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自らの成長のためにプロジェクトを作り、あおり、ぶち上げろ

2012.08.28

Updated by WirelessWire News編集部 on August 28, 2012, 17:30 pm JST

近著『武器としての交渉思考』(星海社新書)の中で、交渉術から新しい組織論の流れを話題にしていた瀧本哲史氏。いまの時代求められている組織のあり方について話を聞いた。[聞き手:スタイル株式会社 竹田 茂]

201208281730-1.jpg瀧本 哲史(たきもと てつふみ)
京都大学客員准教授。NPO法人全日本ディベート連盟代表理事、星海社新書軍事顧問。東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科助手を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて、主にエレクトロニクス業界のコンサルティングに従事。内外の半導体、通信、エレクトロニクスメーカーの新規事業立ち上げ、投資プログラムの策定を行う。独立後は、企業再生やエンジェル投資家としての活動をしながら、京都大学で教育、研究、産官学連携活動を行っている。

情報効率のよさで企業の大きさが決まる

──瀧本さんは、新しい組織論の流れを『武器としての交渉思考』の中で説いていらっしゃいました。交渉術から組織論の考えに至った経緯を教えてください。

瀧本:僕は基本的に現代社会の基本システム、普遍的なテーマについてのみ本を書こうと思っていて、『僕は君たちに武器を配りたい』(講談社)は資本主義、『武器としての決断思考』 (星海社新書)は民主主義あるいは自由主義、『武器としての交渉思考』 は契約や市場をテーマに取り上げた本です。市場と組織は相補的な関係なので、市場を語れば市場の限界としての組織の話になります。従って、『武器としての交渉思考』は一面として組織を語った本ということもできますね。組織について正面から扱った本は別途構想中です。

──「いまこそ、組織論が重要」という主旨ではないということですか?

瀧本:組織は永久に重要な課題です。重点が時代によって変わっていくだけで。

──この時代ならではの組織論はないのでしょうか。

瀧本:あると思います。しかしある意味、考え方としては古典にさかのぼれるのではないかな。

20世紀前半はすべてがコングロマリット化する時代でしたし、この動きを永久に続ければいいだろうとの議論もありました。企業の限界について議論する中で、すべてのものを企業に統合すれば一番効率的という話にもなりえます。

一方、経済学で語られる個別の経済主体は「個人」から出発します。そうすると企業の存在理由はどこにあるのか。

ひとつの考え方として、取引コストを節約するために組織(企業)が生まれる、というものがあります。これは、コースというノーベル賞経済学者が言い出したことなのですが。

わかりやすい例を述べましょう。例えば、MacBook Airが欲しいと思ったときに、もし、アップルという会社がなかったら、僕ら自身がデザイナーを発注し台湾まで行って部品を売ってもらい、中国に組み立て依頼をしなくてはなりません。その間の物流の手配もしなければいけない。非常に膨大なコストが生じますよね。さらに音楽コンテンツをダウンロードできるようにしようとしたら、アーチスト、スタジオ、編集、決済システム......もう悪夢です。必要な情報をそのたびやりとりして、毎回、交渉、取引するのが大変だから、組織があるのです。

そういった面をふまえて組織を考えると、企業が無限に大きくなったり、究極のコングロマリットになったりすることはないというのが、取引コストの経済学における結論です。取引コストで重要なものは情報ですから、情報効率がいいところで企業の大きさは決まるということになるでしょう。

──経済効率でなく情報効率を重視するということですか、それとも両方が関係しますか?

瀧本:情報効率が経済効率に大きく効いてくるということです。取引コストの概念そのものが曖昧模糊としていますが、情報の経済学と密接に関連して発展しため、情報コストの方に注目したいと考えています。

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「企業」というプラットフォームが怪しくなりつつある現代

──情報コストについて話を続けさせてください。特にインターネットが普及した1994年以降、我々メディアは、情報流通量がインターネット上で爆発したと感じています。新しい組織論が、インターネットを介した情報効率や人のつながりをふまえどう見直されるべきかの議論もあるかと思うのですが。

瀧本:本質にはあまり影響が無いと、僕は思います。なぜなら、ネットでやりとりされるほとんどの情報が取引と関係ないから。個人のブログはもちろん、実際取引が行われる面で記される情報そのものが増大したということはありません。

しかしその一方で、インターネットの普及が可能にし、効率を上げた取引関係が、確実に存在します。

例えば経理部門。社内に担当者を置くよりも、楽天ビジネスに発注した方が早いという現象が起こっています。経理部門は自社独自の仕事内容を学習する必要があったため、外部への依頼が難しい領域でした。現在は弥生会計に代表されるプロトコルに統合され、日本中のどこでも、さらに言えば、海外企業にすら頼むことが可能です。実際、佐賀県のある会計事務所はこんな時代も増収増益を続けているそうですが、日本から中国の大連に進出した数々の大企業を相手にビジネスをしています。

