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ソフトバンクモバイル解約金訴訟の判決文を読む

2012.11.23

Updated by Asako Itagaki on November 23, 2012, 18:34 pm JST

11月20日、特定非営利活動法人京都消費者契約ネットワーク(以下KCCN)によるソフトバンクモバイル(以下SBM)を相手取った解約料条項使用差止請求訴訟の第一審判決が京都地方裁判所で言い渡された。原告の請求は棄却され、SBMのホワイトプランN(現在、ウェブサイト等では「ホワイトプラン」として表示されている、2年契約を前提とした料金プラン※)の解約金条項については、消費者契約法には反しないという内容である。

先にNTTドコモ(以下ドコモ)、KDDIに対する同様の条項の使用差止請求では、ドコモに対しては原告の請求を棄却し、KDDIに対しては原告の主張を一部認めるという判決であった。今回の対SBM訴訟の判決内容はこれらとどこが異なり、どのような根拠で判決が下されたのかを、KCCNのウェブサイトに掲載された判決文[PDF]に沿って読み解いていく。

なお、文中引用するドコモ、KDDIのケースについて、詳細は以前掲載したこちらの記事を参照されたい。

※注:ホワイトプラン:ソフトバンク契約回線(ディズニー・モバイル契約回線、iPhone 3G及びプリペイド契約を含む)への音声通話(1時~21時までの時間帯限定)およびがソフトバンクユーザー同士のメール送受信が無料となる音声通話定額プラン。2007年に提供開始された最初のホワイトプランでは付帯条件は一切なかったが、2010年4月26日の改訂以降は「ホワイトプランN」として2年契約が必須となった。本訴訟で争われている解約料条項は、ホワイトプランNの契約に付帯するもの。なお、ホワイトプランNは、2012年11月現在、SBMのウェブサイト等で「ホワイトプラン」として案内されているが、本稿では2007年から2010年4月26日までの2年縛りの無いホワイトプランを「旧ホワイトプラン」、2010年4月26日以降のホワイトプランを「ホワイトプランN」と記載し区別している。

結局、何が違ったのか

前回同様、長くなるので結論を先に箇条書きにしておく。

  • 「解約金条項は違約金もしくは解約に伴う損害賠償にあたるため、その金額が適切かどうかによって有効か無効かは決まる」という点では、今回の判決も対ドコモ・対KDDIとと同様。
  • SBMの「平均的な損害」の算出方法は、ドコモともKDDIとも異なる。解約後契約期間満了(2年)までの期間に得られるはずだった料金のうち、基本料金・月ぎめオプション料金等の固定料金のみを基準として算出する。
  • 2年経過後契約更新後の解約金については、対ドコモ・対KDDIと同様に有効。

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ドコモともKDDIとも違う、SBMの「想定損害額」算出法

 今回の訴訟の争点は、ドコモ・KDDIの場合と同様、大きくは以下の4つになる。

(1)解約金が消費者契約法第9条第1号の適用を受ける「契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」にあてはまるか
(2)当てはまる場合その金額(9,975円)は同種契約の解除時に生じる平均的な損害額を超えていないか
(3)この条項が消費者契約法第10条に定める「消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する消費者契約の条項」にあてはまるか、その場合後段の「消費者の利益を一方的に害する」ものであるか
(4)2年経過後の契約更新語の解除料についての妥当性

争点(1)について判決は、解約金条項は「契約期間内の中途解約時の損害賠償の予定または違約金についての条項」にあたるとしている。したがって、次に、争点(2)、すなわち平均的な損害がいくらにあたるかを算出し、それが9,975円を超えていないかどうかを判断することになる。

解約時に生じる損害額についてのSBMの主張でドコモ、KDDIと大きく異なっていた点は、「ホワイトプランN」は2年間の契約継続を前提として「割引サービス」を提供するのではなく、多数の取引条件がパッケージとして一体化した料金プランの一つであると主張したことだ。

したがって、逸失利益算出にあたっても、ドコモ・KDDIが主張していた「契約期間中の累計割引額」はそもそも存在しない。SBMが「平均的損害」算出の根拠としたのは、「契約満了まで契約が継続した場合に期待される収入」であり、具体的には「基本料金と通話料・通信料を合算したARPUからアクセスチャージや継続手数料などの変動コストを控除した変動利益」に「平成22年4月および5月にホワイトプランNに加入した契約者の平均解約月数とに2年間との差を乗じた金額」が優に9,975円を超えるため、解約金の金額は平均的損害の金額を超えないとした。(判決文の中では、SBMの主張としてARPUの数字は明記されていない。2011年3月期決算短信によれば、SBMの2010年のARPUは4,210円となっており、KCCNはこの数字を使用している)

なお、期間として「2年間と平均解約月数の差」を基準とする理由としては、「消費者保護法第9条は事業者が消費者に請求できる解除料の総和が平均的損害の総和を上回らないために定められた条項」であり、その条件を満たしかつ「消費者に分かりやすくするため」であると主張した。

前回記事と同様に、SBMの主張を図示してみた。ドコモ、KDDIのケースはこちらを参照。

▼「平均的な損害」算出方法についてのSBMの主張  ※ARPUの4,210円については参考までに記入
201211231830-1.jpg

なお、これに対するKCCN側の主張は以下の通り。

  • 解約後の損害については、サービスを提供しなくてもよくなるのであるから、実損害は生じず、逸失利益の考慮は許されない。逸失利益の考慮がたとえ許されるとしても、事業者の「平均的な損害」に逸失利益が含まれるのは、解約された契約が他の契約で代替・転用される可能性がない場合に限られる。携帯電話の契約は1人の顧客が解約したとしてもすぐに別の顧客の契約で代替して利益を得られるものであり、「平均的な損害」に含まれる逸失利益は存在しない。(図中①)
  • また仮に逸失利益を認めるとして、「平均的な損害」の算出については、「解約までの契約期間によって生じる『平均的な損害』」が異なるため、顧客を総体としてとらえて「平均」とすべきではなく、契約期間1か月ごとに算出すべきであるとしており、具体的には23か月め、24か月めについては解除料が平均的損害を上回るとしている。(図中②)

