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やがて訪れるデータ・エコノミー社会の将来像〜ビッグデータだけでは見えない情報社会の真実〜[第4回]田端信太郎氏「データがもたらしたメディアビジネスの変革」(1)

2013.03.15

Updated by on March 15, 2013, 17:00 pm JST

インターネットの登場は、メディアや広告のあり方にも大きな変化をもたらしました。起きた変化を表す象徴的なものをひとつ挙げると、広告費の変動があります。インターネットに投下された広告費は、ラジオ、雑誌そして新聞を上回り、テレビに次ぐ地位を占めるまでに至りました。

インターネットが既存のラジオや雑誌、新聞を代替している部分はあります。しかし、既存のマス媒体とインターネットとは広告としての仕組みが根本的に異なっており、単純な置き換えとなってはいません。変化自体の善し悪しは留保しますが、変化によって得るものも失われるもの、それぞれあることは確かです。

データ・エコノミー社会も、この広告の変化に読み取れる、質的変化と似た変化を世の中にもたらしているはずです。そこでの個人の情報接触はどう想定され、消費活動は今後どのように変化していくのでしょうか。メディア・広告ビジネスの視点から読み解きを試みるべく、NHN Japan(株)においてコミュニケーションサービス「LINE」の広告ビジネス開拓などを取り仕切る田端信太郎氏(執行役員 広告事業グループ長)にお話をうかがいました。

データ利用によって起こったコンテンツと広告のアンバンドル

──いろいろな場所からメディアと広告に携わられた経験から見て、いまもたらされている変化はどのように見えるのでしょうか。

201303151700-1.jpg田端氏:デジタルメディアの広告セールスの仕事をしていて思うことは、コンテンツと広告のアンバンドルが進みつつあるということです。

旧来のメディア広告の考え方から言うとコペルニクス的転回と言ってもいいようなことが起きています。過去を知っている人間としては切ない気持ちを持ちながら、変革を面白がっている自分もあり、半分半分という状態でしょうか。

なぜ、そこまでアンバンドルが進んだのか。その背景は第一に、個人を特定するデータを活用した広告のターゲティングが進んでいるということがあります。いわゆる「ビッグデータ」という議論については、私自身は正直なところ特段の思い入れを持っていないのですが、とはいえ現実としては影響を感じています。

第二に、バックヤードに大量の掲載待ち広告を持つ広告プラットフォーム事業者が現れたことです。例えば車が好きな人がとあるサイトを閲覧している時に、じゃあ車の広告を出せばなんでもいいというわけではありません。車もサイトも細分化されている以上、そのサイトの内容にフィットした車種でないと、あまり意味はない。

ここ5年くらいの蓄積でGoogleなどは、バックヤードに貯めている広告クリエイティブのデータのパターン数が一定のしきい値を突破した感じがあり、いままでの常識では「ありえない」レベルの繊細なマッチングを、アルゴリズムベースで出来るようになったと言えます。

他方で、従来型のメディアプランニングは、例えば平日朝の情報番組では7時50分くらいになると化粧品のCMが増えます。ちょうど、出勤前のOLさんが化粧をする時間に、広告を集中投下するわけです。こういう戦略は旧来型のメディアプランニングの観点でみれば、自然で正しく、王道とも言えるアプローチです。

しかし、男性である私は、やはり、こうした化粧品を買いません。あるいは、自分が絶対に買わないであろう「生理用品の広告」をテレビの前で、何度も見せられてきました。男性は生理用品なんて、買わないどころか口コミすらしない。

こういう既存の古き良き広告の世界もありながら、しかしここ2〜3年はやはりアルゴリズムによる広告が攻勢を強め、人間の営業マンが太刀打ちできない部分が確実に生まれているという感覚がありますね。

クライアントにとって、ラグジュアリーな紙媒体のメディアシートをみて、読者層の収入が高いから...と漠然と売込まれるより、サイトAとサイトBの閲覧履歴があり、単語Cでの検索行動履歴があるユーザーに絞って告知出来るという手法の方が魅力的なケースも増えています。

「これから」というより、既に起こり始めていることで、変化の傾向としては変わることはないでしょう。

──Amazonに見られる自社サイト内のレコメンドから、次のステップに来ているということでしょうか。

田端氏:Cookieの情報などのユーザーデータを持っているところと、広告クリエイティブをストックしているところ、そしてパブリッシャー(メディア)の広告スペースを束ねるところ、といった複数の企業がお互いに疎結合しつつ、うまくビジネスが回りつつあるというのはすごいことです。

