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【5】モバイルソーシャルアプリ市場のゴールドラッシュを読み解く

2011.02.06

Updated by WirelessWire News編集部 on February 6, 2011, 12:00 pm JST

本稿は、山上俊彦氏の著書「仮想世界錬金術―モバイルソーシャルアプリに見る現代ディジタルコンテンツ革命」(2011年2月発売予定)より、著者および出版社の了承を得て一部を抜粋したものである。
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現段階での市場

モバイルソーシャルアプリの市場成長は非常に大きい。では、どれくらいの市場規模があるのであろう。Web マーケティングガイドとメディアインタラクティブの共同調査結果の報道発表が[16] にある。これによるとネットユーザの課金許容度は以下のとおりである。

▼表4.1: ソーシャルゲームに関するマーケティングガイドとメディアインタラクティブの共同調査
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全体をどう考えるかによって違うが、今や、全国民もインターネットユーザもケータイインターネットユーザもそんなに数は違わなくて1 億人オーダなので、ざっくり、これをケータイインターネットユーザ、すなわち、携帯電話を持っていて、IP 接続サービスに加入している8700 万人に当てはめることにする。

ソーシャルアプリの効果によって新しいユーザが流入し、比率が変わっていくことは当然考えられるが、とりあえずこの数字で市場予測をしてみる。本予測は2010 年10 月段階のものである。表4.2 に示す。

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▼表4.2: モバイルソーシャルアプリの日本市場予測
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この数字を見ると、DeNAの今年のソーシャルゲーム関連売り上げだけで越えてしまいそうである。となると上方修正が必要である。ソーシャルゲームの潜在ユーザは4000-6000 万人くらいはいそうだ。課金するユーザも倍くらいにはなるかもしれない。しかし、もとの調査が全ユーザに対する調査なのでソーシャルユーザの数が増えて、それにさらに20 %をかけるのはやりすぎかもしれない。ソーシャルゲームのユーザの中で課金する割合が現在の27 %から、えいっと倍になるとして計算してみよう。ユーザが増えれば課金したくないライトユーザも増えるのでひとりあたり課金額を大幅に増やすのは相当難しそうだ。逆に下がるかもしれない。こうなると上限で6,000 万人*54 %*600 円=2,300 億円である。

この推定の中で一番あやしいのが課金率であるが、1000 億円規模の市場になることは間違いなさそうだ。あとは、サービス提供者によるノウハウの拡大、売り上げ拡大によって高品質コンテンツに投資することによるスパイラル効果をどう見るかという問題になるだろう。

右肩上がりにあがらなくても、モバイルソーシャルの相互誘発効果を考えると1500 億円くらいになるのは1 年くらいしかかからないかもしれない。ユーザのサイフは基本的には同じでゼロサムゲームである。飽和し、ユーザのサイフの奪い合い、すなわち所謂レッドオーシャンになるだろうから、そこからがサービス提供者の知恵の見せ所ということになると思われる。目立つところに位置することが何より重要なモバイルソーシャルの場合、上位寡占が進みそうだ。後発サービスプロバイダは、ノウハウ、キャッシュフローともに厳しい戦いになることが予想される。

もっとも日経の2010 年10 月の記事では、2013 年にソーシャルアプリの市場規模が3000 億円に達するという予想もあったので、もし、市場規模の拡大が続くとすると、ユーザ数、課金率、ひとりあたり課金額の、どのパラメータが大きくなるのかが興味津津である。

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現代のゴールドラッシュを読み解く

モバゲーオープンプラットフォーム2010 の発表資料によるとモバゲーにおけるモバイルソーシャルアプリの100 万人登録時におけるモバコイン1 億円売り上げの目安は図4.1 の通りある。MAUというのはMonthly Active Users 、の略で月間アクティブユーザのことである。モバコイン1 億円は1 億円のことだと理解していただきたい。

▼図4.1: 100 万人登録時に月間モバコイン売上1 億円売上るための目安
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同じ資料から怪盗ロワイヤルの開発スケジュールは図4.2 の通りである。

