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「3つの空間情報化」とは

2012.10.14

Updated by on October 14, 2012, 23:00 pm JST

はじめに

インターネットが商用化して20年。ブラウザ、ブログ、SNS、ソーシャルメディアが次々と登場、熱狂とともに世界各地で受け入れられ、一人ひとりの発信能力を高める以上に、人と人とのコミュニケーションのあり方を大きく変容させた。コミュニケーション革命が進行しているといってもよいかもしれない。

しかし現在、同じインターネット上で、こうした流れとは一線を画した、現実空間との結びつきが強いサービスが広がりつつある。この新しいサービスは、地理空間上での「位置情報(geolocation)」を利用するので、「ジオメディア(geo media)」と呼ばれている。

技術的にはまだ発展途上にあり、我々サービス提供側からすると忸怩たる思いを抱く場面も多い。ただ、ジオメディアは単に位置情報を使うだけでなく、位置情報で紐づけられた現実空間と、膨大な情報空間とを重ね合わせるサービスであることから、想像以上にサービスの適用範囲が広く、ソーシャルメディアにも匹敵する可能性を持っている。

このようにジオメディアが拓く空間系の社会変化を、「空間情報化」と呼ぶことにする。そして、その直近の動向を紹介していこうというのが本稿の狙いである。

ジオメディア

ジオメディアは、基本的にGPS(Global Positioning System、全地球測位システム)等で位置情報を取得してサービスを組み立てる。2007年から導入された第3世代携帯電話では受信機であるGPSチップが多くの機種に搭載され、最近になってGPSチップが全搭載されているスマートフォンが普及したことで、ジオメディアがここまで注目されるようになった。広い意味でジオメディアは端末をスマートフォンに限るものではないが、こうした事情から本稿ではスマートフォンを活用したアプリ、つまり、ジオアプリをジオメディアと考えたい。

スマートフォンは、「身につけるパソコン」として現代人に不可欠な道具になりつつある。ただ、スマートフォンは単なるパソコンというより、ユーザーの動きを検知する多くのセンサーを搭載した特殊な道具といえる。例えば、「近接センサー」は、通話しようとすると耳が端末に近づいたことを赤外線等で感知し、タッチパネルディスプレイを自動的にオフに切り替え、誤作動を防いでいる。

空間情報化の観点からいうと、「加速度センサー」、「ジャイロセンサー」、「地磁気センサー(電子コンパス)」、そして準センサーとして「ロケーションセンサー」が重要である。例えば、3軸加速度センサーと3軸ジャイロ(角速度)センサーを組み合わせると、前後左右上下の計6軸でスマートフォンの動きを詳細に検出できる。「地磁気センサー(電子コンパス)」は、地球が生じている地磁気を検出して方角を算出する。また、「ロケーションセンター」は、GPSなどの測位衛星信号に加えて、携帯電話の基地局などを利用しながら現在位置を取得する。

このようにジオメディアは、スマートフォンが高精度の行動センサーとして働き、ちょっとした振る舞いから、比較的大きな移動までユーザーの動きを検知し、それに連動した様々な処理を組みあわせて新しいサービスとして提供するのである。

測位空間

しかし、ジオメディアは、スマートフォン(アプリ)だけでは成立しない。ジオアプリにとって生命線である位置情報を検知するには、屋外では米国によって提供されるGPS(全地球測位システム)という大仕掛けが必要である。同じように、GPS信号が届きにくい地下街やビル内では、Wi-Fi基地局などによる別技術による仕掛けが必要になる。このように位置情報を検知するための空間的な仕掛けが「測位空間」である。

残念ながら、現在の屋外測位空間の精度は、高いとはいえない。特に、歩行者向けのサービスを構築する際に、この精度が障害になることが多い。そこで日本でも衛星(準天頂衛星みちびき)を独自に打ち上げ、GPS信号を補完(補強)する計画を進めている。現在、打ち上げ済みのみちびき衛星は初号機のみであるが、残りの衛星の打ち上げが昨秋、閣議決定された。
 
屋外に比べ、屋内の測位空間の整備はさらに遅れている。ようやくWi-Fiを使った測位空間の整備が、空港や博物館などで始まったばかりである。特に都市生活者にとって、屋外と屋内を日常的に区別することは少ないにも関わらず、屋内はGPS、屋外はWi-Fiというように技術が分断されており、屋内外をシームレスにつなぐ測位が難しいのが現状である。JAXA(宇宙航空研究開発機構)やSPAC(衛星測位利用促進センター)は測位衛星と同じ信号を使った屋内測位技術IMES(Indoor MEssaging System)を開発し、この問題に挑戦している。

このようにジオメディアは、外部環境として「測位空間」が用意されていなければ機能しないし、サービスの範囲や質は、測位空間の有無や精度、そして信頼性に大きく依存するのである。

地図情報

そしてもう一つ、なくてはならないのが「地図情報」である。ジオアプリの表現方法は多彩であるが、コンテンツを地層的に(水平面で)重ね合わせを行う「地図」と、風景的に(垂直面で)重ね合わせを行う「AR(Augmented Reality:拡張現実)カメラ」の二つが中心である。ただ、測位空間の精度が確保しにくい状況では、どうしても「地図」の信頼性が高くなる。

ジオアプリが扱う地図は、旧来の紙ベースの地図、つまり固定的な地図と比べるとコンテンツが極めて動的であることに特徴がある。
現在、あるゆるデジタルコンテンツに緯度・経度・高度という位置情報が付与されつつある。チェックインしたり、ツイートしたり、デジタルカメラで写真を撮ったりしても、それぞれのコンテンツには位置情報が付与される。こうして日々増殖するコンテンツの多くが次々と地図上に表示される。

このため、ジオメディアの地図は、静的なベースマップの上に、動的なコンテンツマップを重ね合わせて作られることが多い。それぞれの要素地図は別々に管理運営され、サーバーからローカルへの経路構成まで異なることもある。
最近では、当事者がコンテンツを持ち寄って自由に地図を作り、それを共有するOSM(Open Street Map)というプロジェクトが話題になっている。そもそも地図は時空を越えた多くの当事者の共有空間情報であり、協働と共有を促すOSMは空間情報化の進展とともに現れた地図の本来性に回帰する新しい動きとも考えられる。

緯度と経度が付与されて増殖するコンテンツ。それは、あたかも地球表面にすべてのデジタルコンテンツが振り分けらて格納されていき、時間の経過とともに、まるでコンテンツが地層のように堆積していくとイメージできる。ARカメラを目前の地表面にかざせば、地層に隠れていたコンテンツが視覚的に浮かび上がってくるとイメージを拡げることもできる。

こうした変化が地図の概念や構成を変え、測位空間が世界を覆うことを前提に地図の精度も確保されつつある。地図のあり方も大きく変化しつつある。

三つの空間情報化

「ジオアプリ」としてのスマートフォン。それを実空間で下支える「測位空間」。データベースとしての「地図情報」。空間情報化は三位一体で進み、ユーザー一人ひとりの行動に連動した思いもよらぬサービスを出現させていくのである。

本稿では、それぞれの技術領域で展開されている先進的な事例を追いながら、最前線の様子をリポートするとともに、来るべき空間情報社会について想いを巡らせてみたい。

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