▼「平均的な損害」算出方法についてのKCCNの主張
201211231830-2.jpg

また、KCCNは、2010年4月26日以前の旧ホワイトプランが解約金条項を入れていなかったことも「解約により損害は発生していない」と主張する根拠としている。これに対してSBMは、料金プランの位置内容を構成する解除料の金額設定については、取引条件全体を勘案した経営判断の変化によるものであり、既に提供されていない旧ホワイトプランとホワイトプランNを比較する合理性はないと主張している。
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ARPUのうち「固定料金」についてのみ損害を認定

両社の主張を受け、「平均的な損害」について、京都地裁は以下のように判断している。

  • 逸失利益の考慮については、民法の原則上考慮が許されない理由が無い。また、他者との契約代替性についても、本件契約は中途解約した者の損害を他者の契約締結で埋め合わせることはできない契約というべきであり、代替できるとはいえない。旧ホワイトプランの規定とホワイトプランNの契約解除で損害が発生するか否かは直接の関係がない。以上より、損害が発生していないとする原告の主張は認められない。継続的な取引が予定されていた場合にはその期間中の収益を前提に契約内容が決せられているのであり、途中で解約された場合には、解約時から契約満了までに得られたであろう利益が損害として考慮されるべきである。
  • 「平均的期間」については、消費者保護の観点からみて著しく不当である場合を除いて、解除条項で定めた区分ごとに定めるべきである。本件の場合は、契約が「2年間」を平均的損害を算定するための区分として、2年と平均解約期間の差(契約残期間)を用いることが妥当。
  • したがって、ホワイトプランNを解約した場合の平均的損害は、SBMの逸失利益に契約残期間をかけたものになる。
  • ただし、SBMが「逸失利益」算出の根拠として主張しているARPUのうち、変動要素である通話料・データ通信料については2年間存続することを前提とするのは妥当ではなく、認められるのは、基本料使用料、オプション料、保障料金などの固定的な費用のみ。具体的には、ホワイトプランNの基本料金、Wホワイト、あんしん保証パックの合計金額から、契約解除により必要がなくなるコストを引いた金額となる。
  • 上記より算出した金額は12.964円となり(筆者注:算出根拠となっている月額損害額と残契約期間について、KCCNのウェブサイト上に掲載された判決文では黒塗りされているため不明)、通信料等を除外してもなお9,975円を上回っており、解除料条項は消費者契約法9条1号には反しない。

▼「平均的損害」についての裁判所の判断(ドコモ・KDDIのケースはこちらを参照)
201211231830-3.jpg

また、他の争点についての判断は以下の通りである。

  • 争点(3)消費者契約法第10条への該当について:確かに解約金条項は消費者契約法第十条前段の「消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する消費者契約の条項」にあてはまるが、ホワイトプランNは他のプランに比べて安く、また2年経過後の無料期間が付与されているなど消費者も利益を受けている、更新月以外には契約解除料がかかることが契約時に説明され、契約時には同意していること、また、他のプランを選択することも可能であること等から、解除条項は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するとは言えず、第十条後段の要件を満たさない。したがって、無効とはならない。
  • 争点(4)契約更新時の解約金条項の無効について:契約更新といっても新たに2年間の契約を結びなおすのと同じことで、平均的な損害の算出についても同様に考えられるので、解約金条項の有効性についても同様である。

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判断を分けた3つのポイント

前回の記事も踏まえ、3つの判決を比べると、解約金条項に対する有効性についての判断と「平均的な損害」を基準に条項の有効性を判定するところまで3つの判決は共通している。ただし、「平均的な損害」の算出方法については、3つの判決それぞれで異なった判断が下されている。

▼「平均的な損害」の算出方法比較
201211231830-4.jpg

つまり、利用者から見れば同じように見える「"安い代わりに2年縛り"の契約を途中解約した時にかかる費用」の算出根拠に対する、司法の判断が異なっているのである。そうなった理由は3社それぞれが解約金条項の正当性の根拠となる「平均的な損害」の算出について異なる主張をしていたからだ。解約金条項を設定することそのものに問題がなければ、その契約の有効性を判定するのは金額の妥当性だけであり、算出根拠については法外な金額にならなければ「自由意思に基づく契約なので、当事者の主張を尊重してその妥当性を判断した」ということなのだろう。

しかし、一利用者の立場から筆者の個人的な感想を述べるなら、「民事訴訟とはこういうものだと言われればそうなのかもしれないが、3社横並びの解約料が全く違う根拠でそれぞれ決まっている現状は、正直、釈然としない」という思いである。

KCCNでは、対SBM訴訟についても判決を不当判決であるとして、「①解約後の逸失利益を損害とする不当なものであること、②逸失利益の計算方法が不当に高額となっていること、などを理由として控訴をし、控訴審で同条項の不当性について再度裁判所に審査してもらう予定です」(事務局長コメント)としている。対ドコモ、KDDIの訴訟と同様、本件についても上級審で争われることになるが、今後この3つの訴訟がどうなるのか、今後も注視していきたい。

【参照情報】
適格消費者団体 京都消費者契約ネットワーク(KCCN)
ホワイトプラン | ソフトバンクモバイル
ホワイトプラン(Wikipedia) ※旧ホワイトプランの概要について参照
ソフトバンクモバイル 平成23年3月期 決算短信 [PDF]
解約金訴訟の第一審判決:ドコモとKDDIの違い

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。