニティでどのような役割を担っていたか、といった背景の違いが、震災後の行動や認識に大きな影響を及ぼしている。

そのため、第一部を「現場からのレポート」と設題しているように、まず当面のあいだ、様々な被災者へのインタビューを中心に、この連載を進めていく。そしてインタビューによって得られた知見をもとに、必要があれば第二部の構成を改めて見直すという、探索型のアプローチを採るつもりである。

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ライフサイクルをカバーする

直接の被災者のみならず東京圏の居住者も含め、震災発生直後から今日に至るまで、メディアやコミュニケーションが変化していたことは、多くの人の記憶に残っているだろう。あるいは原発事故の報道や情報流通等においては、こうした変化は(希薄化や形骸化も含め)、今なお現在進行形である。

今回の震災では、市井の被災者はもちろん、通信インフラや情報メディアも、甚大な被害を受けた。そのため、被災者の状況の変化と、インフラやメディアの(復旧による)変化という二層の変化が、問題を複雑化した。あるいはさらに、行政や企業、またNGO/NPO等を含めると、二層どころか多層構造が複雑に入り乱れた状況だったと言える。

どのようなタイミングに、どのような状況下で、被災者は通信や情報メディアとどう向かい合ったか。具体的にどのような軸で検討を進めるべきかはインタビューの結果を受けて精査すべきだが、震災発生を起点としつつ、被災者の暮らすコミュニティに応じたライフサイクルの視点が必要である。

▼ライフサイクル×視点整理のフレームワーク
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第二部「リスク/サイエンスコミュニケーションの観点からのメディア分析」や、第三部「地域コミュニティと通信コミュニケーション」では、こうしたライフサイクルの視点を踏まえ、「通信やメディアは何が実現できたのか・できなかったのか」を明らかにしていく。

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▼大船渡商工会議所。2階の窓に丸太が刺さっている。(2011/4/20撮影 岩手県大船渡市 クロサカタツヤ氏撮影)
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▼大火に襲われた焼け跡の陸の上に、何艘もの漁船が放り出されている。(2011/4/20 宮城県気仙沼市 クロサカタツヤ氏撮影
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エアポケットを認識する

通信、メディア、情報システムが高度化したにもかかわらず(あるいは高度化したがゆえに)、情報の需給ギャップやミスマッチなどの〈エアポケット〉があちこちで生じたことも、今回の震災の特徴である。

たとえば、テレビ。被災地が広範にわたり、被災状況が多様化したことで、被災者のニーズが細分化し、最小でも県というマスの単位でしか情報を集約・配信できない限界が露呈した。一方でネットも、それを使いこなせる人がコミュニティの中で少数であったことから十分に機能せず、また使える人に情報収集や発信の役割が集中するという事態も起きた。

また、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響もあり、今回の震災では避難先が広域・流動化した。このため、そもそも住民票の把握さえもままならず、居住地の復旧状況の把握にギャップが生じ、行政の活動や意志決定に現在も支障を来している状態が続いている。

こうした〈エアポケット〉は、二つの論点に大別される。一つは、通信、メディア、情報システムのそれぞれの不足という、個別の問題(図中の青い矢印)。もう一つは、それらが協調しあうべきところを協調できず、補完しきれなかったことによる不足という、全体の問題(図中の赤い矢印)である。

▼個別の問題と全体の問題の例
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三者はそれぞれが技術開発・事業開発の課題を有しており、その両方を見定めていかなければならない。そしてシステム側が対応するだけでなく、リテラシーをはじめとしたユーザ側の向上を同時に進めなければ、問題は最終的に解決しない。

第四部「技術と制度の制約とブレイクスルーの可能性」や、第五部「通信事業者にとっての新たな挑戦」では、こうした個別課題と全体課題の解決を、ユーザも巻き込みながらどのように進めることが、社会全体にとって合理的なのかを考察する。

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クロサカタツヤ(くろさか・たつや)

株式会社企(くわだて)代表。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)在学中からインターネットビジネスの企画設計を手がける。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、次世代技術推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事。2007年1月に独立し、戦略立案・事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策・ M&Aなどのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。