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障がいを持つ子供たちの生活の中にモバイル端末を~「魔法のじゅうたんプロジェクト」成果報告会

2013.01.29

Updated by Asako Itagaki on January 29, 2013, 02:17 am JST

1月26日、東京大学先端科学技術研究センターENOSホールにて、携帯情報端末を活用した障がい児の学習・生活支援を行う事例研究プロジェク「魔法のじゅうたんプロジェクト」の成果報告会が開催された。

「魔法のじゅうたんプロジェクト」は、東京大学先端科学技術研究センターとソフトバンクグループが行っている、携帯電話、スマートフォン等の情報端末活用が障がいを持つ子供たちの生活や学習支援に役立つことを目指した、2012年4月から2013年3月までのプロジェクト。2009年から始まった「あきちゃんの魔法のポケットプロジェクト」(以下「魔法のポケット」)、2011年度の「魔法のふでばこプロジェクト」(以下「魔法のふでばこ」)に続く「魔法のプロジェクト」第3期となる。

公募により選ばれた特別支援学校、小中学校・高等学校の特別支援学級、障害者職業能力訓練校、障害者職業能力開発校の実証校により、「魔法のポケット」では携帯電話を使用した学習支援、「魔法のふでばこ」では、タブレットを使った学習支援を中心に活用事例研究がおこなわれてきた。いずれも学習支援に重点が置かれていたのに対し、「魔法のじゅうたん」プロジェクトでは、「モバイル端末と生活」をテーマに、モバイル端末を校内だけでなく校外へ持ち出すことまで視野に入れた取り組みに発展させたいという趣旨で行われた。

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肌身離さず持つことでモバイル端末は「個人の能力の延長」になる

20130128-nakamura.jpg「これからの特別支援教育」と題した基調講演に立った東京大学先端科学技術研究センターの中邑 賢龍教授(写真)は、タブレットを使った教育について、「使い方を教えるのではなく、子供の能力の一部として組み込むこと」「必要な子供に与えること」が大切だと述べると共に、タブレットとPCの違いは「個人が常に携帯することで、子供の能力を拡大できること」であると指摘。タブレットは、子供ではなく教育を変えるツールであるとした。

すなわちそれは、「能力とは何か?」という定義を問題にすることになる。ハンディキャップのある人に対しては「合理的な配慮」を当然のものとすることが、多様性の拡大につながる。特別支援教育の役割は、普通教育の合間にできないことをできるようにする「訓練」ではなく、ツールで苦手を補うことであり、それがマイノリティを受け入れる教育と社会につながっていく。

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「不登校の増加は多様な子供を受け入れない教育に問題がある」「働かない人の増加は、多様な能力を吸収しえない社会に問題がある」とする中邑教授は、「マイノリティを積極的に取り込むダイバーシティ社会が、イノベーションを生み、日本を活性化する」と述べ、魔法のプロジェクトはその実現の契機になると位置づけた。

「iPhoneで心の眼が開いた」

報告会では、全国51校の実践校から、8校が成果報告のプレゼンテーションを行った。その中からかいつまんで紹介する。

京都市の4校を代表して報告した京都市立東総合支援学校では、発達遅滞でコミュニケーションが苦手な高等部3年生女子に、校外学習で「自分がやりたいことを考え、iPadで調べて、計画通りに行動する」という課題を与えた。タウン情報誌を見ながらiPadでやりたいこと、行きたい場所を決め、マップアプリと乗換案内で行程表を自分で作成し、当日はGPSを使って、駅から目的地までを自分で歩くことができた。

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大阪府立視覚支援学校の報告は、実際にiPhoneを使っていた全盲の生徒によるものであった。iPhoneのアプリを使った金環日食の観測と、GPS機能を用いて、行ったことがない場所への移動を介助無しで行ったことを報告した。「目が見えないとできないことをiPhone1台で実現できたことは、心の眼(まなこ)が開いた実感がある」という生徒本人の言葉は、まさに「能力を拡大する」というモバイル端末の大きな可能性を示したものだと言えるだろう。

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中邑教授のリクエストで、日食観測に使ったアプリ「Color Identifier」と「Light Detector」で、発表時に身に着けていたネクタイの色を「見て」いるところ。「壇上が暗いですね」と言いながらも、ネクタイのストライプをしっかりと見分けていた。

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一方で、「学校の外に香川県立高松養護学校の発表では、「学校の外に持ち出すことのむずかしさ」が率直に語られた。

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学校内でモバイル機器を使った活動をするにあたっては、さまざまな要素をパズルのように組み上げてやってきたのに、学校よりも格段にコントロールの効かない校外の活動に取り込むことで、これまでやってきたことが崩れてしまうのではないかという恐れを現場では感じていた。結局、「その場でパズルのピースを探しながら活動をくみ上げていくしかない」「そのためには、保護者の協力が不可欠になる」ということで、保護者の学習支援にもiPadを活用した例が報告された。

学外の子供の生活に対して、保護者の果たす役割は大きい。モバイル機器を子供の能力の一部とするためには、学習会などによる保護者の支援が重要であることは、多くの実践校が指摘した。

当事者が声をあげることの重要性

最後のパネルディスカッション「特別支援教育におけるICT活用~実証研究を通して~」でも、学校の外に持ち出すことのむずかしさに加えて、学校の中で起こる「こんなはずじゃなかった」に対応するにはどうするかが話題となった。「ひとりに1台」は魔法のプロジェクトの大きな目的だが、「なぜこの子だけなのか、ひとりでいいのか」という反論が必ず校内から起こるので、周囲を説得するための下地作りが必要である。

学校の先生が変わらないなら、親子でやるしかないと、各地で保護者を対象とした学習会や、親から学校に働きかける活動が行われていることが報告された。本人と支援者である当事者が、支援の必要性と権利を当然のものとして、声をあげて主張する「アドボケイト(advocate)」の重要性が指摘された。

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【関連サイト】
魔法のプロジェクト | 障がいを持つ子どものためのモバイル端末活用事例研究

2013年度は「魔法のランプ」プロジェクト

1月21日から申し込み受付を開始している。貸し出し期間は2013年4月から2014年3月末までの1年間。協力校には、校内や地域でICT活用セミナーや研修会の実施を推奨し、活用事例の啓発や普及を目指す。

東大とソフトバンク、ICTで障がい児を支援するプロジェクト

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。