▼図4.2: 怪盗ロワイヤルの開発スケジュール
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わずか数人のチームで1ヶ月で作ったゲームで月間1 億円となると現代の錬金術である。β版でいろいろチューニングし、バグの嵐を乗り切る苦労も相当なものだが、結果の数字だけ見ると、ゴールドラッシュが起こるのも無理はない。もっとも、すでに月間1 億円稼いでいる怪盗ロワイヤルのほうが断然有利であることはおわかりいただけるだろう。他のいろいろなゲームが不十分な画質や不十分なサーバ品質で対抗しようとしても、かえって有名ゲームの集客マシンと化してしまう可能性のほうが高い。しかし、数人でできる、サーバのほうはいまやクラウドコンピューティングといわれる使ったらつかった分だけ払う形の分散サーバシステムを利用すれば、客が来なければ金を払わなくてよくて、しかもサーバの設計をしたり発注をしたりするリードタイムもなくてすむ。初期投資が小さければ、無理してギャンブルをしても傷は浅くてすむ。いちいち広告を打ったり、ユーザサポートをしたりしなくても、Twitter やblog、サークル公式サイトなる掲示板、はたまたユーザの攻略サイトなどで、コストを小さくすることもできる。

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というわけで、いまやモバイルソーシャルアプリはゴールドラッシュ状態となっている。

たとえば、モバゲータウンの場合、すべてがソーシャルゲームではないが、表4.3 のような状態になっている。なお、複数のジャンルに登録されているゲームも相当数ある。ユーザがたどるためのディレクトリからゲーム数をカウントしたためである。ユーザの便宜を図るため、複数のジャンルに登録されているゲームがある。

▼表4.3: モバゲータウンのゲーム
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GREE のアプリの数は表4.4 のとおりである。

▼表4.4: GREE のジャンル別アプリ
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mixi のmixi アプリは表4.5 のようになっている。

▼表4.5: mixi アプリの数
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遅く来た人はたった1 年の違いとはいえ、自らの不明を恥じるしかないというわけである。

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モバイルソーシャルアプリは生き物であり、成功の黄金律はあっても、それがいつも成り立つとは限らない。Facebook 版の「怪盗ロワイヤル」は2010 年4 月に開始し、8 月には終了している。SNS との相性、ユーザのゲーム文化などいろいろな要素があって、DeNA にとっても簡単ではないらしい。それでもグローバルを無視することはできず、iPhone 版をリリースし、Android 版も開発しているようであるが、ソーシャルアプリの難しさを再認識する結果になる可能性も小さくはない。

このゴールドラッシュはいつまで続くだろうか。経験的に言ってバブルは長く続かない。バブルを発生させるのも、それを収束させるのも、早くなっているのが情報通信技術の進歩の結果である。

例えば、Facebook については、2010 年6 月末の段階で、Facebook のユーザー数がこの半年間で14 %増加したにもかかわらず、アプリの利用率は20 %低下し、毎日特定のアプリを利用しているユーザー数も13 %減少したという[17]。供給が適正水準をはるかに超えたことで「市場がスパム状態になってしまった」と言われているゲーム業界では1980 年代に米アタリ社のゲーム機向けソフトが乱造され、「アタリショック」と呼ばれる急激な販売不振を招いたことがある。今回のケースも構図は同様だ。

ソーシャルゲームはこれまで、「急速な成長(チョコレート)と収益(ピーナッツバター)を享受できる最高の市場環境」だった。「Facebook というお菓子はもう甘くない」とまで言われている[17]。

ソーシャルゲームによる、仮想空間の錬金術は2009 年春くらいから始まり、2-3年は続くだろうと思われる。今、ちょうど中盤くらいではないかと個人的には思っている。まだまだ新しいビジネスモデルはあるし、試行錯誤の中で新しいプレイヤも出てくるが、それもあと2 年は続かないと思われる。

文・山上俊彦(株式会社ACCESS CTO Office シニアスペシャリスト)

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