一方、個人の文脈で考えてみましょう。自分が所属する企業で自分が営業活動を行い、顧客のニーズを理解してモノを売る一連の行為では、顧客のニーズを反映したものを世界中からひとりで集めるのは効率が悪すぎます。企業があるからこそ、顧客へ一瞬でデリバリーができる。しかし、いまやその形態がだんだん崩れてきています。

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ある価値を提供するときに、情報コスト効率がいいからと使っている「企業」というプラットフォーム自体が怪しくなってきました。企業でなく、個人レベルで作ったバーチャルな組織の方やプロジェクトの方が、「企業」よりもさらに効率がいいかもしれないと。

さらにいうと、企業が市場で高い情報伝達効率を持つのは市場の変化が乏しい場合です。ルーチンに落とし込めますから。しかし市場の変化が早く大きくなり、かつカスタマイズしたものが求められるとしたら、その都度チームを組んだ方が効率は上がります。

典型的な例として、コンサルティング会社のやり方が挙げられますね。例えば、マッキンゼーは固定の組織、プロジェクトメンバーというものがありません。プロジェクトごとに世界中から適したメンバーを集める方式です。プロジェクトが進む中で、新たな問題が発見されたとします。「この問題はオランダの○○さんが詳しい、しかし彼を日本に呼び共に動くのは不可能なので、彼に問題を相談するミーティングを2時間開催しよう」というやり方です。

社内で評価されるのは、専門的な相談をよく受ける人。僕もマッキンゼーで仕事をしていた時に、インターネットを使った購買と事業会社が運営するベンチャーキャピタルに関して、マッキンゼーでも先端的なプロジェクトをやっていましたので、世界中から問い合わせがあり、意見を求められていました。そういう働き方をすることが推奨されるし、評価もされるんです。

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「あえてメンバーを固定しない」チームの作り方

──市場の変化に合ったチームの作り方に、ハードルの高さを感じます。どうすればうまくいくでしょうか。

瀧本:チームメンバーは課題によりけりですね。答えが決まっているテーマでルーチンだったら、だったらいつものメンバーでいつもの通りやればいい。ところがゴールが定まっておらず、作業内容も見えないときは、最初からチームメンバーを固定しない方がいい。コアメンバーがいるというよりはパートタイムでいろんなメンバーを入れて、やってみてからいい人を残す方式です。

特にベンチャー企業を立ち上げる場合、その会社が何をするかわからない段階でスキルに合う人を採用するのは難しい。いわゆるヘッドハンター、人材紹介会社にお願いすれば必要なスキルセット、クオリフィケーションを問われます。しかし、これから何をやるかが不明確な会社では、近いことをやっている人を探したとしても、それがこれから作る会社に合うかはわからないわけです。

仮にセールスの場合、どういうセールス方式かわからないなら、何の専門家でなくとも学習意欲が高い人を採用した方がいい。仕事を通じてその人が能力を身につける、それがある意味、唯一無二の方法ということが実は多いのです。

市場の変化に合ったチームを作る例としてコンサルティング会社を挙げましたが、コンサルティングの世界もリクルーティングがキモです。まったく新しい課題が与えられた際、やることは、ある種内容は研究に近いです。なので、学者の任用が過去の論文を見て決めるように、過去の不確実な状況
でどのように学習、成長し、問題解決をしたかを見て、採用を決めます。その段階では、誰にも先がわからない。その後、新しいプロジェクト自体を通して学習し成長するから、新しいことができるんです。

── 近ごろ、2、3件似たような話を聞きました。会社で新規事業部門を立ち上げるため多くの人数を面接したのに、ひとりも採用できない。有能かつ最適な人材が来ていても、採用側が何をやっていいのかがわかっていないので、判断できないんですね。

瀧本:その場合、まったく違う状況で活動してきた人を採用する手もアリです。やろうとするビジネスの肝がわかっていればいい。以前、CATVの会社に投資をしていて、加入者を増やすための経営メンバーを採用する必要がありました。これまでは派遣営業の人が営業していたのですが、インセンティブをとるためにやっきになり、契約者との関係も荒れ気味になっていました。仕事そのものは簡単なので、アルバイトを大量に採用してトレーニングした方がいいだろうという判断がありました。その、アルバイトの戦力化にうまい方法はないかなと。

