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挑戦権を得たファーウェイがスベらないために

2013.03.04

Updated by Tatsuya Kurosaka on March 4, 2013, 21:37 pm JST

私のバルセロナでの予定は、開幕前日の日曜午後に予定されている、ファーウェイの製品発表会から始まりました。お目当ては、Ascend(アセンド) P2です。

同社から提供されたプレスリリースをそのまま引用してみましょう。

「1.5 GHzクアッドコアプロセッサとLTE Cat 4対応を特長とする「Ascend P2」は、ダウンロード速度最大150 Mbps対応によって、超高速なインターネットアクセスを提供します。'Ascend P'シリーズの優れたデザインを継承するこのモデルは、薄さわずか8.4mmと超薄型で、第2世代のCorning®社のGorilla® ガラスを採用した4.7インチのインフィニティ・エッジIPS HDインセル型タッチスクリーンを搭載。カラーバリエーションは、ブラックとホワイトの2色を展開します。「Ascend P2」は2013年6月に予定されているフランスの通信事業者Orangeからの発売をはじめ、 2013年第2四半期頃、全世界で発売される予定です。」

うーん、おなかいっぱい。しかしここに示されているのは、あくまでスペック中心の話です。新しい高性能端末を手にして、彼らはどんなライフスタイル提案をしてくるのか、そこに関心がありました。

会場となったのは、バルセロナの海側にある、Casa Llotja de Marという立派な施設。しかしここには見覚えがあります。もちろんこれまで他社も多く使っているのですが、私の中で鮮烈な記憶として残っているのは、2年前のMWC2011におけるノキアのプレスカンファレンスです(関連記事)。

▼プレスカンファレンスの会場となったCasa Llotja de Mar。
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2年前のカンファレンスで、ノキアはWindowsPhoneへの全面的な移行を発表しました。その場ではラインナップも含めて準備不足だったため、シンビアンへの郷愁の残る一部のジャーナリストやアナリストなどからは、かなり強い口調で批判がなされていたのを、よく覚えています。

さて今回のファーウェイは、どんな発表をしてくるのか--そんなことを考えていたのですが、関係者の皆様には大変申し訳ないものの、かなりスベっていたと感じています。正直、ノキアの時のような怒号も、ありませんでした。

スペックは前述の通り十分以上です。ここまでの製品を開発できる日本メーカーはもはや皆無ではないでしょうか。Android陣営の頂点に位置するサムスン電子に対して、挑戦権を得たプレイヤーとして、立派な製品を出してきたというのが偽らざる印象です。MWC会場のブースで、改めて触ってみても、同じ印象でした。

しかし、ファーウェイ・デバイス会長兼コンシューマー向け事業最高経営責任者のリチャード・ユー氏の熱弁を聞けば聞くほど、「...で?」という思いが去来してしまったのを、ここに告白いたします。ユーさん、ごめんなさい。でも海外勢も含めた周囲のジャーナリストやアナリスト衆が、異口同音にそんな印象だったのも、事実なのです。

▼ 熱弁を振るうリチャード・ユー氏
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スペックがよすぎたのが一因かもしれません。どこかツッコミの余地が残っていれば、「えへへ」という空気があったでしょう。しかし今回同社が出してきた端末は、かなりの出来映えです。だからこそ、消費者に対するライフスタイル提案の欠如が、目立ってしまったようにも思えます。

また、スマートフォンというパラダイムの成熟(という名の限界)に、彼らも直面しているということかもしれません。はっきり言って、新しい商品を出されても、よほどのことがない限り、楽しいとは思えない。それこそこれはアップルも同じで、だからこそiPhone5がスペックを積み増した正常進化に終始したとも言えます。

そんな業界全体が踊り場を迎える中、世界市場への挑戦権を得たばかりのファーウェイに、新たな提案を求めるのは、酷といえば酷かもしれないとは思います。

しかしこれは、同社に限らず中国メーカー全般が直面する課題でもあります。今年1月に北米で開催されたCESでは、4K2Kテレビで賑わう日本メーカーとは対照的に、中国勢の客の入りが少なめだったのは、記憶に新しいところです(関連記事:昨年とは大きく違う「成熟と停滞」のCES2013 何かが大きく変わる直前の"嵐の前の静けさ"か ――ラスベガスCES会場から占う2013年【後編】:ダイヤモンドオンライン)。

もちろん、新しいパラダイム云々という「面倒な話」をスルーして、とにかく世界市場に対して安くていいものを出していく、という戦略もありえます。というより中国勢の強みはそこにあるはずです。CESにしてもMWCにしても、最先端でかっこいいコンセプトを打ち出せば、目立つは目立ちます。しかし商売はまた別の話、ということです。

むしろ私は、そういうアプローチを全面に打ち出すような声を、彼らから聞きたかったのかもしれません。わがままを言うのが先進国の消費者なのだとしたら、どうせ21世紀には国ごと没落していくのだから、そんな面倒な連中はもう相手にせず、新興国での寡占を強める--それくらい割り切った話をしてみた方が、耳目を集めた可能性はあります。

みんながみんな、かっこいいビジョンを打ち出し、具体的なエクスペリエンスに直結するコンセプトを提案してみても、出揃ったビジョンやコンセプトは似通ったものになります。そんなところで競争をする必要がないプレイヤーなのだとしたら、むしろ違う基軸を堂々と打ち出して、世界市場を揺さぶった方が、彼ららしいのではないでしょうか。

そんなことを考える私もまた、面倒でわがままな先進国の消費者なのかもしれませんが、それくらい業界全体に閉塞感が強く、またファーウェイとて(遠慮も含めて)それを打破できずに一緒に飲み込まれているような、そんな印象を受けました。

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クロサカタツヤ(くろさか・たつや)

株式会社企(くわだて)代表。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)在学中からインターネットビジネスの企画設計を手がける。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、次世代技術推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事。2007年1月に独立し、戦略立案・事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策・ M&Aなどのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。