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いま東京から西に向かう新幹線「のぞみ」の中でこれを書いています。あらかじめ指定席を取っていたので良かったのですが、帰省というのは体力を使うものですよね。車内で寝ると決めている時以外は、私はこういうときはエナジードリンクを飲みます。ここ最近は、もう一仕事ってときは「MONSTER」を飲むことが多かったのですが、いつもは大体「Red Bull」を飲みます。「Red Bull」はすっかり市民権を得た感じがしますが、日本での歴史は比較的浅くて2005年からでした。

それまで日本の栄養ドリンク市場は「リポビタンD」のような医薬部外品、「オロナミンC」「REAL GOLD」のような炭酸飲料のメガブランドで市場シェアは占められていました。成分的には医薬部外品にカテゴリーわけされてもおかしくない「RedBull」ですが、"炭酸が含まれている"ためにその扱いを受けることができず、炭酸飲料として発売することになり、法律の関係でリポDなどによく含まれる栄養ドリンクの主成分である「タウリン」も含有させることができませんでした(※ちなみにタウリンとはラテン語で雄牛を表す「taurus」に由来する言葉。缶に描かれている、あの赤い動物がその雄牛。マークになっている「タウリン」が含まれていないというのは、ちょっと面白い話しです)。

そこで日本参入時はまずバーやクラブといった場所で商品を展開。少しずつ口コミが広がってきたところで、セブンイレブンやファミリーマートなど「コンビニ」に販売チャネルを拡大。この頃から認知度が一気に広がっていきます(私もこの時に知りました)。250ml缶で275円。価格競争に巻き込まれにくいコンビニに商流を限定したことでブランドイメージのキープにも成功し、シェアが少しずつ上がります。そして2009年、新商品となる185ml缶を200円で発売。ついに果たせなかった医薬部外品が並ぶショーケースという本丸に、コンビニで入り込むことに成功しました。

またTVCMを主とした広告展開は取らず、スポーツやクラブイベントへの協賛、大きな缶を載せたRed Bull CarとRed Bull Girlsによる商品サンプリングなど、地道な販促を主としてここまでシェアを広げたという点も注目に値する点です。短期間でシェアを獲得できたのは、炭酸飲料での参入になったことを逆手にとってコンビニを主戦場としたことで、結果としてよりたくさんの消費者にアプローチできましたし、街頭でのサンプリングも積極的に実施できたという結果もあるでしょう。

シェア拡大はそれだけが理由ではないと思います。それまで茶色のビンが主流だった栄養ドリンクのカテゴリーにシルバー缶に青の「Red Bull」の新鮮さは際だっていました。

▼オロナミンCに似たトーンのREAL GOLDと比べると、新鮮さが際立つ。
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缶のデザインも既存ブランドとは大きく違いました。主に自販機で販売されている「リアルゴールド」と「Red Bull」で、缶に書かれているワードを比較してみましょう。

REAL GOLD シャキッと元気! エネルギーを注入 エネルギーを炸裂

Red Bull キリッと冷やして ココロ、カラダ、みなぎる

どうでしょうか。英語版の「Vitalizes body and mind」を「ココロ、カラダ、みなぎる」と訳しているのはいいセンスだと思います。そしてプルタブにある「雄牛」。細かいところまでブランド体験させるニクイ演出です(ちなみに同じ缶の大きさの「REAL GOLD」は、タブの説明書きでした)。

▼Red Bull(上)とREAL GOLD(下)のプルトップ比較。
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▼ちなみに、オロナミンC(右)も、フタでキャッチコピーを訴求している。
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こんなところが既存のメガブランドとは違うポジションを確立している感じがしませんか?同じ180ml缶で、120円と200円。いまほとんどのコンビニに並んでいるのは1.6倍の価格の「Red Bull」です。さて、この80円差を払ってでも買われているのは、なんでしょう。もちろん成分の差もありますが、それだけではない気がします。

とまぁ、ここまで栄養ドリンクのことを書いてきましたが、これってスマートフォンの世界でも似たようなことが起きていると思うんですね。それまでのケータイの世界では2つ折りのN、フリップやスライドのD、らくらくのF、カメラのSHといったメガブランドがたくさんいました。そこに戦いを挑んだLGやSamsung、NOKIAは決してよい成績を収められませんでしたが、舞台がスマートフォンに変わってから役者の姿が一変。Samsung、そしてLG、HTCといった海外勢が活躍するようになりました。

Androidという同じ舞台。技術力の差もさることながら、出来ることが同じスマートフォンだからこそ「プロモーション」や「ブランディング」といったマーケティングの差が、そのままブランド力の差につながっている印象です。なにせ日本メーカーはここが苦手だし弱い。お金もかけていません。かけたとしてもTVCMの枠を買うのに使ってしまっている印象です。

29日から国際展示場ではじまったコミケ83。その近くにあるローソンの飲料ショーケースにずらっと並ぶ「Red Bull」。この写真を見て、こんなことを思った年末でした。みなさん、よいお年をお迎えください!

 
文・長尾 彰一(通信・IT系コンサルタント)

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