先に出た生理用品のCMのような、自分が意見を述べることすらない商品の広告を見ている現実を思うと、広告産業には最適化の余地がまだまだあるな、と感じる一方で、広告とコンテンツのアンバンドルが進むに連れて、コンテンツと広告のパッケージングが解消されてしまうことや、自分が検索する単語やウェブ閲覧履歴で、自分に表示される広告が勝手に決まってしまうことに対して、問題意識がないわけではないです。

例えば、家族が共同で使用するパソコンで行動ターゲティング広告をどこまでやって許されるかという問題もありますね。リビングのパソコンを開いたら、表示される広告が「浮気調査」、「エロ」、「かつら」ばかりでは、家族不和の原因になりかねない。そういうことが起こる間際まで来ていると思います。

ここまでと正反対の話もしますが、ある商品のターゲット消費者像をうまく具体化したような、オーディエンス・データを抽出したいという時、大抵は人間のスタッフが分析したり、提案したりします。

情報を「データ」「インフォメーション」「インテリジェンス」の3つに分類した時に、結局データは「データ」でしかありません。どう付加価値をつけるかには、そこに関わる人間がセンスのよい仮説を生み出すことがやはり重要です。

巷のビッグデータ論で何となく思われているような「データを開放したら、勝手に解析が進み、ステキな結果がもたらされる」というのは幻想でしかないと思います。

現実世界では、こちらが口を酸っぱくしてデータを見ろと言っても、企業側の担当者は、自社サイトのGoogleアナリティクスさえ毎日見ないレベルが珍しくありません。そこに大きな問題が横たわっているな、と痛感します。

可能性として、機械学習などによって人間と関係ない世界でデータをさばく仕組みのほうが勝手に賢くなっていくこともないわけではありません。例えばアドエクスチェンジのなかで裁定取引をやるようなモデルなどが進む可能性ですね。これは遅かれ早かれ成立するのではないかと思います。

機械が勝手に賢くなる時代、広告やマーケティングにまつわる様々なサービスがアンバンドリングされていく時代に業界はどのように動いていくか、ということのメタファーとして、参考になるのは、先にデジタル化がもたらされた株式取引の業界だろうと想像しています。

いまや株取引の場合、人間の営業マンがわざわざ張り付くのは、かなりのお金持ち相手の場合だけになっている。そこから推測できることは10年先に単なる広告「枠」を売る「営業マン」は激しく減っている可能性があるということです。

しかし、株取引の場合でも全ての個人投資家が全てを自分で判断し、ネットで直接に発注できるわけではないので、同じように枠を売る広告の営業マンが完全にいなくなるわけではないし、変化によって発生するミッシング・リンクもいっぱいあると思います。そこは新たなビジネスチャンスとも言える。

世の中には賢い部分だけでなく、おバカな部分といいますか、心理的な抵抗感や摩擦係数としか言えないものが確実にあるし、「慣性の法則」が働くのは事実ですから、私が言ったようには変化は進まない可能性もあるとは思いますが。

──おっしゃるとおり、株取引では人間には追いつけないスピードで取引を繰り返すハイフリークエンシー取引や、あるニュースが話題のしきい値を超えると自動的に売買が発生するニュースインデックス相場が発達した現在でも、1日2〜3株しか売買が成立しないような銘柄もありますね。

※ハイフリークエンシー取引:コンピューターを使って秒間1000回以上といった高速な取引を行うことで利益を得る投資手法。

田端氏:インプットとアウトプットがどちらも貨幣によって表現され、効果測定できる証券取引のような世界では、より変化が早く進むのだと思います。しかしマーケティングや広告は、リアルな店舗での購買行動というのが最後の部分でデータから見るとブラックボックスとして横たわります。

最近、非常に有名なお酒メーカーが販売しているサプリメントの、ちょっとエグい強壮剤のバナー広告をよく見ます。ああいった、Webで需要喚起(インプット)して、ECで購入(アウトプット)する商品は、リアルな店舗で購入するものより最適化が先に進むと思います。

こういったものがリアル店舗でのマーケティングや広告の最適化を先導して地ならししていくのだろうなと思っています。

(2)データ・エコノミーをドライブするのは何か に続く

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