結論的には、塾の経営に近いのです。それは、地域密着の営業が必要で、アルバイトを戦力化して、講師として、サービスを提供させている。ですから大きな成功を収めた塾のCOOを引き抜きCATVの顧客獲得指導をしてもらったら、2年でそれまで10年間で獲得していた顧客量の倍になったんです。

目の前の仕事で成果を出し、プロジェクトを「自分で」作る

── Biz COLLEGE PREMIUM 特別セミナー「イノベーターと学ぶ新しい仕事術」に来られる方は、優秀な人材になるために自分を高めるキッカケを持ち帰りたいと考えています。瀧本さんは、セミナー参加者に何を持ち帰ってほしいですか。

瀧本:「目の前にいる上司に協力することも大事だけど、会社の中でヘンなことをしようとしている危ない人と密かにつながりなさい」と、僕は常々言っています。

簡単にいうなら、目の前の仕事で成果を出して、誰かに引き抜かれるのがいい。社内でも社外でもね。ヤバそうな会社の場合は、会社の中でバーチャルな秘密結社をつくり、その会社を変える方向で動くのがいい。「この市場を獲得しなければならないとわかっているのに会社が動いていない」場合、問題意識を持つ人が密かに集まって、そういう事業をつくれるように水面下で動いておくんです。そうして何事もなかったかのように新規事業を始め、そこに引っ越すのがベストでしょう。

つまり、非連続的なプロジェクトを「自分で」作らなければならない。それしかないんです。

── プロジェクトを動かすために、チームを作りましょうとなるわけですか。

瀧本:考えたプロジェクトが自分ひとりでできないのであれば、誰か権力を持つ人をあおらなければなりません。藩主のところに「黒船が来てますよ」とあおってプロジェクトをつくるわけです。その前に、まずは目の前の仕事で圧倒的な成果を出すというのが最低必要条件ですね。

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団塊の世代を分断し、引き込むのが成功のポイント

──圧倒的な成果を出すのは、一筋縄ではいきません。普通の法則ではなさそうですね。

瀧本:そういう人がダメなんです。なるべく秘密結社をつくって、協力してもらうこと。「いまの部署で売上を増やさないと僕はダメな烙印を押されてしまう、どうしたらいいか」と相談する、教えてくれる上司を作ることですね。

──「自分はたいした能力を持っていない」と自覚することから始まるのかもしれませんね。たいした能力はなくても、人間関係の中で「彼にこれをやってもらえれば、チームとしては成果をプレゼンテーションできる」と。

瀧本:能力が身に付くところに異動するという考えを持たなければ。権力を持てても、何も身に付かない部署ならば、そこに居ても仕方がありません。

いずれにせよ、一番大事なのは、プロジェクトを作ることです。そうすればスキルが身につけやすくなるし、いろんな考え方が起こる。そして、ぶち上げるしかない。

例えばオトバンクは、現代表取締役社長の上田渉さんが「日本はオーディオブックが来る、そうでないとおかしい」とぶち上げたことから始まっています。「米国ではこれほど市場がある。自分の祖父が緑内障で本が読めなくなったので、僕は日本で絶対にオーディオブックをやりたい」と。多くの人から「既に他の出版社がカセットブックで10億円損している」「米国は車文化だからオーディオブックが流行ったが、日本は車通勤しないから前提が違いすぎる」......などと言われていましたが。それでもしつこく言い続けた結果、本当かな、と思う人が増えてきました。

──若い人、先が見えている人は、いいことをやっているけれど権限を持たないことが多いですね。

瀧本:僕は、団塊の世代を「つぶす」のではなく「分断」し、若い人がエスタブリッシュメントを引き込むのが成功のポイントだと思っています。

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薩長同盟の推進者は若者ばかりでした。しかし、なぜ若者が交渉担当者になれたかというと、藩主が支援してくれたからです。スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックがなぜアップルコンピュータを大きくできたか。若くしてインテルの株式公開で財を成した、マイク・マークラをアップルへの投資家として協力を取り付けられたからです。

だから、一部の団塊世代を引き込むのがいい。しかし、王道の人では世の中は動きません。必ずどの会社にも「役員にはなっていないが、そこそこの成果を出しており、居れば物事がうまくまわる」人がいるでしょう。そんな人を煽ってください。「黒船が来てる、藩政改革を一緒に進めてください」とあおって、じゃあやってみろよと言わせてください。

──ありがとうございました。

2012年9月7日、8日の2日間にわたってBizCOLLEGE PREMIUM 特別セミナー「イノベーターと学ぶ"新しい仕事術"(主催:日経BPnet BizCOLLEGE)が開催されます。瀧本氏の講演「〜交渉する力〜 やりたい仕事、属したい組織がなければ、自ら創るしかない」は2日目です。詳細、申込はこちらをご覧ください。

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