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携帯料金は間違いだらけが当たり前

2012.09.10

Updated by Mayumi Tanimoto on September 10, 2012, 08:09 am JST

パラリンピックも終了し、すっかり秋模様でなんだか物悲しいロンドンです。

今年の夏は、オリンピックの騒動でイギリスの「いい加減さ」が十分おわかりになったと思います。先月と先々月は携帯とか通信とは全く関係ない感じでオリンピック関連のネタを書いておりましたが、実は、書いていた理由はこの「いい加減さ」の実態をお伝えするためでありました。

「いい加減さ」はイギリスの通信業界にとって「日常茶飯事」です。いかにここの通信業界が「いい加減」まみれかどうか、という例の一つは、イギリス通信庁(Ofcom)の設立したCISAS(Communications and Internet Services Adjudication Scheme)という機関です。この機関は、携帯電話やインターネットプロバイダのお客さんが裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution; ADR。訴訟手続によらない紛争解決方法を広く指す)使用して無償で携帯電話会社やISPの料金間違いや酷いサービスを訴えることができる、というものです。

なんでイギリスの通信庁はわざわざこんな組織を作ったかといいますと、携帯電話の料金の請求間違いとか、解約されない等の「いい加減さが原因の問題」が後を絶たないからなわけです。

「ええ、請求間違いって何の話??」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、あるんです、それが。

どんなものがあるかということで、ちょっとCISASが公表しているケーススタディを見てみましょう。

解約を7ヶ月放置
あるお客さんは携帯電話会社の契約を二年前に解約したのですが、携帯電話会社は間違った信用情報を登録していたことがわかりました。この会社は間違いを認めましたが、7ヶ月ほどこの件を放置していた上、「内部的問題」として何もしませんでした。

「内部的問題」で放置、数ヶ月「忘れてた」と正直に認めた上に言ってしまう、という所が凄いですね。オリンピックの時に「警備員雇うの忘れてたわ。兵士配置しなければ行けないのを誠に残念に思います。うん、残念ですね、残念」と言っていた某社を思い出します。

なぜか38ヶ月も二重課金!
あるお客さんは38ヶ月にわたって請求された£607.02の返金を希望しました。ブロードバンドサービスを申し込んだ所、なぜか知らない間に二重の申し込みになっており、二回線分の料金が自動的に引き落としになっていました。

この方は何回も文句を言ったと思われるのですが、解決に38ヶ月(三年)近くかかったという点がミソです。恐ろしいですね。石の上にも三年です。

実はブロードバンドが来てなかった!(ケース番号27)
ブロードバンドを申し込んだCさんは、ISPのT社に「スピードが遅い」と文句を言いました。T社は「これ以上何もできない」と対応したためCさんは紛争解決を希望しましたが、なんと実はT社はそもそもブロードバンド接続を引いていなかったことが判明しました。Cさんはサービスを解約し、返金を希望しましたが、T社はそれを無視しました。

「実は繋がってなかった」というのに気がついてなかった点がポイントですが(繋がってないのに遅いというのが意味が分かりませんが)T社の殿様商売ぶりもなかなか凄いですね。

ケーススタディを読んでいて段々頭痛がしてきましたが、まあこういうのはイギリスでは日常茶飯事でありまして、料金の引き落とし間違い、解約されない等々の問題がありますので、料金の口座自動引き落としなんて恐ろしくて設定できないんであります。

通信会社はこんな調子ですので、イギリスにおきましては、通信業界において、やたらとSLAとかKPIの設計をしたり監視したりする専門家の求人があるんです。ちゃんと仕事しない(できない)人があまりにも多いので、「これはここまでやってね!間違えたらボーナス削減よ!」と厳しくやるお目付役が必要、というわけです。ちゃんと仕事をするならパフォーマンス計測なんてする必要ないんですよね。

ちなみに日本では皆さん真面目に仕事に取り組みます。仕事しながらぐちゃぐちゃしゃべってませんので、間違いもあまりありません。ですから、そもそもSLAとかKPIを設定してパフォーマンスを計測するなんて活動になじみのない方の方が多いです。

ところが、一歩海外に出ますと「ちゃんとやらない」方が「普通」なため、SLAとかKPIが必要になる訳です。でも日本だと、あんまり設計したり運用したことがある方がいないんですね。人事評価やコスト管理にもリンクさせなくちゃいけませんので、なかなか難しいです。

日本の組織には「SLAとかKPIを活用して、パフォーマンスの目標を設計したり監視しながら、サービス品質を管理する」というノウハウがないために、国際展開する上で不利なのではないか、という気がいたします。日本は製造業では世界1と言われる品質管理で有名ですが、サービスに関してはまだまだかもしれません。特に内需で食べて来た業界や、規制産業は、製造業の様な厳しい競争にはさらされてきませんでしたので、ノウハウの蓄積が足りないかもしれません。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。