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Kindleで本を売ってみて気がついたこと(1)

2013.01.25

Updated by Mayumi Tanimoto on January 25, 2013, 08:39 am JST

1月10日に朝日出版様より拙著「ノマドと社畜」を出版させて頂きました。

先日東京FMのタイムラインという番組に出演しキャリアポルノに関してコメントさせて頂いたのでそのタイミングと合わせて急遽出版となったわけですが、出版に際して色々と面白いことに気がつきました。

この拙著、元々Twitterで書いたことに加筆修正した物なので(なので短いという苦情がありますが、450円なのでそこはご勘弁を)「とりあえず電子書籍で出してみましょうか?」ということで、朝日出版社の方々と電子書籍にすることにしたのですが、「紙の本なしで最初から電子書籍」=「ボーンデジタル」というのは、日本では殆ど例がないらしいのです。

英語圏では最初が電子、電子版しかない、というのが当たり前になってきているので、「ああ、日本だと珍しいと思われるのか」と驚いた次第です。

英語圏だと、例えば昨年の大ベストセラーである中年&熟年向けヤオイ本「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」(やっと日本語版が出ましたね。日本ではあんまり注目されてない様ですが、まあ日本の官能小説の方がレベルが高いので。。。)は元々電子書籍でありました。

さらに、英語圏だと、学術論文など電子版しかないという場合が少なくありませんし。学術論文は世界中の人が読むし、紙は場所を取るし(図書館や学者の家の。保管代だってバカになりません)、データベースに格納して使うのが当たり前なので、ボーンデジタルが当たり前です。

次に驚いたのは、日本では電子書籍が全然普及してないらしい、ということです。販売を開始してからTwitterで様々なコメントを頂きましたが、その多くが

「買い方がわからない」
「初めて電子書籍を買った」
「電子書籍を読んでみたが悪くない」

と言った物でした。コメントして来た方々の多くは、iPhoneやタブレットPC、Kindleを既に持っており、Twitterを使いこなしている方や、通信&IT業界の方が少なくないのにも関わらず、です。なんだか意外でした。自分の場合は、月に20冊ぐらいポチってしまうので、「えー買ったことがない人がいるわけ?IT業界の人なのに?」と驚きました。英語圏だと、Twitterなどのソーシャルメディアを使いこなしている人の多くは電子書籍もばんばん買っているので、日本と外とのタイムラグを感じた次第です。アメリカでKindleが売り出されたのは2007年でもう五年も前の話なので、Kindleがなかった日本ではなじみがない方が多いのも仕方がないのかもしれません。しかし、なんだか、紙を見たことがない人と喋っている感覚です。

さらに、数多く寄せられたコメントに

「普段本を読まないんだけど買ってみました」
「ついでに他の電子書籍も買ってみたら面白かった」

というのが目立ちました。

KindleやiPhone、iPad、AndroidのKindleアプリで電子書籍を買う、という行為は、アプリやゲームを買う行為に近いので、「本を買う」という感覚と違うので、気軽に買ってみようかなという気になる人が少なくない様です。確かに、本屋に行くのに比べたら時間も手間もかかりませんね。さらに、読書自体も「ウェブの延長を読む」という感覚に近いので、普段は本を読まない人が、Kindleをきっかけに電子書籍を買って読む様になるのかもしれません。本を読むというよりも、ウェブのコンテンツにお金を払う感覚ですね。普段、タブレットやスマートフォンやPCのモニタで大量に字を読んでいるのだから、抵抗がないのかも、です。

「本を読まなかった人が電子書籍で読書に目覚める」というのを、イギリスのデータが証明しています。

イギリスは2012年後半の時点で電子書籍が書籍市場の12.9%です。2011年は7.2%だったので、一年で1.7倍になっています。なお、紙の書籍の市場は少々縮小しましたが、電子書籍の伸びが市場を牽引し、市場全体では2012年は2011年二比べて6%増加しています。景気がどん底といわれ、他の業界は縮小しまくっているというのに、伸びているという所は注目すべきでありましょう。ちなみに、イギリスでは2011年8月にはAmazonでのKindle本の販売が紙の本を超えています。また、Kindleで本を買い始めた人は、所有前に比べて4倍の量の本を買い、同時に紙の本も買い続けています。つまり、読書習慣があまりなかった人も、Kindleをきっかけに本を買う様になり、元々本好きだった人はもっと買う様になった、ということかのかもしれません。

ちなみに、拙著は、電子書籍としてスマフォやタブレットで気軽に読んで頂くことを想定しているので、説明やデータを省いて要点だけ書いてあるので分量短めです。1時間ぐらいで読むことができます。大学生さんや高校生さん、20代前半と思われる読者の方は「ちょうど良い分量でした」「電子書籍ってこれぐらいが丁度いいかも」「スマフォだから丁度いい」というコメントを頂いているのですが、もうちょっと上の世代らしき方々からは、「量が少ない」というコメントを頂きました。

物心ついた時からネットがある世代の若い人達は、オンラインで文章を読むことがデフォルトになっているので、短い分量の方が心地よいみたいです。ちょっとした世代差を感じて面白いなと思いました。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。