アップルの手持ち資金で、サムスンを除く残りの携帯電話機メーカーのほとんどを買えてしまう。そう書いたのが1年ほど前のことだった。あれから現在までの間にアップルの手持ち現金は大幅に増加、いっぽうサムスンを除く他の携帯電話機メーカーの事業価値は軒並み減少してしまった。次のグラフは1年前と現在の、各社の事業価値(推定)を比較したものである。
[携帯通信端末業界の推定市場価値ー2011年6月(上)と2012年7月(下)]
サムスンとアップルを除いた各社の事業価値はあわせて47%減少した。モトローラとソニーの分については、両社が買収された金額をそのまま使って計算しているから、これでもかなり下駄を履かせた数字といえるかもしれない。両社の携帯電話機事業は、取引完了後も停滞が続いている。
いっぽう、サムスンの携帯電話機事業の価値は157%、アップルのiPhone事業も114%増加(このなかにはiPad関連の事業価値は含んでいない)。
絶対金額でみると、この1年間で、iPhoneの事業は2440億ドル、サムスンの携帯電話機事業も830億ドルの価値を新たに産み出した。それに対し、他社はあわせて370億ドルの価値を棄損した。
携帯電話機市場全体では、依然として新たな価値が生み出されているーーこれは革新的技術の価値が評価され、吸収されたことを示す健全さの表れといえる。
同時に、メーカー間の売り上げの格差はさらに大きなものとなっている。富める者にさらに富が集まり、貧しい者はさらに貧しくなっている。これは健全な状態とはいえない。この力と富の集中は、実験の期間が終わり、新たな機会を発見するチャンスが減っていることを示しているのかもしれない。
また、Androidのエコシステムで生じたほぼすべての価値がサムスン1社に集中している点も特筆に値する。
この数字のなかにはグーグルを含んでいないが、これは同社の売り上げ全体に占めるモバイル関連のそれが目に見えるほど大きくはないため。またこれとは別の分析からは、グーグルがAndroidプラットフォームからの得ている利益が慎ましいものであることも明らかになっている。それと比べると、サムスンが手にしている利益はとても大きい。現在、 Android陣営で利益を生み出しているのはサムスン1社だけといっていいかもしれない。
(執筆:Horace Dediu / 抄訳:三国大洋 / 原文公開日:2012年7月16日)
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