携帯電話やスマートフォン、タブレットPCなど携帯端末に使うCPUとその周辺回路、ミドルウエア、アプリケーションの一部まで含むプロセッサを指す。アプリケーションプロセッサともいう。携帯端末ではブラウジングしたり、テレビやビデオ映像を見たり、音楽を聴いたり、ゲームを楽しんだりするマルチメディア機能に加え、従来の携帯電話に載っている通話に必要なアドレス帳やデータ保存などの管理機能も含まれる。ただし、通信機能(高周波で送受信するRF回路と、変復調を行うベースバンド回路)は含まないことが多い。
ただ、モバイルプロセッサの定義は、明確にはなされていない。インテルはノートパソコン用のCentrinoをモバイルプロセッサというが、消費電力は10W以上と多い製品もそう呼んできた。2006年に通信端末向けのアプリケーションプロセッサ事業をマーベル社に売却し社内から切り出してしまったせいか、インテルはアプリケーションプロセッサとは言わないようだ。携帯端末向けに消費電力を10W以下に抑えたチップをモバイルプロセッサ、アプリケーションプロセッサと言っていいかもしれない。
最近の代表的なモバイルプロセッサには、nVidia 社のTegra 2や3、TIのOMAP、アップルのA4およびA5、クアルコムのSnapdragonなどが有名だ。これらの代表的なモバイルプロセッサのCPUには全てARMのプロセッサが使われている。いずれもブラウジング機能、ビデオコーデック、グラフィックプロセッサ等を内蔵しており、高性能を維持しながら消費電力をいかに減らすかに注力している。電池を長持ちさせたいという要求が強いためだ。
これらのうち例えば、Tegra 2(図)を紹介しよう。このチップは、ARM Cortex-A9デュアルコアをウェブブラウジングなどに用い、ARM7プロセッサをチップ全体の制御やパワーマネジメントに使っている。Cortex-A9デュアルコアの役割は、ブラウジングの他にユーザーインターフェースの応答を速めたり、複雑なウェッブページにはレンダリングを高速にしたりするなど、ブラウジング動作に使っている。Tegra 2には、nVidiaが得意なグラフィックス回路、ビデオを圧縮・伸長するためのコーデック回路、画像処理回路、オーディオ処理回路なども載っている。
▼nVidiaのTegra 2チップ
モバイルプロセッサで重要なことは、性能を落とさずいかに消費電力を減らすか、である。電池を長持ちさせるためTegra 2は、多くの回路の電力をこまめに消しまわっている。例えばブラウジングしている場合にはビデオコーデックやグラフィック回路の電源をオフにし、Cortex-A9を有効に使う。ダウンロードしたビデオを見る場合には、Cortex-A9回路をオフにし、ビデオデコーダをフル活用する。
最近リリースされたTIのOMAP-5には、高性能のARM Cortex-A15デュアルコアを搭載し、全体の制御にはCortex-M4マイコンのプロセッサを搭載している。さらにグラフィックスコアにはイマジネーションテクノロジーズ社のPowerVR SGX544コアが集積される予定であり、グラフィックスの性能は2Dや3Dで従来の5倍高速になるとしている。ビデオコーデックの能力は、1080p60のフルHDと3Dの1080p30をサポートしており、3D映画並みの映像を楽しめるようなスペックになっている。
2011年の12月現在では、Cortex-A15を搭載したモバイルプロセッサはまだシリコンとして姿を現わしていないが、OMAP-5チップを使ったスマホやタブレットはこれまでよりも数倍速い動作が可能であり、これまで以上の機能を搭載してもサクサク動くことは間違いなく、端末の登場が極めて楽しみだ。
文・津田 建二(国際技術ジャーナリスト兼セミコンポータル編集長)
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